107 / 111
第107話 2度目の夜
しおりを挟む
多村家に平和が戻った。
だがこちらの二人はどうなっただろう。
近野と立花は矢間原にレンタカーの場所に送られていた。
そして、鷹也に成り代わり役員たちに挨拶をし、暇乞いをしてレンタカーを走らせていた。
田舎の道。少しばかり車幅も狭く街灯の数も少なかった。
目の前で鷹也の妻への愛情を見せられ落ち込んでいるだろう近野への立花からの配慮であった。
彼女は行くあてのないこのドライブが自分の気を紛らわすものだと気付いていた。
立花を毒づく彼女。仕事や鷹也への愛情のストレスを彼にぶつけていたのだ。
つまり彼女は立花にずっと寄りかかって甘えていた。
甘えさせてくれる男。
近野は自分の気持ちに気付いていなかった。
気付いていない振りをしていた。
だから今夜も彼に甘えて寄りかかろうとしていたのだ。
「あ~あ……」
ため息を聞こえよがしに吐く近野。だが立花は静かな微笑みを浮かべながら何も言わずに車を走らせていく。
「なに笑ってんの? 腹立つ。ムカつく」
立花に八つ当たりをするも、立花は何も言わなかった。
「どーせ。ざまぁ見ろって思ってんでしょ? そうよ。告白する前にフラれた。バカな女ですよ。アンタも見限りなよ」
「そんなこと無いですよ。バカだなんて思ってない」
「フン……。ホントにムカつく」
車は信号に捕まり停車した。走る音もなくなり、少しばかり車中が静かになった。
「アンタ、私のこと愛してるって言ったよね?」
「言いましたよ」
「だったら口説いて見せてよ。今までに無い甘い言葉で。今の私だったらコロッとイッちゃうよ」
「え?」
「ほらほら。イケメン君。今まで何人落としたの? アンタの惚れた女は男性と付き合った経験ほとんど無いし、さっきまで既婚者に惚れててフラれたからチャンスだよ」
近野はやや投げ槍に立花に言ってからかった。
腹いせだ。どんな言葉でもバカにしてやろうという気持ち。
だがそれは、立花ならと言う期待も少しばかりあってのことだった。
「じゃぁですねぇ……」
「はいはい、どうぞ」
「じゃぁ~、僕のシャトルのパイロットにならないかい?」
「は?」
「ていうのなんですけど……」
「きーーもちわり! 気持ち悪いんだけど。なんなのそれ」
「これの意味はですねぇ」
「いや聞かなくても分かるわ。どうせ下ネタでしょ?」
「どうスか?」
「いや、え~と~」
「エイト! 八回ッスか?」
「いや、無い無い無い」
「ナイン! 九回も! ……オレ、体もつかなァ~……」
「ブッ!」
おもわず近野は噴き出してしまった。
あわせて立花も笑い出す。
重苦しい気持ちが徐々にほぐれていくようだった。
「ーー~はーー。面白かった」
「ふふ。いつまでも傷心じゃカホリさんらしくないっすよ」
「だねぇ」
車は田舎道からまた街中に戻りつつあった。
「どうします? 今から探しておいたバーに行きませんか?」
「そうだね。私達の新しいホーム?」
「そう。そこもお洒落ですよ」
「ふーん。じゃその後は?」
「そうですね。朝のコーヒーを一緒に飲みましょう」
「うわ、ベタ。そしてクサ!」
そんな冗談を言い合った。
二人が夜の街に消えて行く。
彼らにとって二度目の過ごす夜。
それはとても熱いものとなった。
だがこちらの二人はどうなっただろう。
近野と立花は矢間原にレンタカーの場所に送られていた。
そして、鷹也に成り代わり役員たちに挨拶をし、暇乞いをしてレンタカーを走らせていた。
田舎の道。少しばかり車幅も狭く街灯の数も少なかった。
目の前で鷹也の妻への愛情を見せられ落ち込んでいるだろう近野への立花からの配慮であった。
彼女は行くあてのないこのドライブが自分の気を紛らわすものだと気付いていた。
立花を毒づく彼女。仕事や鷹也への愛情のストレスを彼にぶつけていたのだ。
つまり彼女は立花にずっと寄りかかって甘えていた。
甘えさせてくれる男。
近野は自分の気持ちに気付いていなかった。
気付いていない振りをしていた。
だから今夜も彼に甘えて寄りかかろうとしていたのだ。
「あ~あ……」
ため息を聞こえよがしに吐く近野。だが立花は静かな微笑みを浮かべながら何も言わずに車を走らせていく。
「なに笑ってんの? 腹立つ。ムカつく」
立花に八つ当たりをするも、立花は何も言わなかった。
「どーせ。ざまぁ見ろって思ってんでしょ? そうよ。告白する前にフラれた。バカな女ですよ。アンタも見限りなよ」
「そんなこと無いですよ。バカだなんて思ってない」
「フン……。ホントにムカつく」
車は信号に捕まり停車した。走る音もなくなり、少しばかり車中が静かになった。
「アンタ、私のこと愛してるって言ったよね?」
「言いましたよ」
「だったら口説いて見せてよ。今までに無い甘い言葉で。今の私だったらコロッとイッちゃうよ」
「え?」
「ほらほら。イケメン君。今まで何人落としたの? アンタの惚れた女は男性と付き合った経験ほとんど無いし、さっきまで既婚者に惚れててフラれたからチャンスだよ」
近野はやや投げ槍に立花に言ってからかった。
腹いせだ。どんな言葉でもバカにしてやろうという気持ち。
だがそれは、立花ならと言う期待も少しばかりあってのことだった。
「じゃぁですねぇ……」
「はいはい、どうぞ」
「じゃぁ~、僕のシャトルのパイロットにならないかい?」
「は?」
「ていうのなんですけど……」
「きーーもちわり! 気持ち悪いんだけど。なんなのそれ」
「これの意味はですねぇ」
「いや聞かなくても分かるわ。どうせ下ネタでしょ?」
「どうスか?」
「いや、え~と~」
「エイト! 八回ッスか?」
「いや、無い無い無い」
「ナイン! 九回も! ……オレ、体もつかなァ~……」
「ブッ!」
おもわず近野は噴き出してしまった。
あわせて立花も笑い出す。
重苦しい気持ちが徐々にほぐれていくようだった。
「ーー~はーー。面白かった」
「ふふ。いつまでも傷心じゃカホリさんらしくないっすよ」
「だねぇ」
車は田舎道からまた街中に戻りつつあった。
「どうします? 今から探しておいたバーに行きませんか?」
「そうだね。私達の新しいホーム?」
「そう。そこもお洒落ですよ」
「ふーん。じゃその後は?」
「そうですね。朝のコーヒーを一緒に飲みましょう」
「うわ、ベタ。そしてクサ!」
そんな冗談を言い合った。
二人が夜の街に消えて行く。
彼らにとって二度目の過ごす夜。
それはとても熱いものとなった。
0
お気に入りに追加
128
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
不倫した挙句に離婚、借金抱えた嬢にまでなってしまった私、だけど人生あきらめません!
越路遼介
大衆娯楽
山形県米沢市で夫と娘、家族3人で仲良く暮らしていた乾彩希29歳。しかし同窓会で初恋の男性と再会し、不倫関係となってしまう。それが露見して離婚、愛する娘とも離れ離れに。かつ多額の慰謝料を背負うことになった彩希は東京渋谷でデリヘル嬢へと。2年経ち、31歳となった彼女を週に何度も指名してくるタワマンに住む男、水原。彼との出会いが彩希の運命を好転させていく。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる