37 / 111
第37話 葬儀には何人?
しおりを挟む
自分の心はどうしていいのか分からない。
自分が悪いのか?
いや、自分は悪くない。
しかし本当は気付いていた。
彩は辛かったんだろうと。浮気をしたと思ったとき、実は何度もそう思っていた。しかし許せないと言う気持ちで押さえ込んでいた。
制裁をどうしても加えたかった。
制裁を加えた今になってみれば、どうだ?
正直に言った愛しい彩を弁解の余地無く追い出した。
鈴の大好きな人を。
自分の愛した人を。
何が許せない?
持って行かれてしまった心?
二夫にまみえた病気におかされた体?
自分には許さなかった変態行為を許した貞操?
これが自分が望んだ幸せなのか?
誰かが幸せになったのか?
これから自分と鈴は幸せなのか?
庭に立ち尽くしたままだった鷹也は急いで実家の中に入った。
鈴はリビングにリュックサックを逆さまにしてジャラジャラとウサギのお人形を開け、祖父に新しく買って貰った人形を自慢していた。それを横目に見ながら母親がいるであろうキッチンに入っていくと、母親は鷹也の好物であるから揚げを揚げていた。
「母ちゃん」
「なんだよぉ。スズと遊んでやれよ」
「いや。あの」
「まあ仕方ない。アヤがしたことはたしかに許されることじゃない。明日から泊まりがけでしばらく面倒見に行ってやるよ。バカでも息子だもんね」
そう言いながら母親は鼻を思い切りすすった。
少し涙声だったが後ろからでは泣いてるかは分からなかった。
「やっぱー……、オレたち帰るわ」
「フン。親不孝モンめ。このから揚げどうすんだ。父ちゃん食い過ぎて死ぬわ」
「葬式には三人で出るよ」
「フン。とっとと帰れ」
「母ちゃんは……」
「なんだよ」
「父ちゃんが浮気したら許せる?」
「んなわけねーだろ。追い出してやる」
「じゃぁなんで? アヤのことを……」
「でも、もしも……鷹也が浮気したらどうなんだろ? 家にも入れない母親になるかどうかは自信がないよ。バカでもかわいい息子だもんね」
「そんなことしねぇよ」
「それと同じだよ」
「え?」
「アヤはどう思ってたかしらない。姑と思ってたと思うよ。でも私は違う。自分に娘がいないからね。娘だと思うことにしたんだよ。アヤのご両親が亡くなってからね。ここがアヤにとっての実家だと思ってもらえりゃいいなぁと思ってたの。だから……。だからさぁ。娘の寂しかった気持ちも、そうやって夫を裏切っちゃった気持ちも……。なんとなくだけど分かるんだよねぇ……。はぁーあ……。なんで相談してくれなかったのかねぇ……」
「そっかぁ……」
鷹也は急いでウサギのお人形をリュックサックに入れ込み、グズる娘の手を引いて車に乗せた。
楽しみにしていた父親の実家。
鈴は鷹也を「バカ」と罵(ののし)ったがそれどころじゃなかった。
急がないと彩は出て行ってしまう。
鷹也は自宅に向けて車を走らせた。
自分が悪いのか?
いや、自分は悪くない。
しかし本当は気付いていた。
彩は辛かったんだろうと。浮気をしたと思ったとき、実は何度もそう思っていた。しかし許せないと言う気持ちで押さえ込んでいた。
制裁をどうしても加えたかった。
制裁を加えた今になってみれば、どうだ?
正直に言った愛しい彩を弁解の余地無く追い出した。
鈴の大好きな人を。
自分の愛した人を。
何が許せない?
持って行かれてしまった心?
二夫にまみえた病気におかされた体?
自分には許さなかった変態行為を許した貞操?
これが自分が望んだ幸せなのか?
誰かが幸せになったのか?
これから自分と鈴は幸せなのか?
庭に立ち尽くしたままだった鷹也は急いで実家の中に入った。
鈴はリビングにリュックサックを逆さまにしてジャラジャラとウサギのお人形を開け、祖父に新しく買って貰った人形を自慢していた。それを横目に見ながら母親がいるであろうキッチンに入っていくと、母親は鷹也の好物であるから揚げを揚げていた。
「母ちゃん」
「なんだよぉ。スズと遊んでやれよ」
「いや。あの」
「まあ仕方ない。アヤがしたことはたしかに許されることじゃない。明日から泊まりがけでしばらく面倒見に行ってやるよ。バカでも息子だもんね」
そう言いながら母親は鼻を思い切りすすった。
少し涙声だったが後ろからでは泣いてるかは分からなかった。
「やっぱー……、オレたち帰るわ」
「フン。親不孝モンめ。このから揚げどうすんだ。父ちゃん食い過ぎて死ぬわ」
「葬式には三人で出るよ」
「フン。とっとと帰れ」
「母ちゃんは……」
「なんだよ」
「父ちゃんが浮気したら許せる?」
「んなわけねーだろ。追い出してやる」
「じゃぁなんで? アヤのことを……」
「でも、もしも……鷹也が浮気したらどうなんだろ? 家にも入れない母親になるかどうかは自信がないよ。バカでもかわいい息子だもんね」
「そんなことしねぇよ」
「それと同じだよ」
「え?」
「アヤはどう思ってたかしらない。姑と思ってたと思うよ。でも私は違う。自分に娘がいないからね。娘だと思うことにしたんだよ。アヤのご両親が亡くなってからね。ここがアヤにとっての実家だと思ってもらえりゃいいなぁと思ってたの。だから……。だからさぁ。娘の寂しかった気持ちも、そうやって夫を裏切っちゃった気持ちも……。なんとなくだけど分かるんだよねぇ……。はぁーあ……。なんで相談してくれなかったのかねぇ……」
「そっかぁ……」
鷹也は急いでウサギのお人形をリュックサックに入れ込み、グズる娘の手を引いて車に乗せた。
楽しみにしていた父親の実家。
鈴は鷹也を「バカ」と罵(ののし)ったがそれどころじゃなかった。
急がないと彩は出て行ってしまう。
鷹也は自宅に向けて車を走らせた。
0
お気に入りに追加
128
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
不倫した挙句に離婚、借金抱えた嬢にまでなってしまった私、だけど人生あきらめません!
越路遼介
大衆娯楽
山形県米沢市で夫と娘、家族3人で仲良く暮らしていた乾彩希29歳。しかし同窓会で初恋の男性と再会し、不倫関係となってしまう。それが露見して離婚、愛する娘とも離れ離れに。かつ多額の慰謝料を背負うことになった彩希は東京渋谷でデリヘル嬢へと。2年経ち、31歳となった彼女を週に何度も指名してくるタワマンに住む男、水原。彼との出会いが彩希の運命を好転させていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる