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第107話 2度目の夜
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多村家に平和が戻った。
だがこちらの二人はどうなっただろう。
近野と立花は矢間原にレンタカーの場所に送られていた。
そして、鷹也に成り代わり役員たちに挨拶をし、暇乞いをしてレンタカーを走らせていた。
田舎の道。少しばかり車幅も狭く街灯の数も少なかった。
目の前で鷹也の妻への愛情を見せられ落ち込んでいるだろう近野への立花からの配慮であった。
彼女は行くあてのないこのドライブが自分の気を紛らわすものだと気付いていた。
立花を毒づく彼女。仕事や鷹也への愛情のストレスを彼にぶつけていたのだ。
つまり彼女は立花にずっと寄りかかって甘えていた。
甘えさせてくれる男。
近野は自分の気持ちに気付いていなかった。
気付いていない振りをしていた。
だから今夜も彼に甘えて寄りかかろうとしていたのだ。
「あ~あ……」
ため息を聞こえよがしに吐く近野。だが立花は静かな微笑みを浮かべながら何も言わずに車を走らせていく。
「なに笑ってんの? 腹立つ。ムカつく」
立花に八つ当たりをするも、立花は何も言わなかった。
「どーせ。ざまぁ見ろって思ってんでしょ? そうよ。告白する前にフラれた。バカな女ですよ。アンタも見限りなよ」
「そんなこと無いですよ。バカだなんて思ってない」
「フン……。ホントにムカつく」
車は信号に捕まり停車した。走る音もなくなり、少しばかり車中が静かになった。
「アンタ、私のこと愛してるって言ったよね?」
「言いましたよ」
「だったら口説いて見せてよ。今までに無い甘い言葉で。今の私だったらコロッとイッちゃうよ」
「え?」
「ほらほら。イケメン君。今まで何人落としたの? アンタの惚れた女は男性と付き合った経験ほとんど無いし、さっきまで既婚者に惚れててフラれたからチャンスだよ」
近野はやや投げ槍に立花に言ってからかった。
腹いせだ。どんな言葉でもバカにしてやろうという気持ち。
だがそれは、立花ならと言う期待も少しばかりあってのことだった。
「じゃぁですねぇ……」
「はいはい、どうぞ」
「じゃぁ~、僕のシャトルのパイロットにならないかい?」
「は?」
「ていうのなんですけど……」
「きーーもちわり! 気持ち悪いんだけど。なんなのそれ」
「これの意味はですねぇ」
「いや聞かなくても分かるわ。どうせ下ネタでしょ?」
「どうスか?」
「いや、え~と~」
「エイト! 八回ッスか?」
「いや、無い無い無い」
「ナイン! 九回も! ……オレ、体もつかなァ~……」
「ブッ!」
おもわず近野は噴き出してしまった。
あわせて立花も笑い出す。
重苦しい気持ちが徐々にほぐれていくようだった。
「ーー~はーー。面白かった」
「ふふ。いつまでも傷心じゃカホリさんらしくないっすよ」
「だねぇ」
車は田舎道からまた街中に戻りつつあった。
「どうします? 今から探しておいたバーに行きませんか?」
「そうだね。私達の新しいホーム?」
「そう。そこもお洒落ですよ」
「ふーん。じゃその後は?」
「そうですね。朝のコーヒーを一緒に飲みましょう」
「うわ、ベタ。そしてクサ!」
そんな冗談を言い合った。
二人が夜の街に消えて行く。
彼らにとって二度目の過ごす夜。
それはとても熱いものとなった。
だがこちらの二人はどうなっただろう。
近野と立花は矢間原にレンタカーの場所に送られていた。
そして、鷹也に成り代わり役員たちに挨拶をし、暇乞いをしてレンタカーを走らせていた。
田舎の道。少しばかり車幅も狭く街灯の数も少なかった。
目の前で鷹也の妻への愛情を見せられ落ち込んでいるだろう近野への立花からの配慮であった。
彼女は行くあてのないこのドライブが自分の気を紛らわすものだと気付いていた。
立花を毒づく彼女。仕事や鷹也への愛情のストレスを彼にぶつけていたのだ。
つまり彼女は立花にずっと寄りかかって甘えていた。
甘えさせてくれる男。
近野は自分の気持ちに気付いていなかった。
気付いていない振りをしていた。
だから今夜も彼に甘えて寄りかかろうとしていたのだ。
「あ~あ……」
ため息を聞こえよがしに吐く近野。だが立花は静かな微笑みを浮かべながら何も言わずに車を走らせていく。
「なに笑ってんの? 腹立つ。ムカつく」
立花に八つ当たりをするも、立花は何も言わなかった。
「どーせ。ざまぁ見ろって思ってんでしょ? そうよ。告白する前にフラれた。バカな女ですよ。アンタも見限りなよ」
「そんなこと無いですよ。バカだなんて思ってない」
「フン……。ホントにムカつく」
車は信号に捕まり停車した。走る音もなくなり、少しばかり車中が静かになった。
「アンタ、私のこと愛してるって言ったよね?」
「言いましたよ」
「だったら口説いて見せてよ。今までに無い甘い言葉で。今の私だったらコロッとイッちゃうよ」
「え?」
「ほらほら。イケメン君。今まで何人落としたの? アンタの惚れた女は男性と付き合った経験ほとんど無いし、さっきまで既婚者に惚れててフラれたからチャンスだよ」
近野はやや投げ槍に立花に言ってからかった。
腹いせだ。どんな言葉でもバカにしてやろうという気持ち。
だがそれは、立花ならと言う期待も少しばかりあってのことだった。
「じゃぁですねぇ……」
「はいはい、どうぞ」
「じゃぁ~、僕のシャトルのパイロットにならないかい?」
「は?」
「ていうのなんですけど……」
「きーーもちわり! 気持ち悪いんだけど。なんなのそれ」
「これの意味はですねぇ」
「いや聞かなくても分かるわ。どうせ下ネタでしょ?」
「どうスか?」
「いや、え~と~」
「エイト! 八回ッスか?」
「いや、無い無い無い」
「ナイン! 九回も! ……オレ、体もつかなァ~……」
「ブッ!」
おもわず近野は噴き出してしまった。
あわせて立花も笑い出す。
重苦しい気持ちが徐々にほぐれていくようだった。
「ーー~はーー。面白かった」
「ふふ。いつまでも傷心じゃカホリさんらしくないっすよ」
「だねぇ」
車は田舎道からまた街中に戻りつつあった。
「どうします? 今から探しておいたバーに行きませんか?」
「そうだね。私達の新しいホーム?」
「そう。そこもお洒落ですよ」
「ふーん。じゃその後は?」
「そうですね。朝のコーヒーを一緒に飲みましょう」
「うわ、ベタ。そしてクサ!」
そんな冗談を言い合った。
二人が夜の街に消えて行く。
彼らにとって二度目の過ごす夜。
それはとても熱いものとなった。
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