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第70話 背中に彼女を感じて
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「カホリさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫。大丈夫。でも、ちょっと寄りかからせて」
大胆にも立花に身を寄せ、腕を絡ませた。
酒がそうさせたのか。
本当はそうしたいのかは分からない。
立花に寄りかかりながら駅までの道を歩いた。
だが近野は人通りの少ないアーケード街の端によって座り込んだ。
「ああん。ダメ。もう歩けない~」
「ちょっと。カホリさん電車いっちゃいますよ?」
「いいじゃん。もう1軒行こうよぉ」
「何ですか。あの冷たいカホリさんはどこに行っちゃったのやら」
「なによぉ。ムカつくんだよね~。アンタ」
「そっすか」
「ねぇ、おぶってよ」
「はい?」
「おぶって、公園まで連れてって~。休もう。コーヒー飲もう」
「いいですけど……。人目ありますよ……」
「だからぁ、そっちの路地に入ってからおぶればいいじゃん?」
「……すっげぇカワイイんですけど」
路地裏に入って、立花は近野に背中を向けてしゃがみ込んだ。
近野は笑いながらその肩に手を回して体を押し付けた。
「立ちますよ。せーの」
「わぁ! 力持ち! いいぞぉ! 進めぇ! 馬ァ」
「何なんすか」
立花に感じる近野の体温。
彼は今、全身で近野を感じていた。ゆっくりと彼女を背中に背負ったまま公園に向かっていった。
そのうちに、スゥスゥと言う声が聞こえる。近野は酔っ払って、立花の広い背中そして心地よい揺れで眠ってしまったのだ。
立花はわずかに笑みを漏らした。
「世話の焼ける人だなぁ」
そう言いながら公園までの暗い路地裏を歩き続けた。
「男って怖いんですよ。無防備ですよ。襲っちゃいますから」
しかし、近野の寝息は止まらない。
立花は妄想に任せて話し続けた。
「カホリさん。……いや、さんはおかしいか。カホリ愛してるよ」
背中に聞こえる寝息。
これは、この酔いでは簡単には目を覚まさないであろうとふんだ。だからそれに任せて立花は妄想劇場を開演することにした。
「カホリ愛してるよ。愛してる。……なぁカホリ。課長のことなんて忘れちまえよ。オレが忘れさせてやるから。ずっと君のこと守ってあげたいんだ。……さすがに気持ちわりぃ。なんだこのセリフ」
近野がズリ落ちないように体を斜めにしながら歩き続けるとやがて公園の入り口が見えた。その先にホテルの灯り。
左に入れば公園だがまっすぐ行けばホテル。
もう電車もなくなり、始発を待つには24時間営業の店舗に行くか、公園で座り続けるか。しかし公園は寒いだろう。
となると目の前のホテル……。
「ねぇカホリ。ホ……テル行かない? ……な、なぁ~んちゃってぇ~……」
妄想劇場の延長。返答はないだろうから思い切った。
そして背負ったまま妄想を走り巡らせる。
彼女をホテルで抱く妄想。そして朝起きてホテルにいることがバレ、大暴れされて一生口をきいてくれないだろうと言う自分の想像に苦笑した。
やはり公園か、24時間やってる居酒屋かなと思っていると、近野の肩に回された手が立花をギュッと強く抱いた。
「わ! ごめんなさーい。ごめんなさい」
「うれしい……」
「え? ほ、ホテル?」
「課長、愛しています……」
背中に聞こえた自分以外の人間へのラブコール。
夢の中での逢瀬。
近野も夢の中で一糸まとわず意中の人と絡み合っているのかも知れない。
立花は深くため息を吐いて、近野を背負い直し、揺さぶって彼女を起こした。
夢の中の逢瀬を妨害したのだ。
「ふ、ふぇ? な、なに?」
「カホリさん。今日はどこまでも付き合いますよ~。駅前の24時間やってる海鮮居酒屋に行きましょう!」
そう言いながら立花は近野を背負い直し駅前にある24時間営業の居酒屋へ向かっていった。
「大丈夫。大丈夫。でも、ちょっと寄りかからせて」
大胆にも立花に身を寄せ、腕を絡ませた。
酒がそうさせたのか。
本当はそうしたいのかは分からない。
立花に寄りかかりながら駅までの道を歩いた。
だが近野は人通りの少ないアーケード街の端によって座り込んだ。
「ああん。ダメ。もう歩けない~」
「ちょっと。カホリさん電車いっちゃいますよ?」
「いいじゃん。もう1軒行こうよぉ」
「何ですか。あの冷たいカホリさんはどこに行っちゃったのやら」
「なによぉ。ムカつくんだよね~。アンタ」
「そっすか」
「ねぇ、おぶってよ」
「はい?」
「おぶって、公園まで連れてって~。休もう。コーヒー飲もう」
「いいですけど……。人目ありますよ……」
「だからぁ、そっちの路地に入ってからおぶればいいじゃん?」
「……すっげぇカワイイんですけど」
路地裏に入って、立花は近野に背中を向けてしゃがみ込んだ。
近野は笑いながらその肩に手を回して体を押し付けた。
「立ちますよ。せーの」
「わぁ! 力持ち! いいぞぉ! 進めぇ! 馬ァ」
「何なんすか」
立花に感じる近野の体温。
彼は今、全身で近野を感じていた。ゆっくりと彼女を背中に背負ったまま公園に向かっていった。
そのうちに、スゥスゥと言う声が聞こえる。近野は酔っ払って、立花の広い背中そして心地よい揺れで眠ってしまったのだ。
立花はわずかに笑みを漏らした。
「世話の焼ける人だなぁ」
そう言いながら公園までの暗い路地裏を歩き続けた。
「男って怖いんですよ。無防備ですよ。襲っちゃいますから」
しかし、近野の寝息は止まらない。
立花は妄想に任せて話し続けた。
「カホリさん。……いや、さんはおかしいか。カホリ愛してるよ」
背中に聞こえる寝息。
これは、この酔いでは簡単には目を覚まさないであろうとふんだ。だからそれに任せて立花は妄想劇場を開演することにした。
「カホリ愛してるよ。愛してる。……なぁカホリ。課長のことなんて忘れちまえよ。オレが忘れさせてやるから。ずっと君のこと守ってあげたいんだ。……さすがに気持ちわりぃ。なんだこのセリフ」
近野がズリ落ちないように体を斜めにしながら歩き続けるとやがて公園の入り口が見えた。その先にホテルの灯り。
左に入れば公園だがまっすぐ行けばホテル。
もう電車もなくなり、始発を待つには24時間営業の店舗に行くか、公園で座り続けるか。しかし公園は寒いだろう。
となると目の前のホテル……。
「ねぇカホリ。ホ……テル行かない? ……な、なぁ~んちゃってぇ~……」
妄想劇場の延長。返答はないだろうから思い切った。
そして背負ったまま妄想を走り巡らせる。
彼女をホテルで抱く妄想。そして朝起きてホテルにいることがバレ、大暴れされて一生口をきいてくれないだろうと言う自分の想像に苦笑した。
やはり公園か、24時間やってる居酒屋かなと思っていると、近野の肩に回された手が立花をギュッと強く抱いた。
「わ! ごめんなさーい。ごめんなさい」
「うれしい……」
「え? ほ、ホテル?」
「課長、愛しています……」
背中に聞こえた自分以外の人間へのラブコール。
夢の中での逢瀬。
近野も夢の中で一糸まとわず意中の人と絡み合っているのかも知れない。
立花は深くため息を吐いて、近野を背負い直し、揺さぶって彼女を起こした。
夢の中の逢瀬を妨害したのだ。
「ふ、ふぇ? な、なに?」
「カホリさん。今日はどこまでも付き合いますよ~。駅前の24時間やってる海鮮居酒屋に行きましょう!」
そう言いながら立花は近野を背負い直し駅前にある24時間営業の居酒屋へ向かっていった。
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