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第80話 密室の二人2
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立花の声が聞こえた瞬間。
なぜか近野は前髪を手ぐしで素早く直していた。
入ってきたと同時にその手は下におろす。立花は中に近野が居ると知らなかったので驚いた。
「お。アレ? お疲れ様でーす」
「はーい。お疲れ様」
近野は気のない振りをし、立花に背中を向けて窓の外を見ていた。
立花も会社では近野へちょっかいをかけることなく、白い壁を向いてスマートフォンをいじりだした。
窓ガラスにその姿が映る。
近野はそのスマートフォンがなぜか気になりふざけた口調で話し掛けた。
「あ、あ、いーけないんだ。マイスマホで個人情報流用させてるんじゃないでしょうね?」
「え? いえ。友人ですよ」
「友人? ……女?」
「え? うん……まぁ……」
「なにそれ! まぁ、別にいいんだけど? 立花くんの私生活なんて」
「い、いやぁ、友人が結婚するんで、共通の友人と二次会の設定するんですよ……」
「あ! ……そ。ふーん」
タバコを吸い終わってしまった近野だが、どうにもバツが悪い。
まるで自分が立花に嫉妬しているような感じにとられるのも嫌だった。
「立花くん、タバコある?」
「予備ありますよ」
立花の電子タバコは別のメーカーだ。
立花はスーツの内側のポケットから予備の機器を出し、タバコを差し込みセットして近野へと手渡した。
「ランプが付けば吸えますよ」
「……ありがと」
立花は天井を見ながら、ゆっくりと煙を吐き出した。
「休み、ヒマですか?」
「まぁ……ね」
「一緒に買い物にでも行きません?」
「えー。恋人でもないのに嫌だなぁ」
「この前、約束したじゃないですか。24時間居酒屋で。ランチして買い物して飲みに行きましょうよ」
「そんな約束した?」
「しましたよ」
近野も記憶にうっすらとあった。
24時間居酒屋で、正気に戻った近野は立花の迎え側に座って赤い顔をしていた。
「あー。自己嫌悪」
「なんすか。自分から言ってきて」
「アンタにおんぶされたなんてみんなに知れたら~……」
「いや~。まだ正気に戻らないで欲しかったな~」
「誰にも言わないでよ!」
「言いませんよ。その代わり……、休みの日デートしません?」
「はぁ?」
「しませんよね。スイマセン」
「ふふふ。アンタは楽しい奴だから休みの日も遊んでみたい」
「え? マジすか」
と言ったセリフ。酔っていたためについ言ってしまった。
普段はクールに生きている。他の課員の女の子たちとも、立花は風俗に行く軽い男。という話をして卑しんでいるにも関わらず、自分はその男と休日に遊びに行くなんてという思い。
しかし立花は面白い。人間も悪くない。
捨てるとすれば風俗で遊んでいたという過去だけ。
心がふらついている。
自分は課長が好きだという気持ちが立花の前に大きな鉄の扉となって閂(かんぬき)をかけている。
そして、今はそれでいいと思っているのだ。
「じゃぁ、明日土曜日の11時に駅前に集合ってことで」
そう言って立花は出て行ってしまおうとした。近野はまだタバコを吸い終わっていない。
「あ、あの、これは?」
近野は立花から借りた電子タバコ機器を指さした。
「ああ、明日返してください。オレ今から外回りして直帰なんで。今日はマスターの店で飲み過ぎないでくださいよ。オレ行かないんで」
そう笑顔で手を上げた。
そう言われると、週末の楽しみにしていたバーに行くのが少し寂しく、行くのを止めようかと思うくらいだった。
なぜか近野は前髪を手ぐしで素早く直していた。
入ってきたと同時にその手は下におろす。立花は中に近野が居ると知らなかったので驚いた。
「お。アレ? お疲れ様でーす」
「はーい。お疲れ様」
近野は気のない振りをし、立花に背中を向けて窓の外を見ていた。
立花も会社では近野へちょっかいをかけることなく、白い壁を向いてスマートフォンをいじりだした。
窓ガラスにその姿が映る。
近野はそのスマートフォンがなぜか気になりふざけた口調で話し掛けた。
「あ、あ、いーけないんだ。マイスマホで個人情報流用させてるんじゃないでしょうね?」
「え? いえ。友人ですよ」
「友人? ……女?」
「え? うん……まぁ……」
「なにそれ! まぁ、別にいいんだけど? 立花くんの私生活なんて」
「い、いやぁ、友人が結婚するんで、共通の友人と二次会の設定するんですよ……」
「あ! ……そ。ふーん」
タバコを吸い終わってしまった近野だが、どうにもバツが悪い。
まるで自分が立花に嫉妬しているような感じにとられるのも嫌だった。
「立花くん、タバコある?」
「予備ありますよ」
立花の電子タバコは別のメーカーだ。
立花はスーツの内側のポケットから予備の機器を出し、タバコを差し込みセットして近野へと手渡した。
「ランプが付けば吸えますよ」
「……ありがと」
立花は天井を見ながら、ゆっくりと煙を吐き出した。
「休み、ヒマですか?」
「まぁ……ね」
「一緒に買い物にでも行きません?」
「えー。恋人でもないのに嫌だなぁ」
「この前、約束したじゃないですか。24時間居酒屋で。ランチして買い物して飲みに行きましょうよ」
「そんな約束した?」
「しましたよ」
近野も記憶にうっすらとあった。
24時間居酒屋で、正気に戻った近野は立花の迎え側に座って赤い顔をしていた。
「あー。自己嫌悪」
「なんすか。自分から言ってきて」
「アンタにおんぶされたなんてみんなに知れたら~……」
「いや~。まだ正気に戻らないで欲しかったな~」
「誰にも言わないでよ!」
「言いませんよ。その代わり……、休みの日デートしません?」
「はぁ?」
「しませんよね。スイマセン」
「ふふふ。アンタは楽しい奴だから休みの日も遊んでみたい」
「え? マジすか」
と言ったセリフ。酔っていたためについ言ってしまった。
普段はクールに生きている。他の課員の女の子たちとも、立花は風俗に行く軽い男。という話をして卑しんでいるにも関わらず、自分はその男と休日に遊びに行くなんてという思い。
しかし立花は面白い。人間も悪くない。
捨てるとすれば風俗で遊んでいたという過去だけ。
心がふらついている。
自分は課長が好きだという気持ちが立花の前に大きな鉄の扉となって閂(かんぬき)をかけている。
そして、今はそれでいいと思っているのだ。
「じゃぁ、明日土曜日の11時に駅前に集合ってことで」
そう言って立花は出て行ってしまおうとした。近野はまだタバコを吸い終わっていない。
「あ、あの、これは?」
近野は立花から借りた電子タバコ機器を指さした。
「ああ、明日返してください。オレ今から外回りして直帰なんで。今日はマスターの店で飲み過ぎないでくださいよ。オレ行かないんで」
そう笑顔で手を上げた。
そう言われると、週末の楽しみにしていたバーに行くのが少し寂しく、行くのを止めようかと思うくらいだった。
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