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第8章

永遠に消えない青-5

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 私は中学時代、周りから嫌われて、いじめられていた……。

 薄々、そんな気はしていたけれど。
 いざその事実を突きつけられ、自分の好きな人たちにまで過去を知られてしまうと、いたたまれない気分になる。

 本当は今すぐ、ここから逃げ出してしまいたい。

 でも……。何かを言わないと、一方的に誤解されたままだ。
 そう思い立ち、必死で蓮先輩に気持ちを伝える。


「私は、蓮先輩に嫌われたとしても。先輩の絵はずっと好きです。好きでいさせてください……」
「――結衣」


 蓮先輩が目を見開く。
 ほんの欠片でも、私の想いが彼に伝わっただろうか。
 三井先輩は小さく舌打ちをして、私の台詞はなかったかのように説得を再開した。


「この子のそばにい続けて、蓮まで周りから嫌われたらどうするの。一緒にいれば、変な目で見られるよ」
「……どうして、僕も結衣を嫌わないといけないの?」

 蓮先輩は静かに問い返した。


「だって、みんなから嫌われていた子だよ? 一部からとはいえ、いじめられていたんだよ!?」

 蔑んだ目で、三井先輩は私を睨みつける。


「たとえ、過去に嫌われていたからって、今の結衣のことを嫌う必要があるの?」

 三井先輩とは対照的に、蓮先輩の声に怒りや蔑みは含まれていない。


「三井だって。今まで生きてきて、人から嫌われるようなこと、一度もしていないって言い切れる?」
「……私は、白坂さんほど嫌われたことはないと思うけど。いろんな男に媚びたりもしないしね」

 皮肉げに笑ったあと、三井先輩は私の隣にいる沢本君に視線をやった。


「沢本。早くして」

 顎をしゃくり、再度連れて行くように命じる。


「嫌われ者同士、さっさと仲良くしたら」

 彼女が薄く嗤い、沢本君がためらう素振りを見せた瞬間――。

 いつの間にかそばに来ていた蓮先輩に、力強く抱き寄せられていた。
 沢本君からかばうようにするためか、距離が開く。


「蓮、何やってるの……? 正気?」

 信じられない様子の三井先輩の声がした。
 ドクドクと自分の心臓が鳴っていて、頬に蓮先輩の制服の感触がある。
 過去をばらされ、嫌われてもおかしくないというのに、彼の腕の中にいることが不思議だった。


「その表情……。人をいじめるときの歪んだ表情、嗤った顔が昔から苦手なんだ……」

 蓮先輩の低く抑えた声が、頭上から聞こえる。


「傷つけられた側は、どれだけ時間が経っても、ずっとそのときの相手の表情が残る」

 まるで、自分もその経験をしたことがあるような言い方だった。


「いじめた方は覚えていなくても。そうやって嗤われた方は、いつまでも記憶に残っているんだよ。消えないんだ、その表情が。
 きっと、大人になっても……ずっと」

「……」

「自分の友人には、そんな顔はして欲しくない」


 そっと見上げた蓮先輩の表情は、軽蔑したものではなく――ただ哀しげだった。
 蔑みや嘲りを含んでいても、おかしくはないのに。

 いじめが良くないと言うんじゃなくて。
 そのときの表情が嫌だと言うなんて……、自分でも気づかないうちに、頬に涙が伝っていた。


 怒りやショックを隠し切れないためか、三井先輩は背を向けた。
 頬を拭う仕草をしたあと、校舎の方へ戻っていく。
 沢本君もそれに続いた。


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