ずっと君のこと ──妻の不倫

家紋武範

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第90話 保険証

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彩は仕事の合間を見て、近所の婦人科を訪れていた。
クラミジアを再検査する為だ。

だが受付に保険証を提出する際に『はっ』と思った。

この保険証は意味をなさない。
鷹也の会社の扶養家族の保険証だ。
もう利用出来ないだろう。

しかし、受付の事務の女性はすでにそれを手にし、パソコンに向かって入力をしていた。

「あ、あの……」
「え?」

「その保険証使えます?」

受付の女性は、保険証を見て、いぶかしげに彩の顔を見直した。

「失礼ですけど、免許証か何かの身分証と生年月日をお願いします」

別な人の保険証を使っていると思われたのだ。
彩は恥ずかしそうに自分の生年月日を言いながら、免許証を差し出した。
それも書き換えしていない。『多村 彩』のまま。

受付の女性は免許証を受け取り、彩の顔を見て不思議そうな顔をした。

「ご提示ありがとうございます。保険証はまだ期限が来ていません。使えますよ?」

そう言って、彩に免許証を返却した。
彩はしばらく受付の前で固まった。

なぜ使えるのか?
鷹也は会社に離婚を報告していないのだろうか?

彩は不思議でしょうがなかった。
だが、持ち合わせを考えると10割負担を払えない可能性がある。
ここはとりあえず、鷹也が会社へ報告してないことに甘える事にした。


診察室に呼ばれ、彩は検査を受けた。
クラミジアは完治していた。

だが、医師からは別な言葉が返って来た。
それを受けて彩の表情は曇った。

「では身体を大切に。安静にしてください」
「……はい」

彩は病院からの帰り際考えた。
思えば住所の移転すらしていない。シゲルの場所に長居するつもりはなかったので、つい疎かになっていた。
ずるずると甘えていた自分だったが、この都市にしばらく厄介になるのであれば住所を移転しなくてはいけない。
免許証も書き換えなくてはならない。

もとより死ぬつもりだった。
だが今の生活はどうだ。
自分を取り戻しつつある。
死はそのうちにやってくるだろう。
ならば精一杯生きなくてはいけない。
誰にも迷惑がかからないようにキチンとしなくてはいけない。

あの時、自殺していれば鷹也にも鈴にも迷惑をかけていたに違いない。

「まったく。いつまで甘えるつもりなんだか」

彩は、シゲルの元に戻って行った。
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