王太子さま、侍女を正妃にするなど狂気の沙汰ですぞ!

家紋武範

文字の大きさ
上 下
3 / 12

第3話 興味なし

しおりを挟む
 クソ王太子はマギー少女の言葉に少しだけ固まったが返答した。

「ませたやつだ。寝る場所は別だ。神の祝福を得てないだろ。彼女を部屋に案内して湯浴みをさせて服を着せてやってくれ。余は寝る」

 そう言うと私たちに背中を向けて階段へと向かう。その背中にマギーはたずねた。

「殿下ー。お妃のお名前はー?」
「ああ。アメリアだ」

「服を作るのに明日、仕立屋を呼んでもよろしいですかー?」
「構わない。ただし信頼出来るところにしてくれ」

 クソ王太子はそういうと、二階の上がり口にある部屋に入ってカギをかけてしまった。ムカつく。まぁ襲われないだけでもよかったのかな?
 いやそれって無理矢理連れて来たのに、私に魅力がないってこと? そりゃ……、胸はもう少し欲しいけどさ。
 何言ってんだ私。ルイス様がいるのに。クソ王太子に手籠めにされなくてよかったじゃない。

 マギーは私の猿ぐつわを外し、縄の縛めをといてニッコリと微笑んだ。

「初めまして、お妃さま。私はマギー。どうぞよろしく」
「ええありがとうマギー。ところで出口はどこ?」

 マギーは入って来た扉を指差した。

「あちらです。裏口もございますけど、お妃さまなら正門から出るべきです」
「ありがとう。私、王宮に帰るわね」

 私は立ち上がるとマギーは見上げながら言う。

「はぁ……。王宮まで歩いて2日の道程ですし、途中にはクマも獅子も虎もでますよ」
「なんですって!?」

「あと、水辺にはワニ。大空には人食い毒コンドル」

 私はめまいがして倒れそうになった。何の因果で愛するルイス様から離されてこんなところに。

「それより、お妃さまのお世話をさせて下さい。さあお部屋にご案内します」
「お、お妃さまはやめて」

「え?」

 あどけない表情のマギー。悪い人ではなさそうなんだけど……。

「私、王太子さまに無理矢理連れて来られたの。ちゃんと婚約者もいるのよ。だからお妃なんかじゃないわ」
「はぁー。なるほど。ではアメリアさん」

「ええ。なにかしら」
「とりあえずお部屋にご案内します。それから湯浴みをして、お着替えをしましょう」

 いやそれってさっきクソ王太子が言ってたヤツそのままじゃない。まあいいか……。明日明るくなってから善後策を考えましょう。


◇◇◇◇◇


 マギーに世話をされて、その日の晩はキレイな部屋で睡眠をとった。朝起きて窓から辺りを見回す。

 マギーの言った猛獣の話はウソかもしれないと思っていたから。荷馬車の移動距離から考えても都の郊外ほどの場所だとは推測できたわ。でも確証がなかった。
 窓から見ると、回りは森と荷馬車の通れるほどの道。少し離れたところには池もある。
 二階から見れるのはこれが限界だわ。木々に囲まれて方角は太陽の位置で分かる程度ね……。

 私はため息をついた。「何故」が私の頭を激しい勢いで回転する。

 王太子さまは私とルイス様の間柄に嫉妬をしたということ? だから連れ去ってきた。そして監禁。でも嫌らしく一緒にいるわけでもない。それって、激しく恋している者のやりかたかしら? どちらかというと興味がないように思えるわ。でも「妃」と言う言葉……。
 それって私を正妻。つまり将来は第一夫人にするってこと?
 はっ。あり得ない。だって私、元奴隷だし、掃除を任されるだけの侍女よ? 王太子さまに会ったのだって片手で数えるくらいなだけだし。

 うーん。王太子さまの考えが分からない。
 でも会って話を聞いてみるべきだわ。一時的な感情だったのかも知れないし。私は王宮に帰らないと、ルイス様も迎えに来れないわけだし。


 私は部屋を出て階下にゆくと、そこには簡素なテーブルに白いクロスが引かれ、燭台には蝋燭が三本揺らめいていた。そして朝食が一人分だけ。まだ用意している段階で、マギーが忙しくキッチンとこの部屋をいったり来たりしていた。

「おはよう。マギー」
「あー! おきさき……いやいや、アメリアさん、おはようございます。さぁテーブルについていてくださいませ」

 ん? これって私の食事? 王太子さまのは?

 私は、マギーの準備する朝食が自分のものだと分かりドギマギ。こんな扱いを受けたのは初めてのことだからだ。
 本来はこんなことをして貰うスジではないのだけど、言われるがまま席に着いた。
 そこにマギーは絞りたてのミルクを提供してきた。私は飲みながらたずねる。

「あのぅ。マギー。王太子さまは? なぜ私は連れて来られたのかお話したいんだけど。まだ寝ているのかしら?」

 それにマギーは答える。

「いいえ。王太子さまはお忙しいかたです。すでに馬を駆って出て行かれました。洪水のおきそうな川の整備の監督、街道の荒れている場所の視察、辺境守備の兵士たちへ労いの演説」
「は、はぁ!?」

 なにそれ。王宮内で囁かれている王太子さまの話と随分かけ離れているわ。ははぁ、マギーにはそんなことを言って誤魔化して遊びに行ってるのね。はぁー、本当にどうしようもない人ね。取り繕ってもいつかはバレてしまうものなのに。
 まぁでも、いないならいないで王宮に帰れるのかも?

 私はマギーに話をしてみた。

「マギー。ここはどこかしら? 王宮まで遠いなんてウソでしょう? 私、王太子さまの遊びに付き合っていられる時間はないのよ。帰らないと婚約者も心配するわ」

 しかしマギーは入り口に立って抵抗した。小さいながらも両手を広げて迫力のある声で、叫んだのだ。

「いけません! 王太子さまは敵の多いお方。そのお妃を匿うということでここにあなた様を連れて、私に世話を命じたのです。王太子さまが安全を保証し、自ら王宮に連れて帰ると言ったときがあなた様の帰るときとお考え下さい!」

 ピシャリ。

 あわれ。マギーは騙されているのだわ。自分は名君だと洗脳しているのね。こんな年端のいかない子どもにそんなことを吹聴するなんて許せない。
 この子は不思議に思わないのかしら。私は昨晩縛られて連れて来られたのよ? まともな連れてこられかたじゃないわよ。山賊じゃあるまいし。
 敵なんているはずないじゃない。逆に言えば政治をしている宰相さまの邪魔ばかりをしているのは王太子さまのほうだわ。

 私はマギーの説得に試みた。

「マギー。王太子さまのお姿は山賊や船賊よ。貴族の方々はもっと煌びやかな格好をしてらっしゃるわ。それに私をここに連れて来たのも縄をかけてたじゃない。おかしいと思わない?」

 しかしマギーは平然と答えた。

「いえ。王太子さまの格好は敵を欺くお姿。そして動きやすく行動しやすいようにですわ。アメリアさんに縄をかけたのもきっと正しいお考えがあってこそです」

 ダメだ。聞く耳なんて持っちゃくれない。これは一人の手で逃げないと。考えて脱出しないといけないわ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」  そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。    私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。  ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。  その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。 「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」  お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。 「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」  

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

処理中です...