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岸野さんの秘密
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「て、事はやっぱり」
岸野さんは顔を俯かせた。
「うん。でも半分正解だよ。厳密には、私の存在を識別しにくくなって、最終的にいなかったことになるって感じ。」
「いなかったことになる…?」
「そう、なんでそうなるのかは分からない。でも、私の名前を見たり聞いたりした人の記憶から、私は消えてしまう。いなくなってしまうの。」
「だから岸野さんに話しかけに行く奴はいなかった。転入生だと言うのに。」
それなら最初のクラスメイトの熱狂っぷりと、実際に会った時のギャップにも説明がつく。
すると、岸野さんは小さく啜り声を上げ始めた。
「そう…なの。今までどこに行ってもずっと一人ぼっちで…昔はこんな事無かったのに。なんでか急に、皆私の事知らんぷりするようになって。何度話しかけてもすぐ忘れられちゃうし。両親もだんだんと私の事忘れだしてるし。それなのに一人暮らししろだなんて、忘れたいですって言ってるようなものじゃん…」
徐々に啜り声が大きくなり、感情的に喋る岸野さん。
僕は、ただ黙ることしか出来ない。
正直、意外だ。あんなに明るく話していた先程の様子からは想像もつかない程の変貌っぷり。それほど、彼女の抱えていたものはとてつもなく大きくのしかかっていたのだろう。
(僕は、どうしたらいい…?)
こういう時に限って、頭は上手く働いてくれない。何も、答えを導き出さない。
彼女は今も話し続けている。もはや錯乱していると言ってもいいほどに。
だからこそ、沢山の、或いは一瞬の時間。悩み、悩み、情けないほど悩み続けて。
そして…
「……えっ?」
彼女の手を、握っていた。
「澄風…くん?」
「ごめん。あんまり気の利いた言葉は思い浮かばなかった。でも1つだけ言えることがある。」
「………」
岸野さんは口を閉ざした。まるで続きを促すかのように、静かに。
「君は、もう1人じゃない。この2日間、僕の頭の中に、君は居続けていたよ。」
結局、考えた事は全て無駄になり、言葉は直感的に放たれた。だからこそ、本心からの言葉だ。
「………」
「………」
2人の間に、静寂が流れた。
が、
「………ふふっ」
(ん?)
「あははは!澄風くん、必死すぎてちょっと変な顔になってる!!」
「ちょっと!?笑わないでくれますか!?これでも真剣に…」
「分かってる分かってる、でも流石にその顔は…ふふっ」
「あ、また笑った!?」
そんなに変な顔をしていたのだろうか??
「ごめんごめん、でも、唇すごい震えてたし、全体的にめちゃめちゃ強ばってたから!」
「しょうがないじゃないか!こちとらこんな場面初めてだったんだぞ!?」
「にしてもだよ、ふふふ」
流石に笑いすぎじゃないだろうか。慣れないことをした分、ものすごく凹むのだが…
まあ、でも。
今も尚、笑い続ける岸野さんを見ると、
(やっぱり岸野さんには、笑顔が1番似合うな)
そう思った。
「あれ、澄風くん、笑ってる?」
「え?」
言われて気づいた。岸野さんにつられて、僕も笑っていたらしい。
「最初に話した時から殆ど笑わなかったから、表情筋の切除手術でもしたのかなって思っちゃったよ」
「えらく限定的な勘違いだね?僕だって笑う時くらいあるさ…」
「流石に冗談!でもね?」
そう言いながら、岸野さんは僕に背中を向け、歩き出しながら。
「笑顔、とっても似合ってたよ」
と言った。
岸野さんは顔を俯かせた。
「うん。でも半分正解だよ。厳密には、私の存在を識別しにくくなって、最終的にいなかったことになるって感じ。」
「いなかったことになる…?」
「そう、なんでそうなるのかは分からない。でも、私の名前を見たり聞いたりした人の記憶から、私は消えてしまう。いなくなってしまうの。」
「だから岸野さんに話しかけに行く奴はいなかった。転入生だと言うのに。」
それなら最初のクラスメイトの熱狂っぷりと、実際に会った時のギャップにも説明がつく。
すると、岸野さんは小さく啜り声を上げ始めた。
「そう…なの。今までどこに行ってもずっと一人ぼっちで…昔はこんな事無かったのに。なんでか急に、皆私の事知らんぷりするようになって。何度話しかけてもすぐ忘れられちゃうし。両親もだんだんと私の事忘れだしてるし。それなのに一人暮らししろだなんて、忘れたいですって言ってるようなものじゃん…」
徐々に啜り声が大きくなり、感情的に喋る岸野さん。
僕は、ただ黙ることしか出来ない。
正直、意外だ。あんなに明るく話していた先程の様子からは想像もつかない程の変貌っぷり。それほど、彼女の抱えていたものはとてつもなく大きくのしかかっていたのだろう。
(僕は、どうしたらいい…?)
こういう時に限って、頭は上手く働いてくれない。何も、答えを導き出さない。
彼女は今も話し続けている。もはや錯乱していると言ってもいいほどに。
だからこそ、沢山の、或いは一瞬の時間。悩み、悩み、情けないほど悩み続けて。
そして…
「……えっ?」
彼女の手を、握っていた。
「澄風…くん?」
「ごめん。あんまり気の利いた言葉は思い浮かばなかった。でも1つだけ言えることがある。」
「………」
岸野さんは口を閉ざした。まるで続きを促すかのように、静かに。
「君は、もう1人じゃない。この2日間、僕の頭の中に、君は居続けていたよ。」
結局、考えた事は全て無駄になり、言葉は直感的に放たれた。だからこそ、本心からの言葉だ。
「………」
「………」
2人の間に、静寂が流れた。
が、
「………ふふっ」
(ん?)
「あははは!澄風くん、必死すぎてちょっと変な顔になってる!!」
「ちょっと!?笑わないでくれますか!?これでも真剣に…」
「分かってる分かってる、でも流石にその顔は…ふふっ」
「あ、また笑った!?」
そんなに変な顔をしていたのだろうか??
「ごめんごめん、でも、唇すごい震えてたし、全体的にめちゃめちゃ強ばってたから!」
「しょうがないじゃないか!こちとらこんな場面初めてだったんだぞ!?」
「にしてもだよ、ふふふ」
流石に笑いすぎじゃないだろうか。慣れないことをした分、ものすごく凹むのだが…
まあ、でも。
今も尚、笑い続ける岸野さんを見ると、
(やっぱり岸野さんには、笑顔が1番似合うな)
そう思った。
「あれ、澄風くん、笑ってる?」
「え?」
言われて気づいた。岸野さんにつられて、僕も笑っていたらしい。
「最初に話した時から殆ど笑わなかったから、表情筋の切除手術でもしたのかなって思っちゃったよ」
「えらく限定的な勘違いだね?僕だって笑う時くらいあるさ…」
「流石に冗談!でもね?」
そう言いながら、岸野さんは僕に背中を向け、歩き出しながら。
「笑顔、とっても似合ってたよ」
と言った。
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