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第2章
雨空に焦がれて-6
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放課後の美術室は、いつもより人口密度が高かった。
奥の窓際の席にいた柏木先輩と真っ先に目が合い、胸が微かに音を立てる。
ただ視線が重なった、それだけなのに。やっぱり私は、先輩のことが好きなのだと自覚する。
その証拠に、タブレットを操作していた千尋先輩と目が合っても、体に何も変化は起こらなかったのだから。
一応、美術部員の一人である千尋先輩は、タブレットの画面上で絵を描くことが多い。
アナログが好きで水彩画を描く柏木先輩とは真逆。
他には油絵を好む人もいれば、イラストを黙々と描いている人もいて、わりと自由な部だと思う。
「……あのあと、大丈夫だった?」
不意に私の机に影が差した。顔を上げれば、柏木先輩がすぐそばに立ち、控えめにこちらを見下ろしていた。
「あ……、はい。大丈夫でした。あのときは、ありがとうございました」
生徒会長に話しかけられた際、柏木先輩に助けてもらったお礼を言う。
本当はそのあと沢本君とのトラブルがあったけれど、言い出しづらくて作り笑いをする。
こんな私を気づかってくれる先輩に、さらに心配をかけるわけにはいかなかった。
「また困ったことがあったら、僕や千尋に遠慮なく言ってね」
椎名さんに言われたのとよく似た言葉をかけられ、頬が緩む。
「はい。心配をおかけして、すみません。私がちゃんとしてないから……」
「……本当に心配だな、」
柏木先輩はまだ何か言いたげにしていたけれど。隣のクラスの村上さんが柏木先輩に話しかけてきて絵を褒め始めたので、私達の会話は終了してしまった。
キャンバスの前で会話を弾ませる二人を横目で見ていたら、胸がチクリと痛む。
私は本当に、先輩のことが……。
「――なあ、お前さ」
不意に、許可もなく隣の席に座ってきたのは、千尋先輩だ。片手でスマホをいじり、ついでのように私へ訊いてくる。
「蓮のこと、まだ好きなの?」
「……えっ」
数秒かかって、やっと質問の意味を理解した。
「千尋先輩……、なんで知ってるんですか」
“まだ好き”という部分は謎だったけど、柏木先輩のことを好きなのは当たっている。
「そんなの、見てたらわかるだろ」
バレバレだ、と言いたげに肩をすくめた彼は、呆れた顔をして私を横目で捉えた。
放課後の美術室は、いつもより人口密度が高かった。
奥の窓際の席にいた柏木先輩と真っ先に目が合い、胸が微かに音を立てる。
ただ視線が重なった、それだけなのに。やっぱり私は、先輩のことが好きなのだと自覚する。
その証拠に、タブレットを操作していた千尋先輩と目が合っても、体に何も変化は起こらなかったのだから。
一応、美術部員の一人である千尋先輩は、タブレットの画面上で絵を描くことが多い。
アナログが好きで水彩画を描く柏木先輩とは真逆。
他には油絵を好む人もいれば、イラストを黙々と描いている人もいて、わりと自由な部だと思う。
「……あのあと、大丈夫だった?」
不意に私の机に影が差した。顔を上げれば、柏木先輩がすぐそばに立ち、控えめにこちらを見下ろしていた。
「あ……、はい。大丈夫でした。あのときは、ありがとうございました」
生徒会長に話しかけられた際、柏木先輩に助けてもらったお礼を言う。
本当はそのあと沢本君とのトラブルがあったけれど、言い出しづらくて作り笑いをする。
こんな私を気づかってくれる先輩に、さらに心配をかけるわけにはいかなかった。
「また困ったことがあったら、僕や千尋に遠慮なく言ってね」
椎名さんに言われたのとよく似た言葉をかけられ、頬が緩む。
「はい。心配をおかけして、すみません。私がちゃんとしてないから……」
「……本当に心配だな、」
柏木先輩はまだ何か言いたげにしていたけれど。隣のクラスの村上さんが柏木先輩に話しかけてきて絵を褒め始めたので、私達の会話は終了してしまった。
キャンバスの前で会話を弾ませる二人を横目で見ていたら、胸がチクリと痛む。
私は本当に、先輩のことが……。
「――なあ、お前さ」
不意に、許可もなく隣の席に座ってきたのは、千尋先輩だ。片手でスマホをいじり、ついでのように私へ訊いてくる。
「蓮のこと、まだ好きなの?」
「……えっ」
数秒かかって、やっと質問の意味を理解した。
「千尋先輩……、なんで知ってるんですか」
“まだ好き”という部分は謎だったけど、柏木先輩のことを好きなのは当たっている。
「そんなの、見てたらわかるだろ」
バレバレだ、と言いたげに肩をすくめた彼は、呆れた顔をして私を横目で捉えた。
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私の過去は、誰にも言えない。憧れている美術部の先輩に嫌われる前に、ある人に頼んで過去の記憶を一部消してもらったが……。
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