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17.二人の少女
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屋根の下にちょこんと佇むカフェが見えた。ガラス戸が端にすべて引き込まれ、空間すべてが外部に開放されている。カフェの奥には光庭があり、少女が二人見えた。顔立ちがどことなく似ているから姉妹なのだろう。彼女らはするっとカフェを横断し、ぼくらに笑顔で近づいてきた。
「あの、ひまですか?」
「まあ、それなりに」
ぼくはサチヤさんと目を見合わせた。
「よかったね」
少女らは満面の笑みで互いにうなづき合った。
「私たち、練習しているんです。見てください」
「あそこが広くていいんじゃない?」
妹のほうが言った。
「お遊戯?」
ぼくは聞いた。
「練習しているダンスなんです。歌にあわせて踊るんです。こっちに来てください」
姉のほうがこたえた。ぼくらは外へ出た彼女らについていった。ガラスに映りこむ彼女らの姿には、ぼくら以外に風景もついてきた。
芝生の真ん中まで行くと、彼女らは「はじめます」とかも言わずに踊りはじめた。
「歌にあわせて踊るって言っていませんでしたっけ?その歌がないですよね」
ぼくはサチヤさんに言った。彼はくすくす笑いながら彼女たちをながめていた。無音の中、ぼくらは彼女らのダンスをおよそ一分間ほど見ることになった。昨日の雨を吸った芝生は日の光で淡く輝き、少女らと同化し始めた。
終わりなのだろうか。踊りきったと言わんばかりに、少女らは満足そうな笑みを浮かべた。その表情は芝生の明るさに近かった。ぼくらのパチパチという拍手が沈黙を破った。なんで歌わなかったの?ぼくが聞こうとしたとき、妹のほうが坂に向かって急に走り出した。
「突飛だな」
ぼくはふうと息を吐きながら言った。姉のほうに目をやると、彼女は悲しそうに上っていく妹を見ていた。
「どうしたの?」
「私、足を痛めているんです」
彼女の腿のまわりには、たしかに包帯が巻かれていた。白いショートパンツを履いていたせいなのだろう、ぼくは彼女に言われて初めて気がついた。
「さっき痛いのに踊ったの?」
「だって、あなたたちが見たいっていうから」
「え」
「そうでしたか、無理させてすまなかったですね」
サチヤさんがすかさず彼女にあやまった。ぼくの戸惑う声に彼のそれが被さり、ぼくらは彼女にあやまった、ということになった。
「いいんです。そんなにもう痛くありませんから」
彼女は坂を上っていった。本人に言われたせいだと思うが、彼女は少しだけ足を引きずっているように見えた。
「あの、ひまですか?」
「まあ、それなりに」
ぼくはサチヤさんと目を見合わせた。
「よかったね」
少女らは満面の笑みで互いにうなづき合った。
「私たち、練習しているんです。見てください」
「あそこが広くていいんじゃない?」
妹のほうが言った。
「お遊戯?」
ぼくは聞いた。
「練習しているダンスなんです。歌にあわせて踊るんです。こっちに来てください」
姉のほうがこたえた。ぼくらは外へ出た彼女らについていった。ガラスに映りこむ彼女らの姿には、ぼくら以外に風景もついてきた。
芝生の真ん中まで行くと、彼女らは「はじめます」とかも言わずに踊りはじめた。
「歌にあわせて踊るって言っていませんでしたっけ?その歌がないですよね」
ぼくはサチヤさんに言った。彼はくすくす笑いながら彼女たちをながめていた。無音の中、ぼくらは彼女らのダンスをおよそ一分間ほど見ることになった。昨日の雨を吸った芝生は日の光で淡く輝き、少女らと同化し始めた。
終わりなのだろうか。踊りきったと言わんばかりに、少女らは満足そうな笑みを浮かべた。その表情は芝生の明るさに近かった。ぼくらのパチパチという拍手が沈黙を破った。なんで歌わなかったの?ぼくが聞こうとしたとき、妹のほうが坂に向かって急に走り出した。
「突飛だな」
ぼくはふうと息を吐きながら言った。姉のほうに目をやると、彼女は悲しそうに上っていく妹を見ていた。
「どうしたの?」
「私、足を痛めているんです」
彼女の腿のまわりには、たしかに包帯が巻かれていた。白いショートパンツを履いていたせいなのだろう、ぼくは彼女に言われて初めて気がついた。
「さっき痛いのに踊ったの?」
「だって、あなたたちが見たいっていうから」
「え」
「そうでしたか、無理させてすまなかったですね」
サチヤさんがすかさず彼女にあやまった。ぼくの戸惑う声に彼のそれが被さり、ぼくらは彼女にあやまった、ということになった。
「いいんです。そんなにもう痛くありませんから」
彼女は坂を上っていった。本人に言われたせいだと思うが、彼女は少しだけ足を引きずっているように見えた。
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