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第85話 近づく距離
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未だにポーとしていた近野だったが、まわりが急に騒がしくなっていた。いつの間にか、立花が若い三人の女の子に囲まれていたのだ。
「タッチー先輩、お久しぶりでーす」
「おー。君たちか」
「先輩いなくなってつまんなくて~」
「んなことないだろ~。ちゃんと大学行ってるか?」
どうやら大学の後輩たちのようだった。
今度は近野がイラついた。
立花に近づいて上着の袖を引っ張った。
それを見た後輩の一人が挑発的に近野に言ってきた。
「あれ~? 彼女さんですか?」
近野はその後輩から目を逸らし、立花の服の袖から手を離した。
「いーえ」
「ですよね~。性格キツそう」
「おい。なんてこと言うんだよ! 彼女に謝れよ!」
「はーい。スイマセーン。みんな。行こう」
後輩たちは密かに立花に思いを寄せていたのであろう。
その中の中心となる人物は特に。
近野へ興味ない商品に軽い品定めをするような視線を送って去って行った。
立花には近野の機嫌が悪くなることが手に取るように分かり慌てた。
「あのその、口の悪い後輩でして、多分悪気はない……」
「別にいーわよ。立花くんの交遊関係なんて」
「あのその。……スイマセン」
「さ、さっさとパンケーキ食べて帰ろ」
「は、はい……」
最悪だ。後輩たちの計略は図に当たった。
自分の意中の人である立花と近野を近づけはしない。
立花にどんな思いがあったとしても、今までの近野へかけた気持ちがあろうとも、修復が困難な状況になっていった。
無言のまま、喫茶店のイスに座り立花はメニューを開いてオススメのパンケーキを指差したが、近野はどうでも良さそうに、それすら任せた。
立花が注文し、その品が来るまで近野はスマホを弄くりまわして立花の方へ目をやろうともしなかった。
やがて目の前にパンケーキが置かれる。
色とりどりのジャムやチョコソース。食欲をそそる香り。
生クリームやバニラアイス、フルーツの添え物など近野の好みのものばかりだった。
「わっ。おいしそう! ……あ」
思わず声を出してしまった。
立花のことなど何一つ認めようとなど思わなかったのに。
立花は近野の好みを知っていた。ここに連れてこれば何かが変わると思っていたのだ。
「お好みで、この蜜をかけるといいですよ」
少しばかり赤い顔をして立花から蜜の入った容器をとり、一部分にそれをかけて食べてみた。
近野の動きが止まる。
「なにこれ。メチャクチャ美味しい!」
「でしょう?」
今まで経験したパンケーキよりもとても美味しいものだったのだ。
甘いものと空腹を癒やすというのは、精神的にもよい。
彼女が徐々ににこやかになるのを立花は感じた。
そこでいつものジョークを言うと、近野は笑う。
これだ。立花はこれが欲しかった。
二人はいつもの二人に戻ることが出来たのだ。
「タッチー先輩、お久しぶりでーす」
「おー。君たちか」
「先輩いなくなってつまんなくて~」
「んなことないだろ~。ちゃんと大学行ってるか?」
どうやら大学の後輩たちのようだった。
今度は近野がイラついた。
立花に近づいて上着の袖を引っ張った。
それを見た後輩の一人が挑発的に近野に言ってきた。
「あれ~? 彼女さんですか?」
近野はその後輩から目を逸らし、立花の服の袖から手を離した。
「いーえ」
「ですよね~。性格キツそう」
「おい。なんてこと言うんだよ! 彼女に謝れよ!」
「はーい。スイマセーン。みんな。行こう」
後輩たちは密かに立花に思いを寄せていたのであろう。
その中の中心となる人物は特に。
近野へ興味ない商品に軽い品定めをするような視線を送って去って行った。
立花には近野の機嫌が悪くなることが手に取るように分かり慌てた。
「あのその、口の悪い後輩でして、多分悪気はない……」
「別にいーわよ。立花くんの交遊関係なんて」
「あのその。……スイマセン」
「さ、さっさとパンケーキ食べて帰ろ」
「は、はい……」
最悪だ。後輩たちの計略は図に当たった。
自分の意中の人である立花と近野を近づけはしない。
立花にどんな思いがあったとしても、今までの近野へかけた気持ちがあろうとも、修復が困難な状況になっていった。
無言のまま、喫茶店のイスに座り立花はメニューを開いてオススメのパンケーキを指差したが、近野はどうでも良さそうに、それすら任せた。
立花が注文し、その品が来るまで近野はスマホを弄くりまわして立花の方へ目をやろうともしなかった。
やがて目の前にパンケーキが置かれる。
色とりどりのジャムやチョコソース。食欲をそそる香り。
生クリームやバニラアイス、フルーツの添え物など近野の好みのものばかりだった。
「わっ。おいしそう! ……あ」
思わず声を出してしまった。
立花のことなど何一つ認めようとなど思わなかったのに。
立花は近野の好みを知っていた。ここに連れてこれば何かが変わると思っていたのだ。
「お好みで、この蜜をかけるといいですよ」
少しばかり赤い顔をして立花から蜜の入った容器をとり、一部分にそれをかけて食べてみた。
近野の動きが止まる。
「なにこれ。メチャクチャ美味しい!」
「でしょう?」
今まで経験したパンケーキよりもとても美味しいものだったのだ。
甘いものと空腹を癒やすというのは、精神的にもよい。
彼女が徐々ににこやかになるのを立花は感じた。
そこでいつものジョークを言うと、近野は笑う。
これだ。立花はこれが欲しかった。
二人はいつもの二人に戻ることが出来たのだ。
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