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第86話 初めての
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食べ終わった近野は、ナプキンで口を拭いて立花の顔を見た。
「あのさ。聞いていい?」
「なんです?」
「前に彼女いたって言ってたよね? なんで別れたの?」
マナーが悪い。普通そんなこと聞くべきではない。
しかし近野は気になった。
気になって行った。
立花のことを。
後輩にも慕われている。課内でもムードメーカーだ。
そして自分も本当は嫌いではない。
ではなぜ恋人と別れる要因があったのであろうと言う素直な思いだった。
無意識に立花のことを知りたがっているのだ。
それが彼女にそんなことを言わせたのであろう。
「いやぁ……」
「ふんふん」
「元カノのことを悪く言いたくないっすけど……」
「あっ……。ゴメンね」
「嫉妬と束縛ですかね。ちょっと身動き取れなくなってしまうくらいになってしまって」
「あー……」
近野にもなんとなく分かってしまった。
たしかにこの男は独占したい男なのだ。
いい男だし、面白い。
彼女にとっては他に遊びに行かれるのも面白くないだろう。
持っているだけで豪華なトロフィー。
それを取りに来る挑戦者がいる。
防衛するには束縛するしかない。
それを立花は嫌がったのだろう。
「……それに、自分から女の人を好きになることってなかったのかも……」
「へー……。え?」
「中学、高校、大学、全部向こうから告白されて、受けてきたって感じです。それが普通だと思ってました」
「ふーん。嫌みなヤツ。みんな苦労してるってのに」
「だから初恋なんです」
「は?」
立花は顔を真っ赤にして顔は近野を向いたままだが、目線は別な方を向いてモジモジとしていた。照れているのだ。
「その……。あの……。カホリさん、入社してからいつもいろいろと優しく教えてくれてありがとうございます……」
近野は自分の体の奥底から熱いものがこみ上げてくることが分かった。そして、笑い出す。
この男のこんな姿を見るのが初めてなのだ。
いつも自信の塊。そうかと思えば軽い口調。
それが今、自分への愛を不器用に話している姿が、いつもとギャップがあったのだ。
「ちょっと! なに笑ってんすかぁ~」
「いやいや、ゴメン。プフフ……」
「あーハズい。あーハズい」
「あっはっはっは」
二人は店を出た並んで歩くその間はわずかばかり狭くなっていた。心が近づいてゆくことを感じる。
話さなくとも楽しい。身は触れないものの温かさを感じるのだ。
「今日も吞みに行きます?」
「そーだね。今日は二人の駅の真ん中辺りで。いい店ない?」
「ございますよ!」
「プフ」
二人は元来た道を戻っていった。
「あのさ。聞いていい?」
「なんです?」
「前に彼女いたって言ってたよね? なんで別れたの?」
マナーが悪い。普通そんなこと聞くべきではない。
しかし近野は気になった。
気になって行った。
立花のことを。
後輩にも慕われている。課内でもムードメーカーだ。
そして自分も本当は嫌いではない。
ではなぜ恋人と別れる要因があったのであろうと言う素直な思いだった。
無意識に立花のことを知りたがっているのだ。
それが彼女にそんなことを言わせたのであろう。
「いやぁ……」
「ふんふん」
「元カノのことを悪く言いたくないっすけど……」
「あっ……。ゴメンね」
「嫉妬と束縛ですかね。ちょっと身動き取れなくなってしまうくらいになってしまって」
「あー……」
近野にもなんとなく分かってしまった。
たしかにこの男は独占したい男なのだ。
いい男だし、面白い。
彼女にとっては他に遊びに行かれるのも面白くないだろう。
持っているだけで豪華なトロフィー。
それを取りに来る挑戦者がいる。
防衛するには束縛するしかない。
それを立花は嫌がったのだろう。
「……それに、自分から女の人を好きになることってなかったのかも……」
「へー……。え?」
「中学、高校、大学、全部向こうから告白されて、受けてきたって感じです。それが普通だと思ってました」
「ふーん。嫌みなヤツ。みんな苦労してるってのに」
「だから初恋なんです」
「は?」
立花は顔を真っ赤にして顔は近野を向いたままだが、目線は別な方を向いてモジモジとしていた。照れているのだ。
「その……。あの……。カホリさん、入社してからいつもいろいろと優しく教えてくれてありがとうございます……」
近野は自分の体の奥底から熱いものがこみ上げてくることが分かった。そして、笑い出す。
この男のこんな姿を見るのが初めてなのだ。
いつも自信の塊。そうかと思えば軽い口調。
それが今、自分への愛を不器用に話している姿が、いつもとギャップがあったのだ。
「ちょっと! なに笑ってんすかぁ~」
「いやいや、ゴメン。プフフ……」
「あーハズい。あーハズい」
「あっはっはっは」
二人は店を出た並んで歩くその間はわずかばかり狭くなっていた。心が近づいてゆくことを感じる。
話さなくとも楽しい。身は触れないものの温かさを感じるのだ。
「今日も吞みに行きます?」
「そーだね。今日は二人の駅の真ん中辺りで。いい店ない?」
「ございますよ!」
「プフ」
二人は元来た道を戻っていった。
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