46 / 72
第5章
君に触れたら-1
しおりを挟む
*
「真鳥、ちょっと待って」
「……何、白坂」
(やっと捕まえた……!)
放課後、一人きりで廊下を歩く真鳥に、ようやく話しかけることができた。
教室に忘れ物でも取りに来たのか、サッカー部の青いユニフォームを着ている。
なぜかずっと、私を避けていた彼。
二人だけで話すのは動物園以来だ。
「私の過去について、教えてほしいの。この前、途中でやめたでしょ」
ひと気の少ない校舎の隅に誘い、真鳥を睨み上げる。
「過去、ね……」
真鳥は窓の向こうに広がるグラウンドへ目線をずらした。
「前にも言ったけど、別に知らないままでいいんじゃない? もともと、過去を忘れたいって言ったのは、白坂だよ?」
「……それでも知りたいんだ。私だけ知らないまま、呑気に学校生活を送れないよ」
深く溜め息をついた真鳥は、私へ向き直った。
「どうしてもって言うなら、教えてやれないこともない、けど」
「本当?」
「どうなっても知らないよ」
「……うん」
「それなら月曜の昼休み、空けておいて」
「わかった」
「――じゃあ俺、部活行くから」
素っ気なく話を終わらせた真鳥は、さっさと背を向け遠ざかっていった。
彼の後ろ姿を見送っていると、誰かの気配を感じ、そっと振り返る。
「――結衣?」
ちょうど階段を降りてきたのは、蓮先輩だった。
「今……、真鳥君といなかった?」
「……はい」
「前も一緒にいたね、彼に何か相談ごとでもあるの?」
動物園のときのことを言っているのだと思う。
あれは誤解されても仕方ない。
ただの同級生に額を触られているなんて、明らかに不審だ。
真鳥は『熱があるか確かめていた』と誤魔化したけど、はたから見れば、友達以上の関係と勘違いするだろう。
どう答えれば正解……?
蓮先輩には特に、私の過去のことは知って欲しくない気がする。
もし過去を知られて嫌われたらと思うと、ショックで寝込みそうだから。なるべく隠したままにしておきたい。
私自身も知らない、過去を。
「未琴のことで……、ちょっと相談があって」
「永野さんのこと?」
「はい。だから何でもないんです」
真鳥とは、何もない。
暗に伝えるためのセリフは、早口になっていた。
「そっか……。ごめん、詮索しすぎた。あのとき、真鳥くんが結衣の過去について、何か弱みでも握っているのかと思ったから」
「弱み……」
「少し心配になっただけなんだ、本当にごめん」
「――蓮?」
眉を下げ、済まなそうに謝罪する蓮先輩の台詞に、誰かの声が被さる。
「急にいなくなったと思ったら、こんなところにいたんだね」
現れたのは蓮先輩の元恋人、三井先輩だった。
「二人って……、付き合ってるの?」
険しい目つきをした三井先輩が、私たちへ詰め寄る。
「付き合ってはいないよ」
先に答えたのは蓮先輩だった。
「僕がただ、大切にしているだけ」
三井先輩がハッと息を呑む。
「真鳥、ちょっと待って」
「……何、白坂」
(やっと捕まえた……!)
放課後、一人きりで廊下を歩く真鳥に、ようやく話しかけることができた。
教室に忘れ物でも取りに来たのか、サッカー部の青いユニフォームを着ている。
なぜかずっと、私を避けていた彼。
二人だけで話すのは動物園以来だ。
「私の過去について、教えてほしいの。この前、途中でやめたでしょ」
ひと気の少ない校舎の隅に誘い、真鳥を睨み上げる。
「過去、ね……」
真鳥は窓の向こうに広がるグラウンドへ目線をずらした。
「前にも言ったけど、別に知らないままでいいんじゃない? もともと、過去を忘れたいって言ったのは、白坂だよ?」
「……それでも知りたいんだ。私だけ知らないまま、呑気に学校生活を送れないよ」
深く溜め息をついた真鳥は、私へ向き直った。
「どうしてもって言うなら、教えてやれないこともない、けど」
「本当?」
「どうなっても知らないよ」
「……うん」
「それなら月曜の昼休み、空けておいて」
「わかった」
「――じゃあ俺、部活行くから」
素っ気なく話を終わらせた真鳥は、さっさと背を向け遠ざかっていった。
彼の後ろ姿を見送っていると、誰かの気配を感じ、そっと振り返る。
「――結衣?」
ちょうど階段を降りてきたのは、蓮先輩だった。
「今……、真鳥君といなかった?」
「……はい」
「前も一緒にいたね、彼に何か相談ごとでもあるの?」
動物園のときのことを言っているのだと思う。
あれは誤解されても仕方ない。
ただの同級生に額を触られているなんて、明らかに不審だ。
真鳥は『熱があるか確かめていた』と誤魔化したけど、はたから見れば、友達以上の関係と勘違いするだろう。
どう答えれば正解……?
蓮先輩には特に、私の過去のことは知って欲しくない気がする。
もし過去を知られて嫌われたらと思うと、ショックで寝込みそうだから。なるべく隠したままにしておきたい。
私自身も知らない、過去を。
「未琴のことで……、ちょっと相談があって」
「永野さんのこと?」
「はい。だから何でもないんです」
真鳥とは、何もない。
暗に伝えるためのセリフは、早口になっていた。
「そっか……。ごめん、詮索しすぎた。あのとき、真鳥くんが結衣の過去について、何か弱みでも握っているのかと思ったから」
「弱み……」
「少し心配になっただけなんだ、本当にごめん」
「――蓮?」
眉を下げ、済まなそうに謝罪する蓮先輩の台詞に、誰かの声が被さる。
「急にいなくなったと思ったら、こんなところにいたんだね」
現れたのは蓮先輩の元恋人、三井先輩だった。
「二人って……、付き合ってるの?」
険しい目つきをした三井先輩が、私たちへ詰め寄る。
「付き合ってはいないよ」
先に答えたのは蓮先輩だった。
「僕がただ、大切にしているだけ」
三井先輩がハッと息を呑む。
0
私の過去は、誰にも言えない。憧れている美術部の先輩に嫌われる前に、ある人に頼んで過去の記憶を一部消してもらったが……。
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

兄の親友が彼氏になって、ただいちゃいちゃするだけの話
狭山雪菜
恋愛
篠田青葉はひょんなきっかけで、1コ上の兄の親友と付き合う事となった。
そんな2人のただただいちゃいちゃしているだけのお話です。
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しています。
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13


【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?
宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。
そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。
婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。
彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。
婚約者を前に彼らはどうするのだろうか?
短編になる予定です。
たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます!
【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。
ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

(Imaginary)フレンド。
新道 梨果子
青春
なりゆきで美術部に入部して、唯一の部員となってしまっている穂乃花は、美術部顧問の横山先生から「油絵を描いてコンテストに出そう」と提案される。
テーマはスポーツということで、渋々ながら資料集めのためにデジカメを持ってグラウンドに行くと、陸上部のマネージャーをしている友だちの秋穂がいて、高跳びの選手である小倉先輩をオススメされる。
彼を描くことにした穂乃花だが、ある日から、絵の中から声がし始めて……?
無敵のイエスマン
春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる