バレンタインにフラれた

家紋武範

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第2話 なぞなぞ

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 慌てて、近くにあった鏡を見る。
 ん~。少し老けてる気がする。ちょっと待て。俺って二十七歳なわけ? 髪型も落ち着いちゃって。

 じゃあ~……。あの小柄で出るとこはボインボイン出てるモデルみたいに可愛い人が奥さんで、若干茶髪気味で目の大きなリンちゃんは娘!?
 えー! 六年後はあんなかわいい人と結婚してラブラブで娘までいるってわけ!?

 か~! 人生捨てたもんじゃない。捨てる神あれば拾う神あり。やった。やった。やったった~。

 でもどうしよう。元の時代に戻れるのか? あの奥さんとどんな風に恋に堕ちるんだ?
 つか、やっぱり夢を見てるのかなぁ?

「やっぱり、変でち」

 手を上げて喜んだ後で考え込んでいると、ドアのところに娘のリンちゃんが立っていた。手にはお人形さんを抱えている。

「リンちゃん、さっきはありがとうね~」
「えへへ。ママと一緒に作ったでち。美味しいでちよ。食べて食べて」

 か~! かわいい。奥さん譲りだな。将来は相当な美人さんになるぞ。近付いてくる男が心配だな。
 おいキミ。ウチの娘とどういう関係かね? 清い交際をしたまえよ。
 うーん。心配だ。心配だ。男なんてみんなクソだからな。
 俺はリンちゃんから貰ったラッピングを開けてトリュフ型チョコを口に入れた。

「おーいしー!」
「みてー。このキラキラはリンちゃんが作ったんでち」

 そこには、カラフルなトッピングチョコ。作ってねーだろ。振り掛けただけだろ。でも可愛い。
 リンちゃんの口にも一粒入れてやり、食べ終わるとリンちゃんは手をパタパタさせて喜んでいた。

「パパ。早くご飯食べるでち」
「お。そうか」

 娘のリンちゃんとともにリビングとキッチンが一体型になっているところへ。
 すげえ。この家は持ち家なのか? 二十七歳にして。マジ? 俺ってすげえ。

 テーブルに座ると、奥さんが目の前にご飯を用意してくれた。かわいい。えーと。

 名前! キミは誰なの!? キスしたけど。こりゃ困った。なんて呼べば……。

 目の前には、スプーンでご飯を食べているリンちゃん。

「リンちゃん。なぞなぞです」
「やったー! なぞなぞちゅき!」

「ママのお名前は何でしょう?」

 ふふふ。我ながらいい作戦。

「えーと、えーと、ママわぁ。ママのお名前わぁ」

 しばらく考えてから顔を上げた。

「すずもとしゃな!!」
「せ、せいかぁ~い!」

「わーい! やった! やった~!」

 涼本しゃな! 姓は俺の姓なのね。そりゃそうか。しゃな? めずらしい~。そんな名前の人いるんだね~。

「おーい。しゃな~。お水もちょうだい」

 キッチンにいるしゃなに声をかけると、不思議な顔をして水を持ってきた。

「どうしたの? 赤ちゃんみたいな話し方して」

 あ、赤ちゃん? 俺は思い立ってもう一度スマホを開いた。電話帳の涼本のところを見ると「涼本紗菜」の文字。うーん。これは「しゃな」? ……「さな」じゃねぇか!
 くそぅ。リンちゃんの舌足らずに惑わされた。

「へんなパパだねぇ。ねぇ、ご飯食べたらリンちゃん着替えさせて。そして約束通り保育園に送っていってね。仕事終わったら、保育園にお迎えに行って、私の実家にリンちゃんを預けてくる。その後私を仕事先まで迎えに来てから二人でデートする。分かってるよね?」

 全然分かりませんでした。そうだったのね……。本日のスケジュール。だってデートとしか書いてないもの。
 デート! 昨日のバレンタインでフラれたばっかの俺が、こんな可愛い人とデート! マジすか。

「ウヒヒ。リア充爆発するでち」

 か、かわええ。娘もかわええ。こりゃ夢でもタイムスリップでもどっちでもいいや。



 朝食を食べ終わると娘に連れられて、クローゼットとタンスのある部屋に。すでに奥さんの紗菜が暖房を入れていてくれたので部屋の中は温かかった。
 つーか、このタンス見覚えある! 俺が使ってたヤツじゃん? そーか、そーか。新居に持ってきてたんだな~。新しいの買えよな~。未来の俺。

「ばんじゃ~い」

 なんだ、なんだ? リンちゃんを見ると諸手を挙げて万歳をしていた。俺も一緒になって手を上げた。

「バンザーイ」
「ばんじゃ~い」

 リンちゃんは手を上げたまま。俺はニコニコ笑っていた。するとリンちゃんは不思議そうな顔。

「お着替えは?」

 あ、あー! そういうことね。自分で上着は脱げないから脱がせてくれってことか~。サーセン。何ごとも初めてなもんで。

 俺はリンちゃんの上着を脱がせて、いつもなにを着ているか聞いて着替えさせた。ホッと一息。

 お! か、会社? 俺はどこに勤めてるの? 前の会社でいいのかな?

 俺は着替えたリンちゃんを連れてキッチンに顔を出した。

「あ、タッちゃん。はいお弁当。お仕事頑張ってね」
「あの~、さな?」

「どうしたの?」
「クイズです。私の会社の名前は?」

「え? えー……。カタカナで長いから覚えてないんだよね~。自動車部品作ってる、何とかカンとかエナジー」

 え? これは難題! くそう。あ、そうだ。タイムスリップする前の会社も、最後にエナジーがつくぞ! じゃ、そのままそこに勤務してんのか!

 つか、あそこの会社の給料で家建てたの? 正社員になると給料もボーナスもだいぶ違ったんだなぁ。やったぜ!
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