60 / 72
第8章
永遠に消えない青-2
しおりを挟む
*
そっけない未琴の態度を寂しく思いながらも、放課後を迎える。
蓮先輩のいる美術室は気まずくて入れず。
そのまま帰ろうとしていたら、目つきの悪い沢本君に声をかけられた。
「白坂。ちょっと話があるから、一緒に帰るぞ」
「えっ……? ま、待って、やめてよ」
痛いぐらいに手首をつかまれ、裏庭へ連れて行かれる。
沢本君には何か、弱みを握られているような――嫌な感じがした。
何のために、私をこんな薄暗い場所に連れてきたのだろう。
私が沢本君のことも狙っている、という間違った噂を彼も耳にしたから?
校舎の壁により行き止まりになったその空間で、私と沢本君は向き合う。
手首はまだ離してくれない。
「白坂。柏木先輩だけでなく、俺のことも狙ってるんだって?」
意地悪な笑顔で、彼が私を見下ろす。
「……違うよ、それはみんなが誤解してるだけで、」
手首をつかんでいない方の手が、私の頬をゆっくりとなぞる。
「こんなに、うまくいくとは思わなかったな……」
彼の目元が愉しげに歪んでいく。
「沢本君が、噂をばらまいたの……?」
こわごわ尋ねた私に、クッと彼は肩を震わせた。
「このまま『俺と付き合い始めた』って噂を流したら、終わりだな」
沢本君は勝ち誇ったように笑った。
「さすがにもう、嫌われるだろ。お前の大好きな柏木蓮先輩に」
蓮先輩に、嫌われる……。
それは私にとって、一番避けたい出来事だ。
この世の終わりと言ってもいいくらいの――。
「おとなしく、俺と付き合っておけよ」
「……付き合わない」
沢本君を睨むようにして断ると、彼の表情がみるみるうちに歪んでいった。
「じゃあ、ばらすからな。蓮先輩に。あのことを」
「あのこと……?」
哀しげな目をした沢本君が、私の首に手を伸ばした。
手のひらで首筋をなぞり、感触を確かめるように柔く圧をかける。
「本当に白坂は、俺の言うことを聞かないな」
首にかかる両手に、それほど力は入っていない。
いつ、力を込めて絞められるか。
その緊張感だけがあった。
以前も、今とほぼ同じ状況になったことがあった気がする。
あれは確か、中学生のときに……。
「どうしたら、あいつのことを忘れる? ここまでしても、忘れないなんてな」
彼の指が私の喉の上を滑る。
「俺のことは無視して、自分だけ幸せになろうとするなんて。都合がよすぎるんじゃないか?」
「無視……?」
「中学のときに――先輩たちに殴られてる俺のことを、見て見ぬふりをして逃げていったことがあったよな」
そっけない未琴の態度を寂しく思いながらも、放課後を迎える。
蓮先輩のいる美術室は気まずくて入れず。
そのまま帰ろうとしていたら、目つきの悪い沢本君に声をかけられた。
「白坂。ちょっと話があるから、一緒に帰るぞ」
「えっ……? ま、待って、やめてよ」
痛いぐらいに手首をつかまれ、裏庭へ連れて行かれる。
沢本君には何か、弱みを握られているような――嫌な感じがした。
何のために、私をこんな薄暗い場所に連れてきたのだろう。
私が沢本君のことも狙っている、という間違った噂を彼も耳にしたから?
校舎の壁により行き止まりになったその空間で、私と沢本君は向き合う。
手首はまだ離してくれない。
「白坂。柏木先輩だけでなく、俺のことも狙ってるんだって?」
意地悪な笑顔で、彼が私を見下ろす。
「……違うよ、それはみんなが誤解してるだけで、」
手首をつかんでいない方の手が、私の頬をゆっくりとなぞる。
「こんなに、うまくいくとは思わなかったな……」
彼の目元が愉しげに歪んでいく。
「沢本君が、噂をばらまいたの……?」
こわごわ尋ねた私に、クッと彼は肩を震わせた。
「このまま『俺と付き合い始めた』って噂を流したら、終わりだな」
沢本君は勝ち誇ったように笑った。
「さすがにもう、嫌われるだろ。お前の大好きな柏木蓮先輩に」
蓮先輩に、嫌われる……。
それは私にとって、一番避けたい出来事だ。
この世の終わりと言ってもいいくらいの――。
「おとなしく、俺と付き合っておけよ」
「……付き合わない」
沢本君を睨むようにして断ると、彼の表情がみるみるうちに歪んでいった。
「じゃあ、ばらすからな。蓮先輩に。あのことを」
「あのこと……?」
哀しげな目をした沢本君が、私の首に手を伸ばした。
手のひらで首筋をなぞり、感触を確かめるように柔く圧をかける。
「本当に白坂は、俺の言うことを聞かないな」
首にかかる両手に、それほど力は入っていない。
いつ、力を込めて絞められるか。
その緊張感だけがあった。
以前も、今とほぼ同じ状況になったことがあった気がする。
あれは確か、中学生のときに……。
「どうしたら、あいつのことを忘れる? ここまでしても、忘れないなんてな」
彼の指が私の喉の上を滑る。
「俺のことは無視して、自分だけ幸せになろうとするなんて。都合がよすぎるんじゃないか?」
「無視……?」
「中学のときに――先輩たちに殴られてる俺のことを、見て見ぬふりをして逃げていったことがあったよな」
0
私の過去は、誰にも言えない。憧れている美術部の先輩に嫌われる前に、ある人に頼んで過去の記憶を一部消してもらったが……。
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

兄の親友が彼氏になって、ただいちゃいちゃするだけの話
狭山雪菜
恋愛
篠田青葉はひょんなきっかけで、1コ上の兄の親友と付き合う事となった。
そんな2人のただただいちゃいちゃしているだけのお話です。
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しています。
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13


【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?
宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。
そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。
婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。
彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。
婚約者を前に彼らはどうするのだろうか?
短編になる予定です。
たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます!
【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。
ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。
無敵のイエスマン
春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。
恋の続きは未定。
海津渚
青春
高校3年生。
高崎誠は2年間同じクラスだった津田煌成とクラスが離れてしまう。
同時に安藤杏華も2年間同じクラスだった小畑つむぎとクラスが離れてしまう。
離れた同士が同じクラスになり、お互い新たな感情に目覚めていく…。
そんな4人の最後の高校生活の物語。
(Imaginary)フレンド。
新道 梨果子
青春
なりゆきで美術部に入部して、唯一の部員となってしまっている穂乃花は、美術部顧問の横山先生から「油絵を描いてコンテストに出そう」と提案される。
テーマはスポーツということで、渋々ながら資料集めのためにデジカメを持ってグラウンドに行くと、陸上部のマネージャーをしている友だちの秋穂がいて、高跳びの選手である小倉先輩をオススメされる。
彼を描くことにした穂乃花だが、ある日から、絵の中から声がし始めて……?

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる