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第64話 父として
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鈴を後部座席にあるチャイルドシートへ乗せ、その隣に鷹也の母親。運転は鷹也。
酒はこういう時の為に飲んでいなかったのが幸いした。
鷹也は病院へ車を走らせた。その間に母親は鈴の額に熱さまし用の湿布を貼り付けた。
ひんやりして気持ちいいのと高熱が手伝って、鈴は車の中でまた眠ってしまった。
病院の広い駐車場には先客の車が二台。
鈴を抱きかかえて、母親と共に中に入った。
受付の前に書かされる症状の質問票。
普段書いたことがないので、四苦八苦だ。
我が娘の誕生日は分かるが、生まれた年号がわからない。
今の年号から指を二本折って年号を割り出す。
それだけでも時間が食ってしまう。
そんな自分が情けない。
彩がいれば……。
そんな言葉が頭の中を何度も行きかう。
彩は鈴がもっと小さい頃からこんなことを何度も繰り返してきたのだろう。
その苦労が鈴の情報を書く一文字一文字から伝わってゆく。
ようやく質問票を書き終え、受付に提出。
受付の事務の女性がそれを見て、鷹也の顔を見た。
「ああ、鈴ちゃんのお父さん?」
「あ、ええ」
「奥様は今日は?」
どうやら、鈴も彩もこの病院でかかっている経験があるようだった。
「今、旅行中でして」
「ああ、そうなんですね」
そう言って、受付から出て来て鈴の体温を測りながら手を握り、鈴を励ます言葉をかけていた。
鈴もそれに口の端を上げて頷いていた。
やがて、体温計が鳴り、それを取り出した。
「38度8分ですね。すぐ呼ばれますよ。お待ちください」
そう言って、受付に引っ込んで行った。
5分ほど経つと、診察室に呼ばれた。
鈴は鷹也の体にきつく抱きついて医師の方を向こうとしなかった。
医師の方も笑って、脈を取ったり、聴診器をあてたりして鈴ににこやかに話しかけていた。
鈴は怖がって
「お注射するの?」
と聞くと、医師は笑って首を振った。
「しないよー。今日は甘いお薬だけ」
「ホント?」
鈴はクルリと振り返って医師の方を見た。
安心したようで先生の笑顔に合わせてニコニコと笑った。
「じゃ、今日は甘いお薬飲んで、朝それでも熱が高かったらかかりつけの病院に行ってください」
「あのう……」
「どうしました? お父さん」
「スズは大丈夫なんでしょうか?」
「まぁ、幼児期にある発熱でしょうね。流行してる病気でもありませんし。薬を飲ませて安静にしてあげてください」
「はーい。分りました~。ねー。パパ。行こう」
そう言って、鈴は鷹也の膝から降り、鷹也と鷹也の母親の手を引いてさっさと診察室から出てしまった。
診察が終わってしまうと熱が高くても元気なもので、待合室の長椅子の上で足を上下にパタパタと振っていた。
やがて名前が呼ばれ、薬局でもらった薬を持って病院を後にした。
鈴は車の中で熱が高いにもかかわらず
「スズたん、全然怖くなかった。先生大好き。お薬も大好き」
と言っていた。
その晩は薬を飲み、すぐに就寝してしまったが翌朝熱を測ると37度台まで下がっており、鷹也と鷹也の母親はホッと胸をなでおろした。
酒はこういう時の為に飲んでいなかったのが幸いした。
鷹也は病院へ車を走らせた。その間に母親は鈴の額に熱さまし用の湿布を貼り付けた。
ひんやりして気持ちいいのと高熱が手伝って、鈴は車の中でまた眠ってしまった。
病院の広い駐車場には先客の車が二台。
鈴を抱きかかえて、母親と共に中に入った。
受付の前に書かされる症状の質問票。
普段書いたことがないので、四苦八苦だ。
我が娘の誕生日は分かるが、生まれた年号がわからない。
今の年号から指を二本折って年号を割り出す。
それだけでも時間が食ってしまう。
そんな自分が情けない。
彩がいれば……。
そんな言葉が頭の中を何度も行きかう。
彩は鈴がもっと小さい頃からこんなことを何度も繰り返してきたのだろう。
その苦労が鈴の情報を書く一文字一文字から伝わってゆく。
ようやく質問票を書き終え、受付に提出。
受付の事務の女性がそれを見て、鷹也の顔を見た。
「ああ、鈴ちゃんのお父さん?」
「あ、ええ」
「奥様は今日は?」
どうやら、鈴も彩もこの病院でかかっている経験があるようだった。
「今、旅行中でして」
「ああ、そうなんですね」
そう言って、受付から出て来て鈴の体温を測りながら手を握り、鈴を励ます言葉をかけていた。
鈴もそれに口の端を上げて頷いていた。
やがて、体温計が鳴り、それを取り出した。
「38度8分ですね。すぐ呼ばれますよ。お待ちください」
そう言って、受付に引っ込んで行った。
5分ほど経つと、診察室に呼ばれた。
鈴は鷹也の体にきつく抱きついて医師の方を向こうとしなかった。
医師の方も笑って、脈を取ったり、聴診器をあてたりして鈴ににこやかに話しかけていた。
鈴は怖がって
「お注射するの?」
と聞くと、医師は笑って首を振った。
「しないよー。今日は甘いお薬だけ」
「ホント?」
鈴はクルリと振り返って医師の方を見た。
安心したようで先生の笑顔に合わせてニコニコと笑った。
「じゃ、今日は甘いお薬飲んで、朝それでも熱が高かったらかかりつけの病院に行ってください」
「あのう……」
「どうしました? お父さん」
「スズは大丈夫なんでしょうか?」
「まぁ、幼児期にある発熱でしょうね。流行してる病気でもありませんし。薬を飲ませて安静にしてあげてください」
「はーい。分りました~。ねー。パパ。行こう」
そう言って、鈴は鷹也の膝から降り、鷹也と鷹也の母親の手を引いてさっさと診察室から出てしまった。
診察が終わってしまうと熱が高くても元気なもので、待合室の長椅子の上で足を上下にパタパタと振っていた。
やがて名前が呼ばれ、薬局でもらった薬を持って病院を後にした。
鈴は車の中で熱が高いにもかかわらず
「スズたん、全然怖くなかった。先生大好き。お薬も大好き」
と言っていた。
その晩は薬を飲み、すぐに就寝してしまったが翌朝熱を測ると37度台まで下がっており、鷹也と鷹也の母親はホッと胸をなでおろした。
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