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第 九 話
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「ひ、光から出るとあんなふうになっちゃうんじゃないかしら?」
そう言ったのは翠里。たしかに、南条先輩は神社から降りる際に、最後尾から懐中電灯で俺たちの足元を照らしていたために誰からも灯りを当てられていなかった。
東先輩は南条先輩を懐中電灯で照らしながら進んで、ヘッドライトから外れてしまった。つまり光に当たっていなかったってことだ。
「シカガネ様を囲む四方の鏡は光を当て続けるみたいな効果を期待したのかもしれないわね……」
中瀬さんも自分の憶測を聞こえるようにつぶやく。
なるほどだ。それならば辻褄が合う。
しかし西森さんは鼻で笑った。
「そんなバカな。おそらく二人は神社を下る際に俺達の後ろにいたから、そんなドッキリを打ち合わせしたに過ぎない。なるほど最初はビックリしたが、現実的にこんなことありえない。まったくの非科学的な話だよ。目が抜ける。地蔵になる。どうやってそうなるんだ? きっと二人は居並ぶ地蔵を見ながらなにかのトリックを考えてそれをそこに置いたんだ。今頃二人して物陰から笑ってみてるかもしれない」
そう言いながら西森さんは辺りを懐中電灯で照らした。
ひと気は全く無い。しかし隠れていると言われればそうなのかもしれない。隠れる場所はそこらじゅうにある。
「九曜くん。シカガネ様は今どこにいる」
黙って南条先輩と東先輩が地蔵となった場所を震えながら指差す。それを西森さんは鼻で笑った。
「これで南条さんと東さんがどこかに隠れてたら笑いもんだぞ?」
「そんな……! 本当です。片手だけを上げてこちらに手を伸ばしてます」
「信じられんね。北藤。ヘッドライトから少し出てみろよ」
その声に体が大きく反応する。
全員に気付かれるほどの肩の大きな揺れ。
足がすくんで動けない。そんなこと出来るわけがなかった。
「む、む、む、無理っす」
「なんだよ。臆病だな。オレの説が信じられないのか?」
震えて硬直するオレを西森さんはせせら笑い、中瀬さんと翠里の方を見て自信ありげに笑ってみせる。
「今からオレが、光からでても大丈夫なことを証明するよ」
西森さんはそこに懐中電灯を落とし、車の後部座席に向かった。
つまりヘッドライトから外れたのだ。
オレたちはその姿を見ていた。西森さんの後頭部だけを。
「どうだよ。全然大丈夫だろ?」
そう言って振り返る顔を懐中電灯で照らす。
そこには目がない微笑む西森さん。
「うわ! 西森さん」
残ったオレたちは驚いて抱きついた。
西森さんは不思議そうに首をかしげていた。
「あれ? みんなどこに行った? ヘッドライトを消した? ……ウソだろ?」
西森さんの腕がゆっくりと上がり、二本の指でまぶた辺りを恐る恐るまさぐると、その指が小さく震えるのが見えた。
明らかにドッキリじゃない。これが打ち合わせしていたことなら西森さんは相当な演技力だ。
西森さんの恐怖にひきつる顔。だがそれが徐々に緩んでいく。
「えはぁ~。なにこれ。なにこれ。オレも地蔵になっちゃうの? うそぉ~。でもこんなにきぼじいいならべづにいいがぁぁぁ~~~」
とんでもない快楽に襲われた声。
西森さんはシカガネ様に取り憑かれたのかもしれない。
下品に笑いながら、ドサリという音とともにその声は聞こえなくなってしまった。
恐る恐るそちらに懐中電灯を向ける。
そこには西森さんの顔をした笑顔の地蔵が倒れている。
「わっ! わっ! わーーーっ!!!」
オレたちは大声で叫んだ。助けを呼んだんだ。だがこんなところに人がいるわけがない。
女性二人を抱え、オレはどうすればいいか必死に考えた。
これから逃げる方法はあるのか?
携帯の電波を見てみたが圏外を指している。
救助を呼ぶことはできない。
そう言ったのは翠里。たしかに、南条先輩は神社から降りる際に、最後尾から懐中電灯で俺たちの足元を照らしていたために誰からも灯りを当てられていなかった。
東先輩は南条先輩を懐中電灯で照らしながら進んで、ヘッドライトから外れてしまった。つまり光に当たっていなかったってことだ。
「シカガネ様を囲む四方の鏡は光を当て続けるみたいな効果を期待したのかもしれないわね……」
中瀬さんも自分の憶測を聞こえるようにつぶやく。
なるほどだ。それならば辻褄が合う。
しかし西森さんは鼻で笑った。
「そんなバカな。おそらく二人は神社を下る際に俺達の後ろにいたから、そんなドッキリを打ち合わせしたに過ぎない。なるほど最初はビックリしたが、現実的にこんなことありえない。まったくの非科学的な話だよ。目が抜ける。地蔵になる。どうやってそうなるんだ? きっと二人は居並ぶ地蔵を見ながらなにかのトリックを考えてそれをそこに置いたんだ。今頃二人して物陰から笑ってみてるかもしれない」
そう言いながら西森さんは辺りを懐中電灯で照らした。
ひと気は全く無い。しかし隠れていると言われればそうなのかもしれない。隠れる場所はそこらじゅうにある。
「九曜くん。シカガネ様は今どこにいる」
黙って南条先輩と東先輩が地蔵となった場所を震えながら指差す。それを西森さんは鼻で笑った。
「これで南条さんと東さんがどこかに隠れてたら笑いもんだぞ?」
「そんな……! 本当です。片手だけを上げてこちらに手を伸ばしてます」
「信じられんね。北藤。ヘッドライトから少し出てみろよ」
その声に体が大きく反応する。
全員に気付かれるほどの肩の大きな揺れ。
足がすくんで動けない。そんなこと出来るわけがなかった。
「む、む、む、無理っす」
「なんだよ。臆病だな。オレの説が信じられないのか?」
震えて硬直するオレを西森さんはせせら笑い、中瀬さんと翠里の方を見て自信ありげに笑ってみせる。
「今からオレが、光からでても大丈夫なことを証明するよ」
西森さんはそこに懐中電灯を落とし、車の後部座席に向かった。
つまりヘッドライトから外れたのだ。
オレたちはその姿を見ていた。西森さんの後頭部だけを。
「どうだよ。全然大丈夫だろ?」
そう言って振り返る顔を懐中電灯で照らす。
そこには目がない微笑む西森さん。
「うわ! 西森さん」
残ったオレたちは驚いて抱きついた。
西森さんは不思議そうに首をかしげていた。
「あれ? みんなどこに行った? ヘッドライトを消した? ……ウソだろ?」
西森さんの腕がゆっくりと上がり、二本の指でまぶた辺りを恐る恐るまさぐると、その指が小さく震えるのが見えた。
明らかにドッキリじゃない。これが打ち合わせしていたことなら西森さんは相当な演技力だ。
西森さんの恐怖にひきつる顔。だがそれが徐々に緩んでいく。
「えはぁ~。なにこれ。なにこれ。オレも地蔵になっちゃうの? うそぉ~。でもこんなにきぼじいいならべづにいいがぁぁぁ~~~」
とんでもない快楽に襲われた声。
西森さんはシカガネ様に取り憑かれたのかもしれない。
下品に笑いながら、ドサリという音とともにその声は聞こえなくなってしまった。
恐る恐るそちらに懐中電灯を向ける。
そこには西森さんの顔をした笑顔の地蔵が倒れている。
「わっ! わっ! わーーーっ!!!」
オレたちは大声で叫んだ。助けを呼んだんだ。だがこんなところに人がいるわけがない。
女性二人を抱え、オレはどうすればいいか必死に考えた。
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