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灰色世界Ⅱ ~夏休みの向こう側~
18.都庁タワー
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都庁タワーは、世界のまん中に立っている。巨大な塔だ。まっ黒にぬられている。
都庁タワーには、選ばれた少数の人たちが、暮らしている。その人たちは、この世界の指導者たちだ。
都庁タワーで生まれた、この世界を担っていく指導者の子どもたちは、最初から都庁タワーでふさわしい教育を受け、指導者をついでいく。
それから、高等部に進級する時点で行われる進級テストでA判定を受けたほんの一にぎりの人たちも、都庁タワーに移ることになる。なかには、とびぬけた才能を発揮して指導者の仲間入りをはたす者もいるらしい。多くは都庁タワーで高等教育を受け、学校の先生や工場長として、卒業後、色んな町に送られることになる。特別に体力や力のある者も、都庁タワーへ入って育てられ、そういう人は守衛や、なかには体育の先生になる。ほかに、もっと少ないけど、特別な技術や才能を持つ人も、都庁タワーにいるって聞いたことがある……
普通の人は、B~Dの判定を受け、地下寮でそのまま学力に合わせた高等部のクラスに振り分けられることになる。そこで、それぞれが将来することになる仕事の技術や技能を教えられる。B、C、Dと下がるにしたがって、過酷で汚い労働に就くことになる。だから、皆が勉強のことを気にするのは無理もないと思う。Dの人というのは、ぼくらの町では見たことがない。そういう人たちは、もっと郊外に暮らしているだって。郊外。より、外側の世界……もしかしたら、その人たちだったら、海を知っている?
もう一つ、E判定というのがあって、その判定を受けたものもまた、都庁タワーに行くことになるんだ。だけどその人たちは、そこで教育を受けるわけじゃない。都庁タワーにも、地下がある。そこへ送られるという。そこでどうなるのか、ただ、Dの人よりもっと過酷なことをするとか、悲しいことになるとか、あいまいなことしか聞かない。生徒の噂では、なぜだかしらないけど殺し合いをさせられるとか、実験という色んな方法で殺されるとか、そうして殺されたあとは〝食糧〟にされるのだとかいうことになっていた。
ぼくらは「にく」を主食にしている。ほかには「やさい」や「ごはん」がある。「やさい」や「ごはん」は、ぼくらの町でもビニルハウスや管理工場で作られている。だけど「にく」の工場というのはない。ある友だちは「にく」の素材こそが〝食糧〟にされた人たちなのだという。実際「にく」というものがどこで作られているのかは、授業でも習わない。ぼくはおじいちゃんの本で、かつてウシやブタというものがいて、それが「にく」の材料にされていたと読んだことがある。だけどそういった生きものは、ぼくらの町にはどこにもいないのだ。郊外とよばれるところに、ウシやブタはいるのだろうか。だとすると、かつてあった畑や原っぱも、そこへ行けばあるのだろうか。ひまわり畑も……
外へ……外へ。ぼくらは向かっていたはずだ。
だけど、まさか、下水は都庁タワーへ通じていたの?
ぼくらの目の前にあらわれた都庁タワー。
ぼくらは、必死で逃げた。機械の鳥たちに追われて。あの暗くて細い道を、ひたすら戻った。ぼくは何度か、腕や足に、鋭い痛みを感じた。羽音が間近に聴こえて、グズモのまっ黒な影がすぐ横をよぎった。ぼくを先に行かせてうしろを走っているカケラが「イキ。振り向くな、はやく逃げるんだ!」言いながら、持っているかばんで、まつわりつく鳥たちを打ち払っていた。
ぼくは走った。
脇を流れる下水へ落ちたら、タワーの方へ逆戻りに流されてしまう。流れは速い。いやその前に、溺れて、死んでしまうかもしれない……
すぐ前方の壁にある鉄の扉が開いた。と思うと、おおきな手が現れ、ぼくをつかんだ。
「イキ!」
カケラの声が響いた。
ぼくは、鉄の扉のなかへ引きずりこまれた。
都庁タワーには、選ばれた少数の人たちが、暮らしている。その人たちは、この世界の指導者たちだ。
都庁タワーで生まれた、この世界を担っていく指導者の子どもたちは、最初から都庁タワーでふさわしい教育を受け、指導者をついでいく。
それから、高等部に進級する時点で行われる進級テストでA判定を受けたほんの一にぎりの人たちも、都庁タワーに移ることになる。なかには、とびぬけた才能を発揮して指導者の仲間入りをはたす者もいるらしい。多くは都庁タワーで高等教育を受け、学校の先生や工場長として、卒業後、色んな町に送られることになる。特別に体力や力のある者も、都庁タワーへ入って育てられ、そういう人は守衛や、なかには体育の先生になる。ほかに、もっと少ないけど、特別な技術や才能を持つ人も、都庁タワーにいるって聞いたことがある……
普通の人は、B~Dの判定を受け、地下寮でそのまま学力に合わせた高等部のクラスに振り分けられることになる。そこで、それぞれが将来することになる仕事の技術や技能を教えられる。B、C、Dと下がるにしたがって、過酷で汚い労働に就くことになる。だから、皆が勉強のことを気にするのは無理もないと思う。Dの人というのは、ぼくらの町では見たことがない。そういう人たちは、もっと郊外に暮らしているだって。郊外。より、外側の世界……もしかしたら、その人たちだったら、海を知っている?
もう一つ、E判定というのがあって、その判定を受けたものもまた、都庁タワーに行くことになるんだ。だけどその人たちは、そこで教育を受けるわけじゃない。都庁タワーにも、地下がある。そこへ送られるという。そこでどうなるのか、ただ、Dの人よりもっと過酷なことをするとか、悲しいことになるとか、あいまいなことしか聞かない。生徒の噂では、なぜだかしらないけど殺し合いをさせられるとか、実験という色んな方法で殺されるとか、そうして殺されたあとは〝食糧〟にされるのだとかいうことになっていた。
ぼくらは「にく」を主食にしている。ほかには「やさい」や「ごはん」がある。「やさい」や「ごはん」は、ぼくらの町でもビニルハウスや管理工場で作られている。だけど「にく」の工場というのはない。ある友だちは「にく」の素材こそが〝食糧〟にされた人たちなのだという。実際「にく」というものがどこで作られているのかは、授業でも習わない。ぼくはおじいちゃんの本で、かつてウシやブタというものがいて、それが「にく」の材料にされていたと読んだことがある。だけどそういった生きものは、ぼくらの町にはどこにもいないのだ。郊外とよばれるところに、ウシやブタはいるのだろうか。だとすると、かつてあった畑や原っぱも、そこへ行けばあるのだろうか。ひまわり畑も……
外へ……外へ。ぼくらは向かっていたはずだ。
だけど、まさか、下水は都庁タワーへ通じていたの?
ぼくらの目の前にあらわれた都庁タワー。
ぼくらは、必死で逃げた。機械の鳥たちに追われて。あの暗くて細い道を、ひたすら戻った。ぼくは何度か、腕や足に、鋭い痛みを感じた。羽音が間近に聴こえて、グズモのまっ黒な影がすぐ横をよぎった。ぼくを先に行かせてうしろを走っているカケラが「イキ。振り向くな、はやく逃げるんだ!」言いながら、持っているかばんで、まつわりつく鳥たちを打ち払っていた。
ぼくは走った。
脇を流れる下水へ落ちたら、タワーの方へ逆戻りに流されてしまう。流れは速い。いやその前に、溺れて、死んでしまうかもしれない……
すぐ前方の壁にある鉄の扉が開いた。と思うと、おおきな手が現れ、ぼくをつかんだ。
「イキ!」
カケラの声が響いた。
ぼくは、鉄の扉のなかへ引きずりこまれた。
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