空は曇り、雨は上がる

アルナ

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勇気をだして

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お昼休みに入り、僕はいつものようにお弁当を食べ始める。

「おー!肉じゃがだー!本当に作ったんだね??」

またもや購買のお弁当を持ってきた岸野さんは、僕のお弁当を見て目を輝かせていた。

「まあね、割と美味しくできたと思うよ」

「すごいすごい!!でも肉じゃがってお弁当に入れて大丈夫なの?なんだか腐りやすそうなイメージあるけど…」

「何もしないと多分すぐ腐ると思うよ、でも箱に入れる前にキッチンペーパーで水分をとって、肉じゃがの下に鰹節とかを敷いたりすると少なくともお昼までは長持ちするよ。あ、もちろん保冷剤もね」

「そうなんだ!?全然知らなかったなぁ…澄風くんって物知りなんだね?」

「まあね、ちょっと色々あって」

「ちゃんと一人暮らししてるって感じがしてすごい!私も見習わなきゃなぁ…」

「岸野さんはまず、朝早く起きれるようにしないとね」

「やっぱりまずはそこからだよねー…つらい…」

割と致命的なまでに弱かったみたいだ。本人も気にしてるみたいだし、これ以上は言わないであげよう。

「ここの購買のお弁当って美味しい?僕まだ食べたことなくて…」

「結構美味しいと思うよ?コンビニとかと似たようなクオリティって感じ!」

「そうなんだ、お弁当考えるの面倒くさくなったら買ってみようかな?」

「私のオススメはオムライスだよ!デミグラスソースが堪らないの!私的ティア1だよ!」

この人まだ2日目なのにもうティアランク表作り始めたよ…

「まだ2種類しか食べてないけどね!!」

「自覚あったんだ…」

「えへへ、でもオムライスが美味しいのは本当!機会があったら是非!」

「そうだね、覚えておくよ」

          *

(やっぱり、変だ。誰も岸野さんをいないものと思ってるみたいだ。)

休み時間に、岸野さんがいないタイミングで、色んなクラスメイトに声をかけて岸野さんについて聞いてみた。

しかし、誰も岸野さんについて知る人はいなかった。エイジと同じように転校生の話を出して、ようやくいたような気がするって程度の認識だった。

(話せるやつには声をかけてみたが、全滅か。この調子じゃ、多分誰も認識してないんだろう)

だんだんと、あまり関わっていい類の話ではない気がしてきた。だけど、

(知りたい。どうしてこんな現象が起きてるのか。それに、岸野さん本人についてももっと知りたい。)

やはり勇気を出して本人に聞くしかないか……

「澄風くん?おーい!!澄風くーん!!」

「うわっビックリした」

「とか言いながら、全然驚いてる感じしないね!どうしたの?何か考え事?」

聞くなら今…でも、どう聞き出せばいいんだ…?

「また考え込んでるね、結構難しい話だったりするのかな?」

「まあ、そうだね。どう言えばいいのか分からなくて」

「じゃあ、一緒に帰りませんか…?私、澄風くんに話したい事があるの」

「話したいこと?」

「うん、多分、今澄風くんが悩んでる事に関係してると思う。違ったらごめんなさいだけどね!」

(関係してるってことは…多分、岸野さんは分かってるんだ。)

まだ何も聞いていない。だけど、感じた。岸野さんは僕が悩んでることに対して答えを持っている。

「分かった、じゃあ一緒に帰ろう」

「うん!ありがとうね!」

そう元気よく返事をした岸野さん。だけど、少しだけ声が震えている気がした………

          *

(どうしよう…ものすごく…気まずい…!)

意気揚々と帰ろうなんて言ったはいいものの、何を話していいか分からなくなっていた。こういう時、話しを切り出せないのは男として恥ずべきなんだろうな。

とにかく、まずは話を切り出さないと…!

「あ、あの!!」
「あ、あの!!」

「あ、ごめん、どうした?」

「私の方こそ、ごめんね?澄風くん、話していいよ?」

「あ、うん。ありがとう。えっと…」

勇気を出せ!僕!聞くんだ!

「あ、き、岸野さんって、ぼっちなんですか!?」

しまった。考えうる限り最悪の聞き方した…

「あ、ごめん!違う!そうじゃなくて…」

「…ぷっ、あはははは!何それ!面白い!!」

何故か急に子どものように笑い始めた岸野さん。

「え、えっと…」

「澄風くん流石に失礼すぎるよ!!あはははは!お腹ちぎれちゃいそう!」

「そ、そんなに笑う…?」

「ごめんごめん!ちょっと拍子抜けしちゃって!あはは!」

何かよく分からないけど、ちょっとは空気が和んだみたいだ。

「そうだね、一応答えるけど、私友達はほとんど出来たことない!」

「えっと…ごめん。その、なんて声をかけていいのか」

「そこで憐れみの目を向けられるのが1番心にくるの知ってるかなー??」

「知ってて言ってるよ」

「尚更タチ悪い!?でもまあ、いいや!どうしてそんな失礼なことを聞いてきたのかな?」

「本当にゴメンナサイ。なんて聞いたらいいのか分かんなくって、こんな感じになっちゃった。ちゃんと整理したからもう1回聞き直すね。」

「うん。」

今度こそ。

「岸野さん。あなたは、周囲に忘れられてしまう体質。では無いですか?」

「………」

再び、二人の間に無言の時間が生まれる。

もしかして、間違えてしまったのでは。そんな不安が頭をよぎる。

1秒が永遠にも感じられる。それほど緊張している。長い長い時間をかけて、岸野さんはようやく口を開いた。






「やっぱり…分かっちゃう…よね」

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