3度目に、君を好きになったとき

夏伐 碧

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Epilogue

君が忘れた、あの空を-2

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 もしも未琴みたいに、美人で誰とでも仲良くできる性格なら。
 椎名さんみたいに爽やかで明るくて、スポーツが得意なら。
 誰かに憧れてもらえる存在なら、もっと自信を持てたのだろうか。

 ……だけどそれは、今となっては言い訳だったのだと思う。
 努力して頑張っていれば、誰かが認めて応援したくなる。
 そんなことも気づかずに、ただ、嘆いて過ごしていた私。
 動かずに待つだけの人間で。何の努力もしないで自分を変えることを怠り、受け身でいたところで、誰も見つけてくれはしない。
 いつまでも独りで、うずくまっているだけ。

 
「元々知っている人間のことを判断するのは難しいね」
「はい……」
「その判断は千尋たちに任せることにして――結衣は、自分の心配もした方がいいんじゃない?」

 西の空を見つめていた先輩が、私の方へと視線を移す。


「……自分の?」
「三井たちから、嫌がらせは受けてない?」
「あっ、それはもう、大丈夫です。三井先輩とはその後すれ違うこともないし。最近、沢本君も話しかけて来なくなりましたから」

 今のところは特に問題なく、平和に過ごせている。
 それを伝えると、先輩はホッとしたように小さく息をついた。


「よかった……。また、自分たちを正当化して、何かしてくるんじゃないかと心配していたから」
「蓮先輩が助けてくれたおかげです。私は記憶を取り戻せたし、過去の自分とも向き合えたので。本当に……ありがとうございます」

 感謝の気持ちを込め、深くお辞儀をする。


「今まで、すみませんでした」

 思えば、先輩には失礼なことばかり言ってしまった。
 記憶を操作され、忘れていたとはいえ、何度彼を傷つけたかと思うと心が痛む。
 それこそ、とっくに嫌われてしまっていても、おかしくはない。
 そして、一番謝らないといけないのは――


「中学のとき、先輩の告白を断ってごめんなさい」
「……」
「すごく、嬉しかったのに」

 今頃後悔しても、取り戻せない。
 先輩を傷つけたことに変わりはないのだから。


「結衣……」
「過去の自分を知られて、軽蔑の目で見られたらと思うと、怖くて受け入れられなかったんです」

 弱くて、そんな自分が情けない。
 なのに先輩は、歩みを止めたあと、私の髪を優しく撫でてくれた。


「僕の方がごめん。ずっと結衣が苦しんでいたのに、気づいてあげられなかった」
「そんな……、先輩は悪くありません」

 そばにいる彼を見上げたら、切なさを混じえた真剣な瞳と視線がぶつかって、心臓がドキリと高鳴る。


「僕は好きだよ、結衣のこと」

 さらりと言われ、息をのんだ。
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私の過去は、誰にも言えない。憧れている美術部の先輩に嫌われる前に、ある人に頼んで過去の記憶を一部消してもらったが……。
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