3度目に、君を好きになったとき

夏伐 碧

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第6章

白昼夢の罠-1

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 そして真鳥と約束した月曜日が来た。
 今日こそ、全ての記憶を取り戻す。
 本当の自分を知るのは怖くてたまらないけど、周囲からの視線を気にしながら生きるよりはずっといい。

 朝、教室へ向かう途中、廊下の奥から沢本君がこちらへ歩いてくるのがわかり、体が凍りついた。
 またあの鋭い目を向けられ、話しかけてきたらと思うとゾッとする。一刻も早くどこかに隠れないと。


「白坂さん、おはよー」

 そのとき、後ろから椎名さんが声をかけてくれたおかげで、沢本君はそれ以上私に近づくことはなく、教室へ入っていった。


「おはよう、椎名さん」

 もし、沢本君が私の過去を話して、椎名さんにまで嫌われたら。もう、こんな気さくに話しかけてくれることはなくなるんだろうな。
 切ない気持ちを抑え、笑顔を作る。


「そうだ白坂さん。今度一緒に帰らない? 学校の近くに行ってみたい雑貨屋があるんだよね」
「えっ、いいの? 美容室の向かいのお店だよね。私も前から気になってたんだ」
「ほんと? じゃあちょうど良かった。部活ないとき一緒に行こう」


 涼しげな瞳を輝かせ、椎名さんは爽やかに笑った。
 できることなら、真実を知らないまま、ぬるま湯につかっていたい。
 本当はこのまま平穏な生活を続けていきたいし。自分の好きな人、大切な人には私の闇の部分を知られたくない。
 そんな都合のいい話はないと、わかっているはずなのに……。



 昼休みになり、複雑な気分のまま私は中庭に呼び出された。
 強い陽射しを避けるため、木陰で真鳥と向かい合う。


「最近、何か変わりない?」

 青空をちらりと見たあと、軽く首を傾けた真鳥は何気なく訊いてくる。


「変わったこと……そういえば私、たまに過去のことを思い出すんだ」
「――え? たとえば、どんなときに?」

 切れ長の目を丸くした真鳥は、こちらへ一歩足を踏み出した。
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私の過去は、誰にも言えない。憧れている美術部の先輩に嫌われる前に、ある人に頼んで過去の記憶を一部消してもらったが……。
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