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第94話 左遷?
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そんなとき、内線が鳴った。
電話の窓には「社長秘書室」。
こんな時に社長に呼ばれるとは。そう思いながら内線を取った。
「多村課長。社長がお呼びです。社長室まで来てください」
「あ。ハイ」
なんの話であろう。
しかし、春にある人事の話を前段階で話すのかも知れない。
また新しいプロジェクトの事前打ち合わせかもしれない。
そう思いながら立ち上がると、近野が近づいて来た。
「どちらへ?」
「ああ。社長に呼ばれた」
「あら? 人事ですかね?」
「たぶんな」
近野はいち早く察したらしい。
前回の課長の打診もこの時期だった。
その前に少しばかり出張させる。おそらくその出張先もついでに言うのかも知れない。
途中、自分の部の部長と、それと仲の良い二人の部長。合わせて三部長とすれ違い、通路の端に寄って頭を下げた。
「お疲れさまです!」
だが三人の部長は一瞥するも返答がない。談笑しながら去って行った。
嫌な予感がする。
社長室の方から来たからだ。おそらく自分にとって面倒な誹謗中傷をして行ったのだろうと想像した。
「でも、前に社長は約束してくれたもんな。次長だって」
社長なら約束を反故にすることはない。きっと良い話をしてくれるはずだ。
そうでないと、今の自分の心の苦しさは増すばかり。そう思いながら社長室へ向かって行った。
社長室の前には社長秘書室があり、中には三人の女性。
鷹也がノックして秘書室に入ると、一人がすぐさま受話器をとった。
社長に内線をしているのであろう。
「多村課長。社長がお会いになるそうです」
「ありがとうございます」
社長室に入ると、いつものように歓待してくれた。
笑顔で立ち上がり、鷹也の肩を両手で叩いた。
「お呼びと伺いましたが」
「ああ。まずかけたまえ」
高級なソファに腰を下ろすと社長はなんてことない仕事の雑談をした後、しばらくしてバツの悪そうな顔を浮かべた。
「前に多村には次長になってもらうといったが」
「『が』が付くんですか?」
「うむ……」
しばらくの沈黙。課長職に留任かと少しばかり思った。
やはり、先ほどの三人が中傷したのだと。
「実は知ってはいるとは思うが、他県にある会社を吸収合併するよな」
「ええ。存じております」
「多村には、そこの支社長になってもらいたい」
支社長。聞こえは良いが、本社から見れば、支社長は課長クラス。
しかも、合併した会社だ。建物は古く、いわば田舎の都市。
中央から見ればなんてことない都市だ。
「……あのう。私になにか落ち度があったでしょうか?」
「いや……」
「沢田部長と石井部長と上野部長が何か言われたのでしょうか? どれをとっても私は社益を考えて行動しております。俯仰天地に恥じることはありません。それを片田舎の支社長などと……」
普段は社長の言葉に逆らう等しない鷹也ではあったが左遷の内容だ。心が弱っていたのであろう。ついつい三部長の名前を出し食い下がってしまった。
それを社長は一喝した。
「多村!」
「……ハイ……」
「誰が何を言ったなんて関係ないんだ。君の忠誠心は私が一番知っている。この程度でお前は挫けるのか? そんなはずはない。たしかに片田舎だ。だがな、未開拓の地だ。お前の血が騒がないか? どうだ!?」
一喝といえども、叱咤激励というやつだ。
社内のくだらぬ争いもあるだろう。社長としてみれば鷹也はまだ若い。
遠い土地でその爪や牙を磨き、また帰って来て欲しいという気持ちもあった。
だからこその鼓舞激励であった。
今まで落ち込んでいたものの、鷹也の目の色が変わった。
「そう言われてみれば……。騒ぎます。騒ぎます!」
「はっはっは。小気味いいやつ。いいか。支社長と本社の次長兼務だ。会議のある際は上京してもらう」
「え? 兼務ですか?」
「当たり前だ。血が騒ぐだろ?」
「騒ぎっぱなしです」
「プッ」
「はは」
二人は膝を叩いて笑い合った。
電話の窓には「社長秘書室」。
こんな時に社長に呼ばれるとは。そう思いながら内線を取った。
「多村課長。社長がお呼びです。社長室まで来てください」
「あ。ハイ」
なんの話であろう。
しかし、春にある人事の話を前段階で話すのかも知れない。
また新しいプロジェクトの事前打ち合わせかもしれない。
そう思いながら立ち上がると、近野が近づいて来た。
「どちらへ?」
「ああ。社長に呼ばれた」
「あら? 人事ですかね?」
「たぶんな」
近野はいち早く察したらしい。
前回の課長の打診もこの時期だった。
その前に少しばかり出張させる。おそらくその出張先もついでに言うのかも知れない。
途中、自分の部の部長と、それと仲の良い二人の部長。合わせて三部長とすれ違い、通路の端に寄って頭を下げた。
「お疲れさまです!」
だが三人の部長は一瞥するも返答がない。談笑しながら去って行った。
嫌な予感がする。
社長室の方から来たからだ。おそらく自分にとって面倒な誹謗中傷をして行ったのだろうと想像した。
「でも、前に社長は約束してくれたもんな。次長だって」
社長なら約束を反故にすることはない。きっと良い話をしてくれるはずだ。
そうでないと、今の自分の心の苦しさは増すばかり。そう思いながら社長室へ向かって行った。
社長室の前には社長秘書室があり、中には三人の女性。
鷹也がノックして秘書室に入ると、一人がすぐさま受話器をとった。
社長に内線をしているのであろう。
「多村課長。社長がお会いになるそうです」
「ありがとうございます」
社長室に入ると、いつものように歓待してくれた。
笑顔で立ち上がり、鷹也の肩を両手で叩いた。
「お呼びと伺いましたが」
「ああ。まずかけたまえ」
高級なソファに腰を下ろすと社長はなんてことない仕事の雑談をした後、しばらくしてバツの悪そうな顔を浮かべた。
「前に多村には次長になってもらうといったが」
「『が』が付くんですか?」
「うむ……」
しばらくの沈黙。課長職に留任かと少しばかり思った。
やはり、先ほどの三人が中傷したのだと。
「実は知ってはいるとは思うが、他県にある会社を吸収合併するよな」
「ええ。存じております」
「多村には、そこの支社長になってもらいたい」
支社長。聞こえは良いが、本社から見れば、支社長は課長クラス。
しかも、合併した会社だ。建物は古く、いわば田舎の都市。
中央から見ればなんてことない都市だ。
「……あのう。私になにか落ち度があったでしょうか?」
「いや……」
「沢田部長と石井部長と上野部長が何か言われたのでしょうか? どれをとっても私は社益を考えて行動しております。俯仰天地に恥じることはありません。それを片田舎の支社長などと……」
普段は社長の言葉に逆らう等しない鷹也ではあったが左遷の内容だ。心が弱っていたのであろう。ついつい三部長の名前を出し食い下がってしまった。
それを社長は一喝した。
「多村!」
「……ハイ……」
「誰が何を言ったなんて関係ないんだ。君の忠誠心は私が一番知っている。この程度でお前は挫けるのか? そんなはずはない。たしかに片田舎だ。だがな、未開拓の地だ。お前の血が騒がないか? どうだ!?」
一喝といえども、叱咤激励というやつだ。
社内のくだらぬ争いもあるだろう。社長としてみれば鷹也はまだ若い。
遠い土地でその爪や牙を磨き、また帰って来て欲しいという気持ちもあった。
だからこその鼓舞激励であった。
今まで落ち込んでいたものの、鷹也の目の色が変わった。
「そう言われてみれば……。騒ぎます。騒ぎます!」
「はっはっは。小気味いいやつ。いいか。支社長と本社の次長兼務だ。会議のある際は上京してもらう」
「え? 兼務ですか?」
「当たり前だ。血が騒ぐだろ?」
「騒ぎっぱなしです」
「プッ」
「はは」
二人は膝を叩いて笑い合った。
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