11 / 12
第 十一話
しおりを挟む
恐ろしくなって歯がカチカチと音を鳴らす。
それは中瀬さんも同じで、笑いとも泣き声ともとれない声を漏らしていた。
「ふっ。ふっ。ふっ。ふ」
その中瀬さんの声がなおさら恐怖を誘う。
「みんな。光を絶やさないでよ! 大丈夫よ! きっと湖まで行けるわ! ふっ。ふっ。ふっ。ふっ」
中瀬さんはみんなを励まそうとするが、すでに恐怖で声が震えていた。
足や手が震えていることもわかる。
懐中電灯の灯りがブレるのだ。ブレているのだ。
翠里は黙っている。これも恐怖に勝つので必死なのだろう。
街灯のない山道。後ろには恐怖の祟り神。
気が狂いそうだ。中瀬さんからグズグズと泣き声が聞こえる。
「ごめんねぇ。ごめんねみんなぁ」
「だ、大丈夫ですよ。がんばりましょう」
「私まだやりたいこといっぱいあった。いっぱいあったのに、こんなところでわけのわからない神様に命を取られたくないよぉ」
「中瀬さん。諦めちゃダメだ!」
中瀬さんの足の震えが激しい。ガクガクと倒れそうなようになっている。
光もブレる。乱反射のように、かろうじて自分を照らす灯りだけは保っていたのだが。
「あっ……!」
中瀬さんが倒れる。草に足を取られて横に倒れてしまう。
オレたちにはどうすることもできない。その倒れる様子をスローモーションで見ていた。
その途中で二本の懐中電灯が宙を舞う。
中瀬さんの草むらに倒れる音。
そして痛みに小さく唸る。だがすぐに不気味な笑い声。
「くふくふくふ。きぼぢいいでぇ。ぐふぐふふ。にへぇぇぇええええぇぇぇぇ……」
声が途絶えた。一部始終を見ていた。
彼女が地蔵になるさま。
目が引っ込み、手足が続いて引っ込んで石になる。
オレももう動けなかった。翠里を抱きかかえてそこに座り込む。
懐中電灯は草の上に置いて二人を照らすようにして。
翠里は体を震わせて泣いた。
「きっとあのお社にいた少女は巫女だったんだわ。シカガネ様を体の中に入れて出ないようにしたのよ。それを私達は表に出してしまったんだわ!」
「……してる」
「え?」
「愛してる翠里」
「な、なにを……」
「ここを出よう。出たら付き合ってくれるかい?」
途端に恐怖にひきつった顔がわずかに緩む。
翠里は微笑んでくれた。
「ええ。ずっと待ってたわ」
「前からずっと好きだったんだ」
そこにしゃがみ込み、懐中電灯のわずかな光。
だが光の中央でオレたちは抱き合っていた。
それはどれくらいの時間か分からない。
「下手に動かない方が良かったんだ。懐中電灯の灯りで二人を照らして朝を待つんだ。太陽の光ならきっとシカガネ様を追い払ってくれる」
翠里は小さく頷く。その肩に強く抱きしめていた。
一本目の懐中電灯の灯りが少しばかり陰る。
「電池がもうないんだわ……」
翠里の悲痛なる声。それを声ごと抱きしめた。
まだだ。まだ懐中電灯は三本残っている。
しかしこのペースならその三本も朝まで持たないかも知れない。
下唇が震える。だが力を入れてその震えを止めていた。
その時だった。
遠くからかすかにバタバタバタバタという音が聞こえる。
あれはヘリコプターの音だ。
オレたちのいた場所が良かったのかもしれない。
頭上が木々で覆われていなかった。
ヘリコプターは救助のものだった。
おそらく、旅館の女将さんが戻らないオレたちを心配して要請してくれたのかもしれない。
とにかく、頭上にはヘリコプターの下を照らす輝かしい光!
こうしてオレと翠里は助かったんだ。
それは中瀬さんも同じで、笑いとも泣き声ともとれない声を漏らしていた。
「ふっ。ふっ。ふっ。ふ」
その中瀬さんの声がなおさら恐怖を誘う。
「みんな。光を絶やさないでよ! 大丈夫よ! きっと湖まで行けるわ! ふっ。ふっ。ふっ。ふっ」
中瀬さんはみんなを励まそうとするが、すでに恐怖で声が震えていた。
足や手が震えていることもわかる。
懐中電灯の灯りがブレるのだ。ブレているのだ。
翠里は黙っている。これも恐怖に勝つので必死なのだろう。
街灯のない山道。後ろには恐怖の祟り神。
気が狂いそうだ。中瀬さんからグズグズと泣き声が聞こえる。
「ごめんねぇ。ごめんねみんなぁ」
「だ、大丈夫ですよ。がんばりましょう」
「私まだやりたいこといっぱいあった。いっぱいあったのに、こんなところでわけのわからない神様に命を取られたくないよぉ」
「中瀬さん。諦めちゃダメだ!」
中瀬さんの足の震えが激しい。ガクガクと倒れそうなようになっている。
光もブレる。乱反射のように、かろうじて自分を照らす灯りだけは保っていたのだが。
「あっ……!」
中瀬さんが倒れる。草に足を取られて横に倒れてしまう。
オレたちにはどうすることもできない。その倒れる様子をスローモーションで見ていた。
その途中で二本の懐中電灯が宙を舞う。
中瀬さんの草むらに倒れる音。
そして痛みに小さく唸る。だがすぐに不気味な笑い声。
「くふくふくふ。きぼぢいいでぇ。ぐふぐふふ。にへぇぇぇええええぇぇぇぇ……」
声が途絶えた。一部始終を見ていた。
彼女が地蔵になるさま。
目が引っ込み、手足が続いて引っ込んで石になる。
オレももう動けなかった。翠里を抱きかかえてそこに座り込む。
懐中電灯は草の上に置いて二人を照らすようにして。
翠里は体を震わせて泣いた。
「きっとあのお社にいた少女は巫女だったんだわ。シカガネ様を体の中に入れて出ないようにしたのよ。それを私達は表に出してしまったんだわ!」
「……してる」
「え?」
「愛してる翠里」
「な、なにを……」
「ここを出よう。出たら付き合ってくれるかい?」
途端に恐怖にひきつった顔がわずかに緩む。
翠里は微笑んでくれた。
「ええ。ずっと待ってたわ」
「前からずっと好きだったんだ」
そこにしゃがみ込み、懐中電灯のわずかな光。
だが光の中央でオレたちは抱き合っていた。
それはどれくらいの時間か分からない。
「下手に動かない方が良かったんだ。懐中電灯の灯りで二人を照らして朝を待つんだ。太陽の光ならきっとシカガネ様を追い払ってくれる」
翠里は小さく頷く。その肩に強く抱きしめていた。
一本目の懐中電灯の灯りが少しばかり陰る。
「電池がもうないんだわ……」
翠里の悲痛なる声。それを声ごと抱きしめた。
まだだ。まだ懐中電灯は三本残っている。
しかしこのペースならその三本も朝まで持たないかも知れない。
下唇が震える。だが力を入れてその震えを止めていた。
その時だった。
遠くからかすかにバタバタバタバタという音が聞こえる。
あれはヘリコプターの音だ。
オレたちのいた場所が良かったのかもしれない。
頭上が木々で覆われていなかった。
ヘリコプターは救助のものだった。
おそらく、旅館の女将さんが戻らないオレたちを心配して要請してくれたのかもしれない。
とにかく、頭上にはヘリコプターの下を照らす輝かしい光!
こうしてオレと翠里は助かったんだ。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【ローカル都市伝説】“ううち”について熱く語ろう
家紋武範
ホラー
軽い気持ちで立てた大型掲示板のスレッド。
それはとんでもないことになってしまう。
降りかかる呪い。気味の悪い動物の死。恋人の発狂。
悪霊を封じるためにオレは──。
これ友達から聞いた話なんだけど──
家紋武範
ホラー
オムニバスホラー短編集です。ゾッとする話、意味怖、人怖などの詰め合わせ。
読みやすいように千文字以下を目指しておりますが、たまに長いのがあるかもしれません。
(*^^*)
タイトルは雰囲気です。誰かから聞いた話ではありません。私の作ったフィクションとなってます。たまにファンタジーものや、中世ものもあります。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる