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第3章
隣の席-side蓮-2
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もしかしたら、彼女は記憶の一部をどこかに置いてきたのかもしれないと、都合よく考えて。
この旅行の前に、彼女の友人である永野未琴に確かめたこともあった。
けれど。
『永野さん……最近、白坂さんは何かを忘れたりとか、そういうことが多くなっていない?』
『え? 健忘症とかそういうことですか? 全然、ありませんよ。いつもと変わらず、普通です。……何か結衣、変な行動とってましたか?』
『……いや。何もないならいいんだ』
『そうですか。でも結衣って。昔から忘れっぽいですからね』
僕の悩みを吹き飛ばすように笑った永野未琴は、特に友人の変化を気にしていない様子で。
やっぱり自分は結衣にとって、すぐに忘れてしまうほど、重要な存在ではないのだと再確認させられた。
不意に、肩の辺りに感じていた重みがなくなり、微かに寂しさを感じる。
「あっ……すみません、私……!」
かなり焦った様子の結衣は、狭い席だというのに窓際へ思い切り体を寄せ、僕から距離をあけた。
「いや、大丈夫だよ。よく眠れた?」
「……はい」
うつむいた結衣の頬がうっすら赤い。
恥ずかしそうなその様子に、心を持っていかれそうになる。
動物園で目を輝かせる結衣は可愛すぎて、何かしてあげたい気持ちになった。だから、ついプレゼントを贈ったけれど。
積極的に行きすぎて、引かれていないか不安になった。
嬉しそうに受け取ってくれたのは社交辞令だとしたら。本当は、僕のことをどう思っているのだろう……。
自分に気持ちが向いていないなら、もっと努力するしかない。
これ以上好きになったら自分が傷を負う、という矛盾を抱えながらも。
昔とは違い、このまま諦めるという選択肢は今の自分にはなかった。
「あの。上着、ありがとうございました」
そろそろ降りる駅が近づいてきた頃、結衣は僕のコートを脱ぎ、手渡してきた。
それをそのまま羽織ったら、コートに残っていた彼女の体温と仄かな香りが、自分の肩に移ってきて。感情が顔に出ないように目を伏せた。
「蓮先輩。また一緒にスケッチできるの、楽しみにしてますね」
そう言って控えめに微笑んだ結衣は、本当に“あのこと”は忘れてしまったのだと切なく思いながら――
「……僕も、楽しみにしてる」
笑顔を作った僕は、緊張を抑えながらも小さな勇気を振り絞り、結衣の髪をそっと撫でた。
***
この旅行の前に、彼女の友人である永野未琴に確かめたこともあった。
けれど。
『永野さん……最近、白坂さんは何かを忘れたりとか、そういうことが多くなっていない?』
『え? 健忘症とかそういうことですか? 全然、ありませんよ。いつもと変わらず、普通です。……何か結衣、変な行動とってましたか?』
『……いや。何もないならいいんだ』
『そうですか。でも結衣って。昔から忘れっぽいですからね』
僕の悩みを吹き飛ばすように笑った永野未琴は、特に友人の変化を気にしていない様子で。
やっぱり自分は結衣にとって、すぐに忘れてしまうほど、重要な存在ではないのだと再確認させられた。
不意に、肩の辺りに感じていた重みがなくなり、微かに寂しさを感じる。
「あっ……すみません、私……!」
かなり焦った様子の結衣は、狭い席だというのに窓際へ思い切り体を寄せ、僕から距離をあけた。
「いや、大丈夫だよ。よく眠れた?」
「……はい」
うつむいた結衣の頬がうっすら赤い。
恥ずかしそうなその様子に、心を持っていかれそうになる。
動物園で目を輝かせる結衣は可愛すぎて、何かしてあげたい気持ちになった。だから、ついプレゼントを贈ったけれど。
積極的に行きすぎて、引かれていないか不安になった。
嬉しそうに受け取ってくれたのは社交辞令だとしたら。本当は、僕のことをどう思っているのだろう……。
自分に気持ちが向いていないなら、もっと努力するしかない。
これ以上好きになったら自分が傷を負う、という矛盾を抱えながらも。
昔とは違い、このまま諦めるという選択肢は今の自分にはなかった。
「あの。上着、ありがとうございました」
そろそろ降りる駅が近づいてきた頃、結衣は僕のコートを脱ぎ、手渡してきた。
それをそのまま羽織ったら、コートに残っていた彼女の体温と仄かな香りが、自分の肩に移ってきて。感情が顔に出ないように目を伏せた。
「蓮先輩。また一緒にスケッチできるの、楽しみにしてますね」
そう言って控えめに微笑んだ結衣は、本当に“あのこと”は忘れてしまったのだと切なく思いながら――
「……僕も、楽しみにしてる」
笑顔を作った僕は、緊張を抑えながらも小さな勇気を振り絞り、結衣の髪をそっと撫でた。
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