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第3章
隣の席-3
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動揺とは無縁の、落ち着いた横顔を見つめていると。
その肩越しに――通路を挟んだ真横の席にいる真鳥と目が合い、パッと視線をそらした。
何だろう……、あまり好意的な目つきではなかった気がする。
真鳥は何事もなかった様子で、窓際に座る椎名さんと仲良く話し始め、私は柏木先輩の陰に隠れるように体を縮めた。
ちょっとだけ苦手なタイプかも。クールな雰囲気で、何を考えているのか読みづらい。
鋭くて冷めた瞳。それが私へ向けられるたび、見張られているようにも感じてしまう。
「白坂さん、家の人は大丈夫だった? 遠出、心配されなかった?」
すぐ近くから柏木先輩に話しかけられて、それだけでいつもの数倍緊張する。
「は、はい。大丈夫でした」
「それなら良かった。遠いから反対されてないかなと思って」
安心したように柔らかな笑顔を見せるので、思わず目をそらしてしまう。
さっきの真鳥とは違った意味で。
「美術部の先輩と行くと言ったら、交通費まで出してくれました」
どんどん熱くなっていく頬は、たぶん赤いはず。周りにばれていないか不安になってくる。
「過保護だな、お前の親は」
呆れ混じりにそう言ってきたのは、もちろん千尋先輩で。
でも、私の顔が火照っていることには気づいていない様子。
「ま、蓮の方がひどいか。こいつ、家の人が全員厳しくて、『俺』禁止令が出されてるんだって」
「――オレ禁止!? じゃあ千尋先輩は、柏木先輩の家には出禁ですねー」
未琴が楽しそうに話に乗っかる。
自分を『俺』と呼ぶことが禁止……。
そういえば柏木先輩の一人称は、知っている限りでは『僕』のはず。
小さい頃は『僕』と呼んでいたとしても、普通はちょっと格好つけて男っぽさを出して。徐々に『俺』へと変わっていくものではないの?
「いや、出禁ではないけど。確かに蓮の家では無意識に猫かぶって行儀よくして、喋り方にも気をつけてるな」
「ぷふっ、優等生を演じてるわけですね」
「お前、馬鹿にしてるのか?」
千尋先輩はキッと目を吊り上げて未琴のことを睨んだ。
未琴と千尋先輩のやり取りに苦笑いしながら、柏木先輩が口を開く。
「小学生のときに。友達の影響で、家でも『俺』と言ったら。家族中から雷を落とされて、テレビを見るのが一週間禁止になったんだ。それからはずっと守ってる」
「……そんなに厳しいんですね、先輩の家」
思えば、柏木先輩は常に育ちの良さがにじみ出ていて、暑いとき以外でネクタイを緩めているところを見たことがなかった。
それも全部、家の人の言いつけを守っているから?
「何だか……窮屈じゃないですか? 家族の言うとおりにばかりしていたら」
つい、言ってはいけないと思いつつも、私の口から本音が零れていた。
「うん……だけどもう慣れてきたし。交換条件を使う知恵もついてきたから大丈夫」
「そう、ですか……」
いつも親の言うとおりにしていて、苦しくなってこないのだろうか。
私なら、いつか我慢の限界になって爆発しそう。
先輩が壊れてしまわないか、なんだか少し心配になってしまった。
その肩越しに――通路を挟んだ真横の席にいる真鳥と目が合い、パッと視線をそらした。
何だろう……、あまり好意的な目つきではなかった気がする。
真鳥は何事もなかった様子で、窓際に座る椎名さんと仲良く話し始め、私は柏木先輩の陰に隠れるように体を縮めた。
ちょっとだけ苦手なタイプかも。クールな雰囲気で、何を考えているのか読みづらい。
鋭くて冷めた瞳。それが私へ向けられるたび、見張られているようにも感じてしまう。
「白坂さん、家の人は大丈夫だった? 遠出、心配されなかった?」
すぐ近くから柏木先輩に話しかけられて、それだけでいつもの数倍緊張する。
「は、はい。大丈夫でした」
「それなら良かった。遠いから反対されてないかなと思って」
安心したように柔らかな笑顔を見せるので、思わず目をそらしてしまう。
さっきの真鳥とは違った意味で。
「美術部の先輩と行くと言ったら、交通費まで出してくれました」
どんどん熱くなっていく頬は、たぶん赤いはず。周りにばれていないか不安になってくる。
「過保護だな、お前の親は」
呆れ混じりにそう言ってきたのは、もちろん千尋先輩で。
でも、私の顔が火照っていることには気づいていない様子。
「ま、蓮の方がひどいか。こいつ、家の人が全員厳しくて、『俺』禁止令が出されてるんだって」
「――オレ禁止!? じゃあ千尋先輩は、柏木先輩の家には出禁ですねー」
未琴が楽しそうに話に乗っかる。
自分を『俺』と呼ぶことが禁止……。
そういえば柏木先輩の一人称は、知っている限りでは『僕』のはず。
小さい頃は『僕』と呼んでいたとしても、普通はちょっと格好つけて男っぽさを出して。徐々に『俺』へと変わっていくものではないの?
「いや、出禁ではないけど。確かに蓮の家では無意識に猫かぶって行儀よくして、喋り方にも気をつけてるな」
「ぷふっ、優等生を演じてるわけですね」
「お前、馬鹿にしてるのか?」
千尋先輩はキッと目を吊り上げて未琴のことを睨んだ。
未琴と千尋先輩のやり取りに苦笑いしながら、柏木先輩が口を開く。
「小学生のときに。友達の影響で、家でも『俺』と言ったら。家族中から雷を落とされて、テレビを見るのが一週間禁止になったんだ。それからはずっと守ってる」
「……そんなに厳しいんですね、先輩の家」
思えば、柏木先輩は常に育ちの良さがにじみ出ていて、暑いとき以外でネクタイを緩めているところを見たことがなかった。
それも全部、家の人の言いつけを守っているから?
「何だか……窮屈じゃないですか? 家族の言うとおりにばかりしていたら」
つい、言ってはいけないと思いつつも、私の口から本音が零れていた。
「うん……だけどもう慣れてきたし。交換条件を使う知恵もついてきたから大丈夫」
「そう、ですか……」
いつも親の言うとおりにしていて、苦しくなってこないのだろうか。
私なら、いつか我慢の限界になって爆発しそう。
先輩が壊れてしまわないか、なんだか少し心配になってしまった。
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