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最終話 青い空の下
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立花家、近野家の披露宴も終わり、鷹也と彩は子供達を連れて家路についていた。
「いいの? 会社の人達も二次会に来るんじゃない?」
「いいさ。どうせみんな支社長と飲みたくはないだろう。ご祝儀だけ置いて来た」
大きな川のある横の土手。
河原には小さなグラウンドもあり、子供達がスポーツをしていた。
鈴は式場から出ても着替えるのを嫌がってドレス姿のまま。
鷲也は逆に重いスーツを嫌がって動きやすい姿に着替えていた。
「シューヤ。かけっこしようか」
「おねいたんと」
鷲也はニコニコ笑って頷いた。
鈴は駆け足の構えをし、鷲也は指を舐めていた。
「よーい。どん!」
鈴の掛け声で二人は、小さな足をバタつかせてかけっこを始めた。
「ねぇー。ママァ! 見てぇ~。シューくん走ってるよ~。ママァ~見て!」
叫んでいるのはおぼつかない足取りで駆けている鷲也。
それを夫婦で微笑ましく見ながら鷹也が言った。
「君を一人にさせたくないしな」
「……そりゃ信用ないよ……ね」
「いやぁ。そういう意味じゃなく」
DNA検査の結果。
鷹也と鷲也の父子率は99.9999990%であった。
正真正銘鷹也の子。
その日は二人で狂ったように喜んだ。
だから、鷹也のそばには彩がいる。
そして新しい命も芽生えている。
我々の罪を無くすとするならば、生命誕生の原生生物に戻る必要がある。
光を食事とし、ただただ光合成を繰り返すだけの生物。
あるときふと、こいつを食べれば栄養になると考えたものが現れた。
簡単にとれる栄養。同胞を食事とする生命体。
それから強奪が始まった。
草食動物だろうと肉食動物だろうと他の生命を奪うことに変わりはない。
誰の罪が重く、誰の罪が軽いなどとは地球全体から見れば小さな話だ。
生きて行く為には誰かの何かを奪わなくてはならない。
だが人間には秩序がある。
生きて行く為の秩序。
奪うことは平和を脅かす。
本来であれば、一度壊れたものを修復するのは甚だ困難だ。
彩は一度犯した罪を悔いていた。
つい自分を卑下してしまう。
同等の立場になるのは心が許さないのだ。
姉弟のかけっこは、鷲也の泣き叫ぶ声で中断していた。
転んでしまったのだ。
彩はすかさずかけよろうとしたが、それを鷹也は止めた。
そこに、鈴が駆け寄って鷲也を起こしてやっていた。
鷲也は始め、鈴のせいだとののしったが、鈴は優しくその髪をなでてやると鷲也の気持ちも治まり、また立ち上がって駆け出した。
「あれでいいんだ」
「……そうだね」
「支えてくれる人がそばにいる。なんて美しいことなんだ」
「私にとってのタカちゃん?」
「そして俺のとってのアヤだ」
「でも私! タカちゃんを傷つけてしまって……ッ! ずっとずっと思ってた。このままじゃいけないんじゃないかって……。一度傷ついたものはどんなものでも痕が残るもの!」
鷹也は黙って空を指差した。
目がくらむような青空。
一つの雲もない。
そこに、一筋の飛行機雲。
まるで青い空に白い傷をつけていくように。
だが、その傷は回りの青に飲まれ、ただの青一色となった。
「今のオレの気持ちと一緒だ。なんてことはない。あの時は傷ついたが今のオレの心はこの青い空と同じように澄み切っている。アヤ。愛してる。……ずっと、君のことを」
【おしまい】
「いいの? 会社の人達も二次会に来るんじゃない?」
「いいさ。どうせみんな支社長と飲みたくはないだろう。ご祝儀だけ置いて来た」
大きな川のある横の土手。
河原には小さなグラウンドもあり、子供達がスポーツをしていた。
鈴は式場から出ても着替えるのを嫌がってドレス姿のまま。
鷲也は逆に重いスーツを嫌がって動きやすい姿に着替えていた。
「シューヤ。かけっこしようか」
「おねいたんと」
鷲也はニコニコ笑って頷いた。
鈴は駆け足の構えをし、鷲也は指を舐めていた。
「よーい。どん!」
鈴の掛け声で二人は、小さな足をバタつかせてかけっこを始めた。
「ねぇー。ママァ! 見てぇ~。シューくん走ってるよ~。ママァ~見て!」
叫んでいるのはおぼつかない足取りで駆けている鷲也。
それを夫婦で微笑ましく見ながら鷹也が言った。
「君を一人にさせたくないしな」
「……そりゃ信用ないよ……ね」
「いやぁ。そういう意味じゃなく」
DNA検査の結果。
鷹也と鷲也の父子率は99.9999990%であった。
正真正銘鷹也の子。
その日は二人で狂ったように喜んだ。
だから、鷹也のそばには彩がいる。
そして新しい命も芽生えている。
我々の罪を無くすとするならば、生命誕生の原生生物に戻る必要がある。
光を食事とし、ただただ光合成を繰り返すだけの生物。
あるときふと、こいつを食べれば栄養になると考えたものが現れた。
簡単にとれる栄養。同胞を食事とする生命体。
それから強奪が始まった。
草食動物だろうと肉食動物だろうと他の生命を奪うことに変わりはない。
誰の罪が重く、誰の罪が軽いなどとは地球全体から見れば小さな話だ。
生きて行く為には誰かの何かを奪わなくてはならない。
だが人間には秩序がある。
生きて行く為の秩序。
奪うことは平和を脅かす。
本来であれば、一度壊れたものを修復するのは甚だ困難だ。
彩は一度犯した罪を悔いていた。
つい自分を卑下してしまう。
同等の立場になるのは心が許さないのだ。
姉弟のかけっこは、鷲也の泣き叫ぶ声で中断していた。
転んでしまったのだ。
彩はすかさずかけよろうとしたが、それを鷹也は止めた。
そこに、鈴が駆け寄って鷲也を起こしてやっていた。
鷲也は始め、鈴のせいだとののしったが、鈴は優しくその髪をなでてやると鷲也の気持ちも治まり、また立ち上がって駆け出した。
「あれでいいんだ」
「……そうだね」
「支えてくれる人がそばにいる。なんて美しいことなんだ」
「私にとってのタカちゃん?」
「そして俺のとってのアヤだ」
「でも私! タカちゃんを傷つけてしまって……ッ! ずっとずっと思ってた。このままじゃいけないんじゃないかって……。一度傷ついたものはどんなものでも痕が残るもの!」
鷹也は黙って空を指差した。
目がくらむような青空。
一つの雲もない。
そこに、一筋の飛行機雲。
まるで青い空に白い傷をつけていくように。
だが、その傷は回りの青に飲まれ、ただの青一色となった。
「今のオレの気持ちと一緒だ。なんてことはない。あの時は傷ついたが今のオレの心はこの青い空と同じように澄み切っている。アヤ。愛してる。……ずっと、君のことを」
【おしまい】
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彩さんは、死のうとまで考えた事もあった。そして妊娠を知り、その子と二人で生きていこう、もう2度と結婚などせずに。と、考えていたのでは、、と、。
それを鷹さんが すべてを受け入れて、また一緒に生きようと。
それは凄い覚悟で、これからとても大変な道だと思います。
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でも、親は 子供が幸せなら、それを静かに見守り、アドバイスを求められたら、自分の意見を話す。
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