幼馴染みのメッセージに打ち間違い返信したらとんでもないことに

家紋武範

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幼馴染みのメッセージに打ち間違い返信したらとんでもないことに

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 俺、夕夜ゆうやとお隣の夕夏ゆうかは幼馴染みである。同い年で同じ高校に通う二年生同士だ。
 いつも一緒にいるから周りからは「付き合ってるのか?」と聞かれるが、そんなことはない。
 俺はともかく、夕夏は俺のことを弟くらいにしか思ってないのだ。

 そんな時に、トークアプリにメッセージだった。見ると夕夏から──。
 ホラね。『コンビニ行くけど何か欲しい?』だってさ。

 世話好きのお姉ちゃんみたいなヤツだ。ヤツは夏生まれ。俺は秋生まれだから、ちょっとだけお姉さん気取りは昔から変わってない。

 俺にもうちょっと押しがあればなぁ。と思いつつ、メッセージを返そうとアプリを起動する。

「はわわわわ!」

 俺は大変に慌てた。なぜなら『お菓子』と打とうとしたら『お』の予測で『お前』が出てきて、驚いた拍子に送信に指が当たってしまい、そのまま送ってしまったのだ。

『コンビニ行くけど何か欲しい?』
『お前』

 うごあ! おかしい、おかしい! お菓子だけに! 言うてる場合か!
 そもそも、コンビニには夕夏は売ってないよね。いや、そこじゃない。これじゃ、俺がいつもいつでも夕夏が欲しいって言ってるもんじゃないか。いや、そうは思ってるけど。

 慌てて消そうとするも、すでに既読。まずい。『てへへ~、お菓子って書こうとしたら予測変換で、お前になっちゃった~。あるあるだよね~』って送らなきゃ!

 俺はすぐさまアプリに入力始めた、

「えーと『てへへ~、お菓子って書こう』と……」
「どーもー、おっじゃまっしまーす!」
「あら夕夏ちゃんいらっしゃい、夕夜? 部屋にいるわよ。あーどーぞ、どーぞ」

 あわわわわわ。夕夏と母さんの声だぞ? え? 夕夏、上がってきた? つかコンビニは? 行って帰る距離じゃないよね?

 ガチャリ。

 俺の部屋のドアが開く。恐る恐るそちらを見れば、笑っている夕夏の顔。彼女は後ろ手でドアを閉めてから言う。

「そっか、そっかあ。夕夜はあたしが欲しかったか」
「いや、あの、あのね……」

「大丈夫。あたしに任せなさい」

 そう言って夕夏は俺の手からスマホを取り、視線は俺のまま机の上に置く。

 そしてそのまま、夕夏の顔が近づいてきて、俺の唇と夕夏の唇が重なって行く。

 な、なんてことだ。窓から差し込む夕焼けの光が、次第に色を失う。真っ白い世界に二人だけ。俺たち二人はその世界で唇を合わせたまま回る、回る、飛んで行く──。

 やがて夕夏の唇の柔らかさに気付く。俺たち、キスしているんだな。
 1+1=1。学校じゃ教えてくれない算数。俺たちはたった一つになって、互いに溶けて行く。

 そして俺たちは二つに戻る。互いに視線を合わせられぬまま。

「どうだった? 欲しかったもの」
「……さ、最高です」

「もう、バカね。早く言えばいいのに」
「ゴメン……」

「じゃ、もう付き合ってるって思っていいんだよね」
「う、うん」

「一緒にコンビニ行く?」
「行く!」

 俺たちは、夕日を浴びながら部屋を出た。間違って打ち込んでしまったメッセージだったけど、二人の思いが一つになって良かったと思う。
 世の中、何があるか分からないな。

 俺はコンビニでお菓子の袋を手にとってそう思った。






◇ ◇ ◇






 それから、俺たちの仲は順調。でもキス以上は進んでいない。今日は両親が旅行で、夕夏が夕飯を作ってくれると言うので、今日もキスできそうだ(ふんす)、と部屋で待っていた。

 なに作ってくれるのかなぁ、とワクワクしていると、トークアプリにメッセージが届いた。

『今日、なに食べたい?』

 おう! 今から買い物かぁ。そうだなぁ。お好み焼きなんていいんじゃないかな? 好きです。お好み焼き。
 そう思って、メッセージを送信しようと思った。

「はわわわわーぁぁああ!!」

 まただ。また指が当たって送信してしまった。『大好きなお好み焼き!』と打とうとしたら、またもや予測変換で『お好み焼き』が『お前』になってしまったのだ。

『今日、なに食べたい?』
『大好きなお前』

 いや、めっちゃまずい回答じゃん!?
 もう既読がついている。ヤバい。すぐに間違いだと送らないと!
 えーと『あ~! 『お好み焼き』って送ろうとしたら予測変換で間違って『お前』になっちゃったよぅ。でも、こういう間違いは誰にでもある。間違いを認められるって幸せなことだよねー!』、よし。これでいこう。

 俺はすぐにポチポチした。『あ~! 『お好み焼き』って送ろうと』……。

 キッ。

 玄関の開く音──。そして、無言のままの夕夏の足音が聞こえる。まずい。ヤツはすぐそばまで来ている! 早く! 早く訂正しないと!

 ガチャ。

「なによぉ。夕夜ったら、大胆な返信だね」
「あわわわわわ」

 と、彼女は窓から差し込む夕焼けの光を浴びながら、ワイシャツの第二ボタンまで開けて入ってきたのだ。

 あとわずかで、このオレンジ色の世界も、白く、真っ白に染まることが容易に想像出来、、、、、、お、おう……1+1=1……。


















 とりあえず、1+1=3にならないよう気を付けました。
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