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第91話 シゲルの肉親
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彼女のはシゲルを前にして、この都市に住所移転をする話を伝えた。
それには前の住所の場所の市役所に一度戻って手続きしなくてはならないこと。
ひょっとしたら保証人などが必要になるかも知れない。それをシゲルにお願いしたいと言う事だった。
「そうかい。ようやくこの土地に身を埋めてくれる気になったかい」
「はい。シゲさんのお陰です」
「あたしゃ何にもしてないよ」
そう言って彼女はコロコロと笑った。
「一緒に頑張ろう。一緒に生きて行こう」
「シゲさんが許してくれるなら」
「いーよいーよ。フフ。あんたを養子にしたい気分だよ」
「フフフ。またまた~」
楽しい会話だ。彩はシゲルを尊敬するとともに肉親のような情を感じていた。
そしていつしか、彩の旧姓の話に及んでいた。
「そうですよね。今まで名前しか言ってませんでしたね。給料袋もアヤちゃんへってお年玉みたいでしたよ」
「ふふ。お年玉かぁ~。面白い事いうねぇ。あんた」
「この紙に書きますね」
彩は近くにあったメモ帳に旧姓の漢字を書き記した。
関下 彩
「関下……」
「あら。よく『の』を入れましたね。今までの人生、ずっとセキシタって言われ続けて来たのに。初めて普通に読める人に会いましたよ。ふふ」
シゲルはゴクリと息を飲んだ。
「……アンタ、父親の名前は『邦彦』か『忠人』か『正人』ではないかい?」
突然の質問。
しかも、その中に彩の父親の名前があったのだ。
「ええ、私の死んだ父は忠人です……けど……。あれ? え? 言ってましたっけ?」
その途端、シゲルはテーブルに顔を埋めて泣き出した。
シゲルの大泣き。
彩にはその理由が分からなかった。
彩は気の毒に思い立ち上がってシゲルの背中を撫でさすろうとした時、シゲルは彩を抱いて崩れ落ちてしまった。
「なんてこった! 忠人はアタシが置き去りにした子どもだ! アンタは……アンタは、アタシの孫なんだよォ~……」
彩は最初、言葉の意味が掴めなかった。
置き去りにした子。忠人。次第にリンクする。
つまり、シゲルの三人いた子どもの一人が自分の父親だということだ。
「まさか……」
「もう忠人が死んでいたなんて! でもアンタをここに導いてくれたのはきっと忠人だ! この悪い母親に罪滅ぼしをさせようとしてくれてるんだ! なんてことだ。なんてことなんだァ~……」
「シゲさァん……」
彩もシゲルの身体を強く抱いた。
たしかに彩の父親の導きかも知れない。
そうでもなければ、この祖母に会えるなんてことはなかったであろう。
その日、二人は互いに泣き合い肉親同士、同じ部屋で眠ったのだった。
それには前の住所の場所の市役所に一度戻って手続きしなくてはならないこと。
ひょっとしたら保証人などが必要になるかも知れない。それをシゲルにお願いしたいと言う事だった。
「そうかい。ようやくこの土地に身を埋めてくれる気になったかい」
「はい。シゲさんのお陰です」
「あたしゃ何にもしてないよ」
そう言って彼女はコロコロと笑った。
「一緒に頑張ろう。一緒に生きて行こう」
「シゲさんが許してくれるなら」
「いーよいーよ。フフ。あんたを養子にしたい気分だよ」
「フフフ。またまた~」
楽しい会話だ。彩はシゲルを尊敬するとともに肉親のような情を感じていた。
そしていつしか、彩の旧姓の話に及んでいた。
「そうですよね。今まで名前しか言ってませんでしたね。給料袋もアヤちゃんへってお年玉みたいでしたよ」
「ふふ。お年玉かぁ~。面白い事いうねぇ。あんた」
「この紙に書きますね」
彩は近くにあったメモ帳に旧姓の漢字を書き記した。
関下 彩
「関下……」
「あら。よく『の』を入れましたね。今までの人生、ずっとセキシタって言われ続けて来たのに。初めて普通に読める人に会いましたよ。ふふ」
シゲルはゴクリと息を飲んだ。
「……アンタ、父親の名前は『邦彦』か『忠人』か『正人』ではないかい?」
突然の質問。
しかも、その中に彩の父親の名前があったのだ。
「ええ、私の死んだ父は忠人です……けど……。あれ? え? 言ってましたっけ?」
その途端、シゲルはテーブルに顔を埋めて泣き出した。
シゲルの大泣き。
彩にはその理由が分からなかった。
彩は気の毒に思い立ち上がってシゲルの背中を撫でさすろうとした時、シゲルは彩を抱いて崩れ落ちてしまった。
「なんてこった! 忠人はアタシが置き去りにした子どもだ! アンタは……アンタは、アタシの孫なんだよォ~……」
彩は最初、言葉の意味が掴めなかった。
置き去りにした子。忠人。次第にリンクする。
つまり、シゲルの三人いた子どもの一人が自分の父親だということだ。
「まさか……」
「もう忠人が死んでいたなんて! でもアンタをここに導いてくれたのはきっと忠人だ! この悪い母親に罪滅ぼしをさせようとしてくれてるんだ! なんてことだ。なんてことなんだァ~……」
「シゲさァん……」
彩もシゲルの身体を強く抱いた。
たしかに彩の父親の導きかも知れない。
そうでもなければ、この祖母に会えるなんてことはなかったであろう。
その日、二人は互いに泣き合い肉親同士、同じ部屋で眠ったのだった。
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