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第8章
永遠に消えない青-8
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「あんなに白坂が嫌がるとは思わなくて、あとから罪悪感にさいなまれて……」
真鳥が話している間、未琴は終始唇をかみしめてうつむいていた。
「沢本は、白坂が一見おとなしい感じに見えるから、このことは誰にも話さないと思ったらしく、誰かにばれることを気にしてなかった。だけど俺たちは……周りから悪者扱いされて、嫌われたくなかったから」
嫌われたくなかったのは、私も一緒だ。
蓮先輩との関係を妬んだ沢本君は、三井先輩にそそのかされ。真鳥や未琴を使って私を閉じ込めたあと、体に無理やりキスをした。
男好きだという噂を流されて、一部の女子から無視をされ、否定もできなくて。
そんな、嫌われている自分と付き合ったら、蓮先輩も変な目で見られる。
そして、いずれは自分のことも疎ましく思うかもしれない……。
それが怖くて、先輩からの告白を断ったんだ。
やっと繋がった。
記憶の断片。
それまで黙っていた未琴が顔を上げ、ためらいがちに口を開く。
「柏木先輩。私が関わっていること、いつから知ってたんですか?」
「確信を持ったのは、ついさっき……かな」
「じゃあ、千尋先輩は……?」
「千尋には、まだ言っていない」
複雑な表情で、未琴は唇を引き結んだ。
何かを悔いるように。
千尋先輩の名前が未琴の口から出て、やっぱり……と私は思った。
「高校に入ってから私に近づいたのは、そういう理由だったんだね。未琴は全然私とタイプが違うから、不思議に思ってたんだ」
千尋先輩との仲を深めるためと、私の記憶を消すために。
もし過去の行いがばれても、私が認めなければ、なかったことにできるから。
きっと、未琴はいじめに加担していた事実を忘れさせるため、真鳥に頼んだのだろう。
友達でいてくれたのは、千尋先輩に近い場所にいた私を、監視する目的もあったかもしれない。
「結衣に近づいたのは、目的のためだけじゃないよ。ちゃんと、結衣と友達になりたくて声をかけたの。昔のことは全部謝るから……。お願い、千尋先輩にだけは言わないで」
必死な様子の未琴の目に、じわりと涙が浮かぶ。
いつも気の強い彼女の泣き顔を、初めて見た。
「――それって、都合がよすぎるんじゃないか?」
不意に新たな声がして、木陰の向こうから一人の生徒が姿を現した。
聞きなじみのある声の持ち主は、蓮先輩の親友だった。
「っ、千尋先輩……いつから聞いて……」
未琴が真っ青になり、綺麗な顔を引きつらせる。
まさに今、話題にあがっていた張本人がそこにいた。
「過去におかした罪って、消えないと思うんだよな。俺はさ」
未琴の前に立った千尋先輩は、落ち着いた低い声で話し出した。
「相手が許してくれない限り、忘れたフリや、なかったことになんてできないんじゃないか」
「ごめん、なさい……」
嫌悪の眼差しを未琴へ向けているわけではなかったけれど、いつもより冷たい空気を含ませている。
未琴は微かに震えていて、ショックを受けていることは明らかだった。
「もし許してくれたとしても。相手の心には、ずっと傷が残るから。だから……、わかるよな? 未琴」
幾分か和らいだ視線を受けた未琴は、無言でうなずき、涙を一粒こぼした。
その様子を見て、私たちはそっと校舎裏をあとにする。
夕陽が地平線に消えるまで、二人はその場で佇んでいた――。
真鳥が話している間、未琴は終始唇をかみしめてうつむいていた。
「沢本は、白坂が一見おとなしい感じに見えるから、このことは誰にも話さないと思ったらしく、誰かにばれることを気にしてなかった。だけど俺たちは……周りから悪者扱いされて、嫌われたくなかったから」
嫌われたくなかったのは、私も一緒だ。
蓮先輩との関係を妬んだ沢本君は、三井先輩にそそのかされ。真鳥や未琴を使って私を閉じ込めたあと、体に無理やりキスをした。
男好きだという噂を流されて、一部の女子から無視をされ、否定もできなくて。
そんな、嫌われている自分と付き合ったら、蓮先輩も変な目で見られる。
そして、いずれは自分のことも疎ましく思うかもしれない……。
それが怖くて、先輩からの告白を断ったんだ。
やっと繋がった。
記憶の断片。
それまで黙っていた未琴が顔を上げ、ためらいがちに口を開く。
「柏木先輩。私が関わっていること、いつから知ってたんですか?」
「確信を持ったのは、ついさっき……かな」
「じゃあ、千尋先輩は……?」
「千尋には、まだ言っていない」
複雑な表情で、未琴は唇を引き結んだ。
何かを悔いるように。
千尋先輩の名前が未琴の口から出て、やっぱり……と私は思った。
「高校に入ってから私に近づいたのは、そういう理由だったんだね。未琴は全然私とタイプが違うから、不思議に思ってたんだ」
千尋先輩との仲を深めるためと、私の記憶を消すために。
もし過去の行いがばれても、私が認めなければ、なかったことにできるから。
きっと、未琴はいじめに加担していた事実を忘れさせるため、真鳥に頼んだのだろう。
友達でいてくれたのは、千尋先輩に近い場所にいた私を、監視する目的もあったかもしれない。
「結衣に近づいたのは、目的のためだけじゃないよ。ちゃんと、結衣と友達になりたくて声をかけたの。昔のことは全部謝るから……。お願い、千尋先輩にだけは言わないで」
必死な様子の未琴の目に、じわりと涙が浮かぶ。
いつも気の強い彼女の泣き顔を、初めて見た。
「――それって、都合がよすぎるんじゃないか?」
不意に新たな声がして、木陰の向こうから一人の生徒が姿を現した。
聞きなじみのある声の持ち主は、蓮先輩の親友だった。
「っ、千尋先輩……いつから聞いて……」
未琴が真っ青になり、綺麗な顔を引きつらせる。
まさに今、話題にあがっていた張本人がそこにいた。
「過去におかした罪って、消えないと思うんだよな。俺はさ」
未琴の前に立った千尋先輩は、落ち着いた低い声で話し出した。
「相手が許してくれない限り、忘れたフリや、なかったことになんてできないんじゃないか」
「ごめん、なさい……」
嫌悪の眼差しを未琴へ向けているわけではなかったけれど、いつもより冷たい空気を含ませている。
未琴は微かに震えていて、ショックを受けていることは明らかだった。
「もし許してくれたとしても。相手の心には、ずっと傷が残るから。だから……、わかるよな? 未琴」
幾分か和らいだ視線を受けた未琴は、無言でうなずき、涙を一粒こぼした。
その様子を見て、私たちはそっと校舎裏をあとにする。
夕陽が地平線に消えるまで、二人はその場で佇んでいた――。
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私の過去は、誰にも言えない。憧れている美術部の先輩に嫌われる前に、ある人に頼んで過去の記憶を一部消してもらったが……。
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