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第6話 第二形態
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眉を吊り上げてソファにどっかりと腰を下ろして腕組み。伏見はそんな私の前に立って、私の目を見つめてきたがすぐさま私は目をそらした。
なんだっつーの。生意気なんだよ。さっきまでおどおどしてたくせに、急にやる気出しやがって。
横目に伏見がちゃっちゃと手を動かしているのが分かる。少しだけ見て見ると、こっちを見ながら手早く髪にワックスを塗って髪型を決めている。
な、な、な、なんだぁ!?
濡れたタオルで手を拭いて、鏡を持ち上げると伏見は鏡に向かってニッコリと笑う。そしてこちらを見るので慌てて目をそらした。
「どうすか? 聖子さん」
しかし答えない。どちらが主人だか教えてやらねば。私は4つも年上で先輩。コイツは昨日までダサ坊で仕事もろくに出来ないおどおど君。それが私より優位に立とうなんて──。
私の横にどっかりと座る感触。私もその反動で体を揺らすと、伏見にがっちりと肩を支えられた。
「どう? 聖子さん。こっち見てよ」
甘いささやくような声。コノヤロー。卑怯だぞ。その顔で、その声で──。
魅力的な顔になったのは認めよう。
だけど、まだダサ坊の顔が消えないうちにその気になりたくない。
うっ!
考えてたら、また強引にキスして来やがった。
なんなんだよぉ。コイツはよぉ。
顔も真剣で、上着まで脱ぎ始めやがった!
やっべえッ!
「ダメ!」
「どうして?」
「しゃ、シャワー!」
「あ、そうか。どうぞお先に。お風呂も沸いてますし」
ど、どうにか逃げることが出来た。
しかし、それも少しの間。
なんだろう。この胸のドキドキは!
なんで私、トキメイてるの?
まさか! ダサ坊に主導権を奪われたくないだけだよ。イケ顔になったら、途端に強引になりやがって。混乱するわ。
ダサくておどおどの伏見。
イケ顔で強引な伏見。
どっちがホンモノなんだよぉ~。
「聖子さん?」
「わ! な、なに?」
風呂に入ってると、脱衣所に伏見のシルエット。
それが浴室の磨りガラスのドアに映っている。
肌色──。
「一緒にはーいろ」
「ウソ!」
ここは風呂。私に逃げ場はない。伏見はドアに手をかけゆっくりと引き戸を開けた。
「おはよー。聖子。早く起きなよ。一緒に会社いこ!」
呼び捨て……。でももう気にならない。
昨日は一晩中、ずっと呼び捨てだったし。
私は眠い目を擦って、無言でヘアスタイルを直しに洗面台へ。伏見も軽い足取りで、鏡があるところでコンタクトを入れ、ヘアスタイルを決めていた。
「たっのしみだな~。聖子の作る朝食!」
昨日、ベッドの上で約束させられたんだった。つかコイツ、アホでグズだと思ってたら、きっちり約束とか条件とか付けるのうまくね?
それを仕事でやれよ。営業成績、一つでもあげてみろ。
私はベーコンエッグとグリーンサラダを作り、食パンを焼いた。軽めのブレックファースト。それを伏見へと提供する。
「わー! 美味しそう! キャッホー!」
キャラ違い過ぎね?
いや、今の顔には合ってるけどさぁ。
「あのさぁ、翼」
「なに?」
「会社ではお互いの名前呼ぶの無しね? ちゃんと苗字かいつものように先輩っていいなさい。私も伏見くんって言うから」
「えー。なんで?」
「まったく。社会のルールでしょ。例え結婚したって基本そうすることが秩序なのよ。二人の時だけ、親密に呼び合うの。いいわね」
伏見は大きな口を開けてパンを口に入れながらうなずいた。
「分かった。聖子は先生だもん。そうするよ」
「それから、今日の帰りにスーツも新しくしよう。今のは顔に合ってない。ダサいままだよ」
「そっかぁ。スーツもダメかぁ」
聞き分けのいい良い子。
スーツも仕事で必要なアイテム。
吉高係長が帰ってくる前に、仕事の一つも取ってきて欲しい。
「ウソ! なんだよ伏見、その変わり様は! やっぱり女がいいと人間って変わるんだなぁ」
そんなこと言うかもね。ざまぁ。しかしもう遅い。このスーパーマン伏見は今の私の彼氏。吉高係長が今さら私を欲しがったって──。
「聖子。やっぱり、聡美とは別れる。俺の妻になってくれー!」
って言われたらどうしよう。伏見とはまだ数日の仲。吉高さんにそう言われたらどっちを選べばいいのか分からなーい。
「聖子?」
「は! え? なに?」
「なにニヤニヤしてるの? 昨日の夜のこと?」
コイツ……。オメーもニヤニヤしてるけどな!
まぁ正直良かったわ。でも調子のんな。
教えたのは私だから。
なんでも一生懸命吸収する姿勢は認めるけどさ。
「それから、会社で私たちの仲を言うのは禁止。当然、仲良く話し掛けるのも禁止。いつも通りな感じで」
「はぁ? なんでェ? せっかく聖子とこうなれたのに。みんなに言いたいよ」
「アナタ社則見てないでしょ。社則。社内恋愛禁止。吉高係長と聡美だって、聡美の方が自主退社してからの結婚だったでしょ? 忘れたの」
「あ──……」
「昨日、今日の付き合いで私が会社やめるなんてゴメンだから。アンタだって若いんだから、心変わりがあるかも知れないし」
「そんな! 聖子のこと好きだよ。愛してるぅ!」
「どうだか」
そーよ。コイツだって男。吉高さんみたいにヤッたら捨てるとか考えてるでしょ。年下だしね。
こうやって育てても、もっとカワイイ子に言い寄られたらひょこひょこついていくかもしれないし。
コイツの性欲から考えると充分あり得るわ。
なんだっつーの。生意気なんだよ。さっきまでおどおどしてたくせに、急にやる気出しやがって。
横目に伏見がちゃっちゃと手を動かしているのが分かる。少しだけ見て見ると、こっちを見ながら手早く髪にワックスを塗って髪型を決めている。
な、な、な、なんだぁ!?
濡れたタオルで手を拭いて、鏡を持ち上げると伏見は鏡に向かってニッコリと笑う。そしてこちらを見るので慌てて目をそらした。
「どうすか? 聖子さん」
しかし答えない。どちらが主人だか教えてやらねば。私は4つも年上で先輩。コイツは昨日までダサ坊で仕事もろくに出来ないおどおど君。それが私より優位に立とうなんて──。
私の横にどっかりと座る感触。私もその反動で体を揺らすと、伏見にがっちりと肩を支えられた。
「どう? 聖子さん。こっち見てよ」
甘いささやくような声。コノヤロー。卑怯だぞ。その顔で、その声で──。
魅力的な顔になったのは認めよう。
だけど、まだダサ坊の顔が消えないうちにその気になりたくない。
うっ!
考えてたら、また強引にキスして来やがった。
なんなんだよぉ。コイツはよぉ。
顔も真剣で、上着まで脱ぎ始めやがった!
やっべえッ!
「ダメ!」
「どうして?」
「しゃ、シャワー!」
「あ、そうか。どうぞお先に。お風呂も沸いてますし」
ど、どうにか逃げることが出来た。
しかし、それも少しの間。
なんだろう。この胸のドキドキは!
なんで私、トキメイてるの?
まさか! ダサ坊に主導権を奪われたくないだけだよ。イケ顔になったら、途端に強引になりやがって。混乱するわ。
ダサくておどおどの伏見。
イケ顔で強引な伏見。
どっちがホンモノなんだよぉ~。
「聖子さん?」
「わ! な、なに?」
風呂に入ってると、脱衣所に伏見のシルエット。
それが浴室の磨りガラスのドアに映っている。
肌色──。
「一緒にはーいろ」
「ウソ!」
ここは風呂。私に逃げ場はない。伏見はドアに手をかけゆっくりと引き戸を開けた。
「おはよー。聖子。早く起きなよ。一緒に会社いこ!」
呼び捨て……。でももう気にならない。
昨日は一晩中、ずっと呼び捨てだったし。
私は眠い目を擦って、無言でヘアスタイルを直しに洗面台へ。伏見も軽い足取りで、鏡があるところでコンタクトを入れ、ヘアスタイルを決めていた。
「たっのしみだな~。聖子の作る朝食!」
昨日、ベッドの上で約束させられたんだった。つかコイツ、アホでグズだと思ってたら、きっちり約束とか条件とか付けるのうまくね?
それを仕事でやれよ。営業成績、一つでもあげてみろ。
私はベーコンエッグとグリーンサラダを作り、食パンを焼いた。軽めのブレックファースト。それを伏見へと提供する。
「わー! 美味しそう! キャッホー!」
キャラ違い過ぎね?
いや、今の顔には合ってるけどさぁ。
「あのさぁ、翼」
「なに?」
「会社ではお互いの名前呼ぶの無しね? ちゃんと苗字かいつものように先輩っていいなさい。私も伏見くんって言うから」
「えー。なんで?」
「まったく。社会のルールでしょ。例え結婚したって基本そうすることが秩序なのよ。二人の時だけ、親密に呼び合うの。いいわね」
伏見は大きな口を開けてパンを口に入れながらうなずいた。
「分かった。聖子は先生だもん。そうするよ」
「それから、今日の帰りにスーツも新しくしよう。今のは顔に合ってない。ダサいままだよ」
「そっかぁ。スーツもダメかぁ」
聞き分けのいい良い子。
スーツも仕事で必要なアイテム。
吉高係長が帰ってくる前に、仕事の一つも取ってきて欲しい。
「ウソ! なんだよ伏見、その変わり様は! やっぱり女がいいと人間って変わるんだなぁ」
そんなこと言うかもね。ざまぁ。しかしもう遅い。このスーパーマン伏見は今の私の彼氏。吉高係長が今さら私を欲しがったって──。
「聖子。やっぱり、聡美とは別れる。俺の妻になってくれー!」
って言われたらどうしよう。伏見とはまだ数日の仲。吉高さんにそう言われたらどっちを選べばいいのか分からなーい。
「聖子?」
「は! え? なに?」
「なにニヤニヤしてるの? 昨日の夜のこと?」
コイツ……。オメーもニヤニヤしてるけどな!
まぁ正直良かったわ。でも調子のんな。
教えたのは私だから。
なんでも一生懸命吸収する姿勢は認めるけどさ。
「それから、会社で私たちの仲を言うのは禁止。当然、仲良く話し掛けるのも禁止。いつも通りな感じで」
「はぁ? なんでェ? せっかく聖子とこうなれたのに。みんなに言いたいよ」
「アナタ社則見てないでしょ。社則。社内恋愛禁止。吉高係長と聡美だって、聡美の方が自主退社してからの結婚だったでしょ? 忘れたの」
「あ──……」
「昨日、今日の付き合いで私が会社やめるなんてゴメンだから。アンタだって若いんだから、心変わりがあるかも知れないし」
「そんな! 聖子のこと好きだよ。愛してるぅ!」
「どうだか」
そーよ。コイツだって男。吉高さんみたいにヤッたら捨てるとか考えてるでしょ。年下だしね。
こうやって育てても、もっとカワイイ子に言い寄られたらひょこひょこついていくかもしれないし。
コイツの性欲から考えると充分あり得るわ。
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