3度目に、君を好きになったとき

夏伐 碧

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第2章

雨空に焦がれて-3

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 音楽の次は、未琴のクラスと合同で体育の授業だった。
 私は体育館の隅で舞台を背にして座り、バレーボールの試合を眺めていた。

 体育館はネットで半分に仕切られ、向こうの入り口側のコートでは男子がバスケの試合をしている。

 ちょうど私が視線を向けたとき、シュートを決めたのは真鳥だった。
 3ポイントが入ったようで、歓声が上がる。意外と運動神経の良いタイプらしい。

 同じチームの友人達と笑い合っていると、いつものクールな雰囲気が消え、爽やかにすら見える。


「ねえ。真鳥、いいと思わない?」


 隣に座り込んできた未琴が、私の耳元で囁く。
 いつもは下ろしている髪は、今日は動きやすくシンプルにポニーテールにしていて、それも彼女によく似合っていた。


「うん……? まあ、ね……」


 真鳥のことを見ていたのは偶然で、見惚れていたわけではない。


「今度、真鳥を誘ってみんなでどっか行こうって計画立ててるんだけど、結衣も一緒に行こうよ?」


 未琴からの誘いに、どう返したらいいものかと逡巡する。
 好きな人ができたから、もう真鳥を紹介してもらわなくてもいい。
 でも、無下に断っても気を悪くしてしまうだろうし。


「えっとね、未琴。私、実は……好きな人ができちゃって」

 だから真鳥達と一緒に出かけるのはできないと、遠回しに断ってみた。


「えっ、もう好きな人できたの? だれだれ? 私の知ってる人?」

 未琴は目をキラキラさせて、身を乗り出す。


「二年の先輩、だよ」
「……え? それって、」


 眉をひそめた未琴が何かを言いかけたとき、また歓声が上がった。今度は女子のバレーの方からだ。

 かなりの接戦で、たった今華麗にアタックを決めたのが、隣のクラスの椎名緋彩しいなひいろさん。

 誰も彼女の速い球を受けることはできなかった様子で、呆然と見送っている。

 椎名さんは背が高く、スポーツ万能。ボーイッシュな容姿で王子様みたいな雰囲気があり、女の子から絶大な人気を誇っていた。

 私も密かに憧れていて。一度も話したことがないから、いつか彼女と喋ることができたら、と願っている。

 地味で勇気のない私とは真逆の彼女だから。できることなら、椎名さんのように明るく活発な女の子に生まれたかった。

 そうしたら……もっと人生楽しかったのかな、なんてどうしようもないことを思ったりする。


 次は私のチームと未琴のいるチームとの試合が始まったので、私の好きな人の話は中途半端なまま終わってしまった。


 やっぱり、好きな人のことは誰にも秘密にしておいた方がいいかもしれない。

 私の願いは、いつも叶わない。

 好きな人がいても、片想いのまま終わる。
 それは昔から、変わらない事実だ。

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私の過去は、誰にも言えない。憧れている美術部の先輩に嫌われる前に、ある人に頼んで過去の記憶を一部消してもらったが……。
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