77 / 111
第77話 矢間原の赤心
しおりを挟む
彩は買い物の為に矢間原の横を通り過ぎようとした時だった。
矢間原は彩の腕を掴んだ。
「嘘でしょ。死ぬような性病だなんて」
「……クラミジアです」
「クラミジア……」
「ごめんなさい。もう行かなくちゃ」
矢間原は彩の腕を放そうとはしなかった。
「あの……。痛いです」
「正直、混乱しています。どうしていいか分からない。でもあなたを好きな思いもあるんです」
「ダメです。こんな女に惚れちゃ」
「過去の話なんて……」
「え?」
「オレくらいの歳になれば、どんな人だって男性経験がある人と付き合うでしょう。そんな中で心ならずも性病に罹患した人もいるでしょう。それを知ったからって、今付き合ってる人を嫌いになるでしょうか? なる人もいるかも知れない。でもそれは過去の話なんだ」
「え、え、ちょ、ちょっと」
「アヤさんの過去には前の旦那さんと結婚した過去も浮気してしまった過去もあるかもしれない。でも、さっきの男に慰謝料も養育費も払うって言った言葉もちゃんと聞いてました。過去を償おうとする気持ちに嘘はないんでしょう」
「え、ええ」
「あなたは、また浮気をするような女性じゃない。オレはそう思うんです」
「……はい」
「病気は……治して行きましょう。養育費だって一緒に払って行きましょう。オレと付き合ってくれませんか?」
矢間原の気持ち。
優しい男だ。彩の目からまたも涙がこぼれた。
先ほど泣きつくしたと思った涙。
だが、うれしくてこぼれる涙だった。
暖かく嬉しい涙。
もう一度、人生をやり直せるかも知れない。
だが、彩は矢間原の腕を振り払った。
「何が分かるって言うんです?」
「え?」
「ただ、いい子の皮をかぶってるだけです。そうやってシゲさんによく思われたいから。追い出されたくないから。前の旦那に追い出されるような女ですよ? したたかな女なんです。矢間原さんの買い被り過ぎ。矢間原さんはもっと審美眼を磨いた方がいいですよ。仕事があるんで失礼します」
そう言って彩は矢間原に背を向けて歩き出した。
だが彩は矢間原に見えないように泣いていた。
矢間原の気持ちが胸に響いた。
しかしそれを受けてはいけない。
受けたらダメな自分がもっとダメになる気がしたのだ。
「はぁ。男の人ってホントにわかんないよ。こんな汚れた女が好きだなんて。そんな人はもっともっといい女の人と結婚するべきよ。私なんかにもったいなさ過ぎて……」
彩は涙を拭いてスーパーへ入って行った。
矢間原は彩の腕を掴んだ。
「嘘でしょ。死ぬような性病だなんて」
「……クラミジアです」
「クラミジア……」
「ごめんなさい。もう行かなくちゃ」
矢間原は彩の腕を放そうとはしなかった。
「あの……。痛いです」
「正直、混乱しています。どうしていいか分からない。でもあなたを好きな思いもあるんです」
「ダメです。こんな女に惚れちゃ」
「過去の話なんて……」
「え?」
「オレくらいの歳になれば、どんな人だって男性経験がある人と付き合うでしょう。そんな中で心ならずも性病に罹患した人もいるでしょう。それを知ったからって、今付き合ってる人を嫌いになるでしょうか? なる人もいるかも知れない。でもそれは過去の話なんだ」
「え、え、ちょ、ちょっと」
「アヤさんの過去には前の旦那さんと結婚した過去も浮気してしまった過去もあるかもしれない。でも、さっきの男に慰謝料も養育費も払うって言った言葉もちゃんと聞いてました。過去を償おうとする気持ちに嘘はないんでしょう」
「え、ええ」
「あなたは、また浮気をするような女性じゃない。オレはそう思うんです」
「……はい」
「病気は……治して行きましょう。養育費だって一緒に払って行きましょう。オレと付き合ってくれませんか?」
矢間原の気持ち。
優しい男だ。彩の目からまたも涙がこぼれた。
先ほど泣きつくしたと思った涙。
だが、うれしくてこぼれる涙だった。
暖かく嬉しい涙。
もう一度、人生をやり直せるかも知れない。
だが、彩は矢間原の腕を振り払った。
「何が分かるって言うんです?」
「え?」
「ただ、いい子の皮をかぶってるだけです。そうやってシゲさんによく思われたいから。追い出されたくないから。前の旦那に追い出されるような女ですよ? したたかな女なんです。矢間原さんの買い被り過ぎ。矢間原さんはもっと審美眼を磨いた方がいいですよ。仕事があるんで失礼します」
そう言って彩は矢間原に背を向けて歩き出した。
だが彩は矢間原に見えないように泣いていた。
矢間原の気持ちが胸に響いた。
しかしそれを受けてはいけない。
受けたらダメな自分がもっとダメになる気がしたのだ。
「はぁ。男の人ってホントにわかんないよ。こんな汚れた女が好きだなんて。そんな人はもっともっといい女の人と結婚するべきよ。私なんかにもったいなさ過ぎて……」
彩は涙を拭いてスーパーへ入って行った。
0
お気に入りに追加
128
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
不倫した挙句に離婚、借金抱えた嬢にまでなってしまった私、だけど人生あきらめません!
越路遼介
大衆娯楽
山形県米沢市で夫と娘、家族3人で仲良く暮らしていた乾彩希29歳。しかし同窓会で初恋の男性と再会し、不倫関係となってしまう。それが露見して離婚、愛する娘とも離れ離れに。かつ多額の慰謝料を背負うことになった彩希は東京渋谷でデリヘル嬢へと。2年経ち、31歳となった彼女を週に何度も指名してくるタワマンに住む男、水原。彼との出会いが彩希の運命を好転させていく。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる