知らない小説に転生したけどスキルを使って危険を回避してみせる!

家紋武範

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第1話 知らない、小説

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「お嬢様ァ。キティお嬢様ァ。おはようごぜぇますだ」

 キティ……。誰だそれは。

 私は間近で聞こえた声で目を覚ました。するとそこにいたのはオレンジと黒を基調としたメイド服を着たソバカスだらけの使用人だった。

 辺りを見回してみると、そこは私がいた自室じゃない。
 なんだ、この洋風なお部屋。広い! そしてこのベッドもデカイ! 四人は寝れる!

 ウソでしょ? まさか私!

 私はベッドから飛び起きて大きな鏡の前にたつ。

「う、ウソでしょ?」
「どーしたんでごぜーますかお嬢様ァ」

 私じゃない!
 なんだこの黄緑色の髪は! そんで瞳の色がオレンジだわ。

 パリピ? パリピですか? パーリィーピーポーですか私は。きーもちわりー!

 なぜこうなった? 思い出せ。思い出せぇー。

①昨日、会社から帰ってきました。
②晩御飯はコンビニのスタミナ弁当。
③お酒飲みながらスマホ見てゴロゴロ。
④だるそうに風呂。つかシャワー。
⑤寝ようと思ったけど、会社の後輩女子から借りた小説を思い出して、読みながら就寝──!

 それだ! その小説の始まりが『お嬢様ァ。キティお嬢様ァ』だったぞ!?

 はふん! 私、三鷹みたか茅音かやねはその小説の中に入り込んだと?

 死んだの? 私。28歳なのに? 夭折わかじに! 若死にすぎだろ~。ひょっとしたら小説読んで寝落ちして、本が落下して口をふさいで窒息死?

 ありうる~。ちょっと酩酊気味だったもん。小説の内容、ぜんっぜん覚えてない。それに、タイトルも。『~ですわ!』しか覚えてない。

 どんな内容だった? つか本当に転生? 夢じゃない?
 頬をつねると激痛!

「痛ァ!」
「なーにやってんだべ。お嬢さまわァ」

 痛いってことは夢じゃない。これは現実。つまり小説の世界にやってきたってことだ。
 しかも前世の職業、出版社の編集者。全くこの世界で役に立つとは思えない。ガッデム!

 くぉ~、でもお嬢様って言われてるってことは私はこのソバカス田舎訛りと主従関係にあるってことだわ。
 つまりはいいとこのお嬢様。情報はお嬢様と名前がキティってことだけだ。

 あの小説では、この娘はどんなポジションなんだろうか? 冒頭からいたから主人公よね?
 主人公ってことはステキな人と恋をしてハッピーエンドぉー!

 ってそれだけに限らないわ。そもそもあの小説はラブストーリーって決まったわけじゃない。悪い女で、若作りのために若い女の血を搾り取るようなストーリーかも。怖!
 主人公だって油断は出来ない。いじめられてるストーリーかも知れないし。

 つか話の内容の分からない世界に転生ってヤバい。こういうの見たことあるけど、大抵がストーリー知ってて、悪い未来を回避するとかそういうのよね? 普通は。なんで私だけ知らない世界に放り込まれてるのよ!

 そりゃ……田舎のお婆ちゃんの墓参りサボってたわよ? 散々世話になってて、これから恩返しって時にお婆ちゃんがポックリ死。
 神様、仏様。それですか? その報いがなんの説明もないままの小説内転生とは人でなし! 神や仏が聞いて呆れる。
 いや神様、仏様を信じよう。私を主人公に転生させてうだつの上がらない独身女にチャンスをくれたと信じるべきだわ。
 そうよね神様。そうだよな仏様!
 つーかこういうのって、なにやら能力とかもらえるんじゃなかったっけ?

「どうすたんだべか、お嬢様。さっきからブツブツいいなさってェ」

 おおう、忘れてた。つまりこれが私の侍女。名前はなんだろう。
 ん? 待ってよ? 彼女の頭、両肩に文字が浮かんでる。

「ねぇその肩のものって?」
「え?」

 彼女は慌てて肩の上の埃を払うような仕草をしたが文字には無関心なようだ。
 まさか私にしか見えない……?

 えーと、『田舎娘』『田舎訛り』『純朴』『忠実』『侍女』かぁ。見た目そのまんま。でも忠実なのね。いい娘だわ。

 なんだこれ……。まるで商品の説明つーか白い荷札っつーか。まさにタグだわ。

 私は鏡で自分の姿を見てみた。しかし自分のタグは見えないみたい……。

 その時扉が開いて、図々しい感じで中年の女性が入ってきた。キレイだけど、怖そうな感じだわ。

「はいはい、キャスリン。いつまで部屋にいるつもりなの? これ以上お母様を困らせないで頂戴。ベッキー。あなたもなにをモタモタしているの」
「すいません。奥さまァ」

 そういいながら『奥さま』は扇で自分の口を隠した。怖い。

 つか私の本名キャスリンだったの? キティは略称……。難しい。
 でもなに? この人が私の母親なの? 確かに髪の色は同じ黄緑だわ。目の色は違うけど。つーか侍女はベッキーって名前なのね。おー、どんどん情報が広がっていく。
 しかし同じ髪色とはいえ実母とは限らないわ。意地悪そうだから継母なのかも?

 うん。この人の肩の上にも『タグ』が出てるわ。見てやれ。

 ええとぉ。『母親』『元侯爵の娘』『相談役』『アドバイザー』『オブザーバー』。
 あら。母親なのね。元侯爵家ってすごい。じゃ私の家も爵位は高いのかしら。でもこのお母さんが、相談役であり、監視人でもあるってことね。ああ、この世界でわからないことは教えてくれたりする人なのかも?

「キャスリン。なにをボヤボヤしているの。まったく。グズなのはお父様にそっくり」

 うーん、口が悪い。相談役なのに、そんなトゲトゲしてたら聞きにくいわよね。それにお父様って私の父よね。この人の夫……。旦那さんのこと嫌いなのかな?
 あ、まだタグがあるから見てやれ。

『娘溺愛』『旦那大好きっ嫁』『不器用』『見た目で損』

 うぉい! なんだよぅ……。本当は愛らしいキャラなのね……。悪いのは厳しい顔と口だけかぁ。でも『っ嫁』ってなんて読むの? 『っこ』? 『っか』? 『っよめ』? 難しい。

「ああん、もうモタモタしないで! ベッキー! ドレスを早く着せてあげて。肌着は厚いのを着せてね、今日は寒いわ。風邪をひいたらどうするの?」

 優しい。優しいわぁ。
 ベッキーは震えながら私をテキパキ着替えさせてくれた。そりゃ普通は怖いわよね。一応小さい声で『大丈夫よ、ベッキー』って言っといてあげた。

「ささキャスリン。ドレッサーの前に座って。お母様が髪をすいてあげるわ」

 言われるがままに鏡台の前に座ると、母は鏡台のすみに自分の扇を置いて私の髪をブラッシング。なかなか上手だわ。それに人に髪をすいてもらうの気持ちイイ~。

「ちゃんと学校でみんなと仲良くするのよ? いじめられたらいいなさい。お父様もいじめられっ子だったから心配だわ」

 ハイハイ。そんな父でも好きですよと。
 それにしても、この『タグ』が見えるのって私だけなのかしら? 神様からもらった能力なの? それともみんな見えてるのかなァ。

「ねぇお母様」
「ハイできた。どうしたの?」

 丁度髪すきが終わったらしく、鏡の中で母親と目があった。私はそのまま続ける。

「相談なんだけどぉ。私、人の肩辺りにその人の情報が見えるんだぁ」
「シー!」

 とたんに母は後ろから私の口を塞いで後ろに控えるベッキーに声をかけた。

「ベッキー。ちょっと廊下に出ててちょうだい」
「わかりましただぁ。奥さまァ」

 訛り可愛い。そんなこと思ってると扉のしまる音。どうやらベッキーは外に出たようだ。そこで母が話し始める。

「キャスリン。あなたとうとう覚醒したのね。そのオレンジの瞳はもうお亡くなりになった私のお母様、つまりあなたのおばあさまと同じ瞳。おばあさまは人の情報が肩の上に見えた。その能力を名付けて“タグ読み”とおっしゃってましたわ!」

 タグ……読み? なんかキーワードとかそういうのかしらね?
 うそ! そんな能力が! こりゃこの世界のことが分からなくてもなんとかなるのかも?

「ただし、その能力のことを誰にも言ってはいけないわ」
「どうしてですか、お、お母様」

「普通の人にはない能力です。人の秘密が見えるなど、相手は気味悪いからです。だからあなただけがそっと思っていてください」

 なるほどそうか。確かに自分の秘密が見えちゃうヤツと一緒にいたくないもんな。気持ち悪いもん。さすがアドバイザーお母様! ありがたや、ありがたや。

 その時、扉が開いて格好のよいイケオジが手を広げて現れた。

「おーキャスリン! 今日もかわいらしいぞぉ! そしていつもキレイだよ、ルビー。僕の奥さん」

 と母の頬にキスをする。

 おお! 私のお父さんね。母にキスするなんてラブラブだわ。母は『旦那大好きっ嫁』だし相思相愛よね。よし、父の情報も見ておこう。

『父親』『伯爵』『妻大好きっ夫』『娘大好き』『優しい』『おおらか』『お人好し』『損な性格』

 でた『っ夫』。読み方がわからん。でも、ふーんなるほどね。全体的に見た目通り! 情報でも性格の良さを提示してるんだから間違いないわね。他の小さいタグも見ておこう。

『妻に嫌われないかいつも不安』『最近ハゲてきた』『増毛剤を買った』

 なにやってんのよ~。大丈夫よパパ。お母さんはあなたを大好きだから。

 しかし母はベタつく父を振り払った。

「なにをなさるの!? うっとうしいわね! お止めくださる?」

 でた『不器用』な愛。それされた父は……寂しそうに笑ってる~。そうよね~。こう母にやられたら毎日不安よね。
 パパ。母の実家のほうが爵位が上なのに嫁に来てくれたんだから不安に思うことないと思うけどな……。

「大丈夫よ、お父様。お母様はお父様を深く愛してるわ」
「なっ……!?」

 とたんに赤くなる母。そして父。照れてる。かわええ。
 だが母は真っ赤になって怒った。

「キャスリン、あなた見たわね!?」
「え? ええ……」

「ダメよ、見たものを言ったりしちゃ!」

 反省する私。事情を知らない父はポカンとしていたが、母に寄り添って肩を抱いた。だが母はまた不器用に身をよじっていた。母よ……。

「お嬢様ァ。学校のお時間ですよォ」

 お。ベッキーの声。このラブラブカップルは放っておこう。
 私はベッキーに案内されるまま、逃げるように馬車に乗り込み学校へと急いだ。
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