ずっと君のこと ──妻の不倫

家紋武範

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第21話 千慮の一失

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しかし、思い直した。
もしかしたら自分の考え違いかも知れない。
公衆トイレなどで、感染者が触ったドアノブをひねり、その手で自分の秘所を拭いて感染してしまったのかもしれない。
それも考えられる。可能性は少ないがありえない話ではない。
調べてみると女性は男性ほど症状が現れにくいらしい。

逆に彩ならばその可能性の方が高いのではないか。

また、自分が罹患したのかも知れない。温泉場で裸の状況の時に知らぬ間に感染したのかも?
そう考えると鷹也は気が楽になった。
彼女に泌尿器科に行くように進めよう。

そう思って、鷹也は急いで家に帰った。
家では鈴が一人でリビングでDVDを見ていた。

「ママは?」
「あ。パパだ! おかえり~」

「うん……ママは?」
「ママ、キッチンでちよ~」

「そうか」

キッチンに顔を出すと、彩は嬉しそうに振り返った。

「お帰り。タカちゃん。本買ってきた?」

鷹也はホッとした。
浮気をしているものがこんな顔をするだろうか?
そんなはずはない。

「今日はね~。すき焼きだよ~!」
「マジか! すっげぇ!」

彩は鷹也の好きなすき焼きを作っていた。鈴には小さな鶏肉の団子。大人も子どもも互いに楽しめる食事だ。
鷹也は話をするのは後にしようと思った。
鈴とともに楽しい団らん。三人の夜は楽しいままに更けてゆく。

その内に、鈴は眠いようでうつらうつらしてきたので、彩は寝室に連れて行って寝かしつけた。
鷹也は一人リビングでソファに寄りかかり、少しばかり純度の高い酒を飲んでいた。

そこに彩がやって来た。

「スズ、寝たよ~」
「そうか」

鷹也は彩の言葉を聞いて、グラスの酒を飲み尽くす。
まだ浮気の疑いがぬぐえたわけではない。鷹也は言うか言わないか迷っていた。
彩もしばらく何も話さなかった。
ただ立っている。

彩は立っていた。

鷹也は立っている彩を不思議に思った。
彼女は服の端を固く握っていた。力が入っていて服にしわが寄っている。

「アヤ……」

彩はその体勢のまま、口を固く結んでいたが涙がこぼれると同時に口を開いた。

「ゴメン……タカちゃん……ゴメン……。私……。私、浮気したの……」
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