3度目に、君を好きになったとき

夏伐 碧

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第8章

永遠に消えない青-2

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 そっけない未琴の態度を寂しく思いながらも、放課後を迎える。

 蓮先輩のいる美術室は気まずくて入れず。
 そのまま帰ろうとしていたら、目つきの悪い沢本君に声をかけられた。


「白坂。ちょっと話があるから、一緒に帰るぞ」
「えっ……? ま、待って、やめてよ」

 痛いぐらいに手首をつかまれ、裏庭へ連れて行かれる。
 沢本君には何か、弱みを握られているような――嫌な感じがした。

 何のために、私をこんな薄暗い場所に連れてきたのだろう。
 私が沢本君のことも狙っている、という間違った噂を彼も耳にしたから?

 校舎の壁により行き止まりになったその空間で、私と沢本君は向き合う。
 手首はまだ離してくれない。


「白坂。柏木先輩だけでなく、俺のことも狙ってるんだって?」

 意地悪な笑顔で、彼が私を見下ろす。


「……違うよ、それはみんなが誤解してるだけで、」

 手首をつかんでいない方の手が、私の頬をゆっくりとなぞる。


「こんなに、うまくいくとは思わなかったな……」

 彼の目元が愉しげに歪んでいく。


「沢本君が、噂をばらまいたの……?」

 こわごわ尋ねた私に、クッと彼は肩を震わせた。


「このまま『俺と付き合い始めた』って噂を流したら、終わりだな」

 沢本君は勝ち誇ったように笑った。


「さすがにもう、嫌われるだろ。お前の大好きな柏木蓮先輩に」

 蓮先輩に、嫌われる……。

 それは私にとって、一番避けたい出来事だ。
 この世の終わりと言ってもいいくらいの――。


「おとなしく、俺と付き合っておけよ」
「……付き合わない」

 沢本君を睨むようにして断ると、彼の表情がみるみるうちに歪んでいった。


「じゃあ、ばらすからな。蓮先輩に。あのことを」
「あのこと……?」

 哀しげな目をした沢本君が、私の首に手を伸ばした。
 手のひらで首筋をなぞり、感触を確かめるように柔く圧をかける。


「本当に白坂は、俺の言うことを聞かないな」

 首にかかる両手に、それほど力は入っていない。
 いつ、力を込めて絞められるか。
 その緊張感だけがあった。

 以前も、今とほぼ同じ状況になったことがあった気がする。
 あれは確か、中学生のときに……。


「どうしたら、あいつのことを忘れる? ここまでしても、忘れないなんてな」

 彼の指が私の喉の上を滑る。


「俺のことは無視して、自分だけ幸せになろうとするなんて。都合がよすぎるんじゃないか?」
「無視……?」
「中学のときに――先輩たちに殴られてる俺のことを、見て見ぬふりをして逃げていったことがあったよな」
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私の過去は、誰にも言えない。憧れている美術部の先輩に嫌われる前に、ある人に頼んで過去の記憶を一部消してもらったが……。
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