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第87話 報告
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鷹也と鈴も、その都市で食事をした。
ファミリーレストランで鈴にお子様うどんを箸で細かくちぎり、ひとつずつつまんで食べさせる。鈴はその度におどけた顔をしていた。少し冷ましたポテトフライに手を伸ばしてニコニコと笑っている、そんな鈴の姿に鷹也は微笑み返していた。
小さい子のいる親の食事時間は短い。自分も冷たいサラダうどんを急いで食べた。
食事を終え、昔行ったデートスポットをしばらく歩いて回った。
公園やスーパー、アーケード街。
そうしていると、鈴はベビーバギーの上ですやすやと眠ってしまった。このままでは暑かろうと、鷹也は鈴の胸のボタンを二つばかり外して開襟させた。
そして、今日の捜索はこの辺にしようとベビーバギーを押しながら駐車場へ向かった。
寝ている鈴を助手席のチャイルドシートへ乗せ、たたんだベビーバギーをトランクに押し込んだ。
運転席に乗りエンジンをかけ、車のエアコンを調節した時、鷹也のスマートフォンが着信を告げた。
着信先は「丹高探偵事務所」。
鷹也の胸は高鳴った!
彩が見つかったのだと!
彼は声で鈴が起きるといけないと思い、車から出て電話をとった。
「もしもし! 多村ですが!」
「ああ、多村さまでございますね」
「はい! それで、どうなりました?」
「結果を申し上げますと、奥様見つかりました」
鷹也の顔がグッと笑顔に変化する。
気持ちは高揚し、スマートフォンを持っていない手を高らかに上げて足踏みした。
「ありがとうございます! ああ! よかった!」
「しかしですね」
「え?」
鷹也の動きが止まる。
「しかし」がなんのための否定か分からない。
鷹也は高く上げた手をゆっくりと下ろした。
それとともに、立てていた前髪が一つパラリと下り、嫌な汗が出てくるのも感じた。
「奥様、すでに別天地で別なパートナーさまと一緒におられるようで、探して欲しくないようでした。接触した者に捜索を打ち切ってもらいたいと、このように申されたようでして」
「……はい」
「そういうことなので、先方の希望もございまして、こちらもこれ以上何もできず、多村さまにそのままお伝えするに至りました。いかがいたしましょう?」
「……そういうことなら仕方ありませんね。今までありがとうございました。捜索費の方を請求してください」
「こちらこそお力になれずに申し訳ありませんでした」
電話を切った。そしてもう一度無言で運転席に乗り込む。
車は走り出した。
横で鈴は寝ている。頬に熱いものを感じる。それはこぼれ落ちる涙。
彩はもう自分のことも鈴のことも忘れてしまった。
憎いという気持ち。
憎いという気持ち。
しかし思い直す。親権をとれなかった彩が一生一人でいるなんてことができるだろうか。
寂しくて浮気をした彩だ。
新しいパートナーがいる。それは心のどこかで想定していたことだ。
想定していた。
自分が追い出した。
だからこそ。
だからこそ──。
鷹也は涙を拭いた。
口がへの字に曲がっているのを直した。震えた唇を。
あきらめよう。あきらめるんだ。自分が家から出したんだ。
こうなることはどこかで必然だったのかも知れない。
帰ろう。帰ろう。三人の家。いや、二人の家へ。
帰ろう。
家へ向かって──。
ファミリーレストランで鈴にお子様うどんを箸で細かくちぎり、ひとつずつつまんで食べさせる。鈴はその度におどけた顔をしていた。少し冷ましたポテトフライに手を伸ばしてニコニコと笑っている、そんな鈴の姿に鷹也は微笑み返していた。
小さい子のいる親の食事時間は短い。自分も冷たいサラダうどんを急いで食べた。
食事を終え、昔行ったデートスポットをしばらく歩いて回った。
公園やスーパー、アーケード街。
そうしていると、鈴はベビーバギーの上ですやすやと眠ってしまった。このままでは暑かろうと、鷹也は鈴の胸のボタンを二つばかり外して開襟させた。
そして、今日の捜索はこの辺にしようとベビーバギーを押しながら駐車場へ向かった。
寝ている鈴を助手席のチャイルドシートへ乗せ、たたんだベビーバギーをトランクに押し込んだ。
運転席に乗りエンジンをかけ、車のエアコンを調節した時、鷹也のスマートフォンが着信を告げた。
着信先は「丹高探偵事務所」。
鷹也の胸は高鳴った!
彩が見つかったのだと!
彼は声で鈴が起きるといけないと思い、車から出て電話をとった。
「もしもし! 多村ですが!」
「ああ、多村さまでございますね」
「はい! それで、どうなりました?」
「結果を申し上げますと、奥様見つかりました」
鷹也の顔がグッと笑顔に変化する。
気持ちは高揚し、スマートフォンを持っていない手を高らかに上げて足踏みした。
「ありがとうございます! ああ! よかった!」
「しかしですね」
「え?」
鷹也の動きが止まる。
「しかし」がなんのための否定か分からない。
鷹也は高く上げた手をゆっくりと下ろした。
それとともに、立てていた前髪が一つパラリと下り、嫌な汗が出てくるのも感じた。
「奥様、すでに別天地で別なパートナーさまと一緒におられるようで、探して欲しくないようでした。接触した者に捜索を打ち切ってもらいたいと、このように申されたようでして」
「……はい」
「そういうことなので、先方の希望もございまして、こちらもこれ以上何もできず、多村さまにそのままお伝えするに至りました。いかがいたしましょう?」
「……そういうことなら仕方ありませんね。今までありがとうございました。捜索費の方を請求してください」
「こちらこそお力になれずに申し訳ありませんでした」
電話を切った。そしてもう一度無言で運転席に乗り込む。
車は走り出した。
横で鈴は寝ている。頬に熱いものを感じる。それはこぼれ落ちる涙。
彩はもう自分のことも鈴のことも忘れてしまった。
憎いという気持ち。
憎いという気持ち。
しかし思い直す。親権をとれなかった彩が一生一人でいるなんてことができるだろうか。
寂しくて浮気をした彩だ。
新しいパートナーがいる。それは心のどこかで想定していたことだ。
想定していた。
自分が追い出した。
だからこそ。
だからこそ──。
鷹也は涙を拭いた。
口がへの字に曲がっているのを直した。震えた唇を。
あきらめよう。あきらめるんだ。自分が家から出したんだ。
こうなることはどこかで必然だったのかも知れない。
帰ろう。帰ろう。三人の家。いや、二人の家へ。
帰ろう。
家へ向かって──。
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