空は曇り、雨は上がる

アルナ

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岸野さんの秘密…?

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「お、おいエイジ。冗談はよせよ?」

何言ってんだこいつ…?

「いやじょーだんじゃねーよ、誰だか分かんね…いや待てよ、聞き覚えはあるな?」

「聞き覚えも何も、今日転校してきた女の子だよ、今朝話してただろ?」

「あー!!そんな奴もいたな!!そうかそうか、岸野って言うのか!」

「いい加減面白くないぞ?」

「いやいや、ガチで忘れてたんだって。それに今も、顔とか体つきとか思い出せねーしな!」

どうなっている?にわかには信じ難いが、エイジは本当に岸野さんのことを忘れていたらしい。こう見えてこいつは、頭もいいし、何より、人の顔を忘れるような奴じゃない。

(じゃあどうして忘れてたんだ…?)

「それに、朝はあんなに楽しみにしてたのに、どうして休み時間とか話しかけに来なかったんだ?」

「いや、なんつうか、朝礼から岸野って奴をっつーか、そこの部分だけぽっかりと穴が空いていたっつーか…俺にもよく分かんねー!気がついたらいつもと同じように過ごしちまってた」

「言ってる意味がサッパリだぞ?」

「俺も理解出来てないからな!なんなら多分、お前以外も全員俺みたいになってたんじゃないか?」

ますます分からなくなってきた。どうなっている?何故皆忘れていた?何故僕だけ覚えていた?分からない。

そして、それを恐らく岸野さんはこの現象についても知っている。

(明日聞いてみるか?でも、今の関係が壊れるのは嫌だな…)

思い出すのは今日1日の思い出。初対面でいきなり一目惚れをし、2人で話すうちに次第に楽しくなり、気がつけば1日のほとんどを岸野さんと過ごしていた。

これが日常となればどれほどいいだろうかとも考えた。しかし、このままでは、岸野さんは苦しい思いをするかもしれない。自分に出来ることは少ないだろうが、それでも岸野さんの力になりたい。

また、自身の理解の及ばない事象に興味を持つ自分もいた。

(だけどまあ、急ぎすぎる必要も無いか…会って間もない人間に聞いても答えてくれないだろうし。)

散々悩んだ挙句、先延ばしすることにした。我ながら奥手だなとそう感じずにはいられない。

「なにそんな仏頂面してんだよ?せっかくのイケメンが台無しだぞ??」

「イケメンって…お前にだけは言われたく無いな」

イケメンから言われるイケメン程、腹が立つ言葉はそうそうないだろう。

「マジで言ってんだけどなぁ…」

と、言葉を零すエイジ。いや本当、何言ってんだこいつ。

などと話しているうちに、エイジの家が見えてきた。

「そろそろだな、じゃあな、エイジ」

「おう!じゃあな!!あ、そうだ!明日から梅雨入りするらしいから、傘忘れんなよ??」

「お前って意外にそういうの見るよな」

「意外ってなんだよ!?」

エイジの悲痛な叫びを無視しつつ、僕らは別れる。

(さてと、色々不可解なことが起きてるが、分かんないものはしょーがない。後回し、だな。)

一旦気持ちをリセットしよう。そう考え、僕は今日の晩御飯の献立を考えながら、来た道を少し戻り、スーパーへと向かうのだった。

          *

(今日は何食べようか…たまには肉じゃがとか作るのもいいか…?)

今日はなんだか和食の気分だったため、晩御飯は肉じゃがにすることにした。

(結構作るの楽だし、ある程度保存もきくからいいよな。)

そう、ああ見えて肉じゃがは楽に作れる。適当に食材を切って、味調節しながら煮込めばできるから楽だ。

(はは、こんな説明をするなんてらしくないな…)

そんなことを考えながらどんどん食材をカゴに詰める。

人参、じゃがいも、玉ねぎ、豚肉、しらたき。

ひとしきり詰めたあと、レジへと向かう。が、途中の惣菜コーナーにて見覚えのある人物を発見する。

(あれ、岸野さんだ。何見てるんだろ…揚げ物?)

そこには惣菜コーナーで揚げ物を物色する岸野さんがいた。どうやら、唐揚げかアジフライかで頭を悩ませている様子。

(これって声掛けるべきなのか…?さっきの件は置いておくにしろ、ちょっと気まずいな…てか何でその2つなんだ…)

街中で知り合いと会うと気まずいのは周知の事実だろう。僕もまさにその状態だ。しかも、揚げ物を見ている所だと尚更。だが、そうも言ってられないだろう。折角なら話しかけねば…。

「うーん…唐揚げ、アジフライ…唐揚げの方がカロリーは低いけど、アジフライも食べたいしなぁ…悩むなぁ…」

「揚げ物、好きなの?」

「ふぇ!?あ、澄風くん!こんな所で会うなんて奇遇だね?これは別にー、好きとかそんなのじゃなくて、ただ見てただけで…」

「5分くらいずっとそこに居たけど?」

「え、見てたの!?うぅ…恥ずかしい…そうですよ…好きですよ!特にアジフライがだいすきなんです!!!?でもカロリー気にして唐揚げにしようかなとか考えてました!!?おかしいですか!!?」

「まだ何も言ってないけど!?」

そんな風にテンパる岸野さん。

「というより、別に変じゃないと思うよ。男だからとか女だからとか、そんな下らない理由で好きなものやりたいものを制限されるって、普通におかしいと思う。」

「澄風くん…意外といい事言うんだね…」

「一言余計だし普通に失礼だからね?」

そんな僕の言葉は、あっさりとスルーされてしまうのだった。
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