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第4章
君の描く青が好き-4
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「じゃあさ、試しに俺と付き合うっていうのは?」
首の後ろに手が回され、そのまま引き寄せられる。
視界が千尋先輩の制服でいっぱいになり、大人っぽい香りに包まれて、変にドキッとしてしまう。
「ち……近いです、先輩」
焦って制服を押し返そうとした、そのとき。
「――千尋」
涼やかな、でも不機嫌そうな声が聞こえ、さりげなく千尋先輩のそばから逃げ出した。
(見られた……、蓮先輩に)
じっと彼が見据えているのは、親友である千尋先輩。
「結衣のこと、からかうのはやめてくれる?」
瞳の奥が、いつもより暗い。
「からかってるつもりはないけど?」
「…………」
蓮先輩は静かな眼差しで、探るように見つめている。
「――あ。俺、参考書買いに行かないといけないんだった」
突然、場の空気を変えるように千尋先輩が声を上げた。
「またな、白坂」
「えっ」
「蓮、俺の代わりに送っていってくれるよな?」
「……言われなくても、結衣は僕が送るよ」
昇降口へと千尋先輩が早足に去り、薄暗い廊下には気まずい空気が流れる。
「ごめん、邪魔したかな」
ためらいがちに確認する蓮先輩に、笑顔はない。
「いえ、全然邪魔じゃないです」
むしろ助かりました。
私が慌てて首を左右に振ると、先輩は安堵したように息をつく。
「千尋の代わりで悪いけど、今日は僕に送らせて」
「……お願いします」
代わりだなんて、そんなことはないのに。
それぞれの学年で靴を履き替えたあと、校舎の外を肩を並べて歩く。
「結衣。千尋と付き合うつもりだった?」
目を合わせず、前を向いたまま蓮先輩が聞いてくる。
「――まさか。千尋先輩は私のことからかって、楽しんでるだけですから」
でも正直に言うと、蓮先輩が止めてくれて嬉しかった。
蓮先輩が間に入ってくれなかったら……流されて断りきれずに、付き合うことになっていた可能性が1ミリくらいはあった。
千尋先輩は、蓮先輩が追ってくるのを見越していたのかもしれないけれど。
帰り道、途中で近くの公園に寄っていくことになった。
いつか真鳥とも来たことのある公園だ。
夕日が消えかけ、薄暗くなってきたため、遊具で遊んでいた子どもたちも帰り始めている。
私達は公園の端に置かれたベンチに座り、話の続きをすることにした。
「千尋の本音はわからないけど。僕はなるべくなら、付き合って欲しくないって思った。
……結衣は、千尋のことをどう思ってる?」
そう尋ねてくる蓮先輩の瞳が、不安げに揺れていたのは気のせい……?
「千尋先輩は、私にとってお兄さんみたいな存在で、恋愛の対象としては見たことがないというか」
「……そう」
蓮先輩は静かにうなずくけれど、瞳の翳りは変わらないまま。
「それなら、また結衣のことを誘ってもいいのかな」
「あ、はい。……嬉しいです」
「本当に? 無理をしているなら、断っていいんだよ」
「いえ、無理はしてないですよ」
私は慌てて両手を振る。
「次はいつ会えるのかな、なんて、待っていたくらいなんですけど」
首の後ろに手が回され、そのまま引き寄せられる。
視界が千尋先輩の制服でいっぱいになり、大人っぽい香りに包まれて、変にドキッとしてしまう。
「ち……近いです、先輩」
焦って制服を押し返そうとした、そのとき。
「――千尋」
涼やかな、でも不機嫌そうな声が聞こえ、さりげなく千尋先輩のそばから逃げ出した。
(見られた……、蓮先輩に)
じっと彼が見据えているのは、親友である千尋先輩。
「結衣のこと、からかうのはやめてくれる?」
瞳の奥が、いつもより暗い。
「からかってるつもりはないけど?」
「…………」
蓮先輩は静かな眼差しで、探るように見つめている。
「――あ。俺、参考書買いに行かないといけないんだった」
突然、場の空気を変えるように千尋先輩が声を上げた。
「またな、白坂」
「えっ」
「蓮、俺の代わりに送っていってくれるよな?」
「……言われなくても、結衣は僕が送るよ」
昇降口へと千尋先輩が早足に去り、薄暗い廊下には気まずい空気が流れる。
「ごめん、邪魔したかな」
ためらいがちに確認する蓮先輩に、笑顔はない。
「いえ、全然邪魔じゃないです」
むしろ助かりました。
私が慌てて首を左右に振ると、先輩は安堵したように息をつく。
「千尋の代わりで悪いけど、今日は僕に送らせて」
「……お願いします」
代わりだなんて、そんなことはないのに。
それぞれの学年で靴を履き替えたあと、校舎の外を肩を並べて歩く。
「結衣。千尋と付き合うつもりだった?」
目を合わせず、前を向いたまま蓮先輩が聞いてくる。
「――まさか。千尋先輩は私のことからかって、楽しんでるだけですから」
でも正直に言うと、蓮先輩が止めてくれて嬉しかった。
蓮先輩が間に入ってくれなかったら……流されて断りきれずに、付き合うことになっていた可能性が1ミリくらいはあった。
千尋先輩は、蓮先輩が追ってくるのを見越していたのかもしれないけれど。
帰り道、途中で近くの公園に寄っていくことになった。
いつか真鳥とも来たことのある公園だ。
夕日が消えかけ、薄暗くなってきたため、遊具で遊んでいた子どもたちも帰り始めている。
私達は公園の端に置かれたベンチに座り、話の続きをすることにした。
「千尋の本音はわからないけど。僕はなるべくなら、付き合って欲しくないって思った。
……結衣は、千尋のことをどう思ってる?」
そう尋ねてくる蓮先輩の瞳が、不安げに揺れていたのは気のせい……?
「千尋先輩は、私にとってお兄さんみたいな存在で、恋愛の対象としては見たことがないというか」
「……そう」
蓮先輩は静かにうなずくけれど、瞳の翳りは変わらないまま。
「それなら、また結衣のことを誘ってもいいのかな」
「あ、はい。……嬉しいです」
「本当に? 無理をしているなら、断っていいんだよ」
「いえ、無理はしてないですよ」
私は慌てて両手を振る。
「次はいつ会えるのかな、なんて、待っていたくらいなんですけど」
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私の過去は、誰にも言えない。憧れている美術部の先輩に嫌われる前に、ある人に頼んで過去の記憶を一部消してもらったが……。
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