21 / 72
第2章
雨空に焦がれて-2
しおりを挟む
「誰かと思ったら柏木か。珍しく怖い顔してるな」
同級生の姿を目に留めた藤川先輩は、面白そうにクスリと笑う。
「白坂さんの腕を掴んでいたから、良くないことを吹き込んでいるのかと思って」
口元は笑っているのに、まるで睨み合うように生徒会長と対峙する柏木先輩。
藤川先輩の方が目つきが鋭くて怖かったけど。柏木先輩も負けてはいない。
冷え切った瞳が、いつもの優しい表情とのギャップを醸し出し、その分迫力が増して怖かった。
「生徒会に誘っていただけだ。そんなに冷たい顔しなくても、勝手に彼女をさらいはしないって」
ちらりと私へ視線をよこした藤川先輩は、軽く肩をすくめる。
「悪いけど、この子はあげないよ。僕の大事な子だから」
絶対に渡さないとでもいうように、柏木先輩が私の肩を力強く抱き寄せる。
『大事な子』って……。
私を助けるためだとしても、つい意識してしまう言葉だ。
頬がカッと熱くなり、せわしなく胸の奥が騒ぎ出す。
「ふーん……、柏木のお手つきなら遠慮するかな。他さがすわ」
小さく笑みをこぼした藤川先輩は、途端に興味を失ったらしく。私のことを見ずに柏木先輩を一瞥してから二年の教室の方へ去って行った。
姿勢の良い後ろ姿を見送りながらも、肩に置かれた手の温もりを意識して平常心でいられない私。
生徒会長の姿が見えなくなったと同時に、柏木先輩がさりげなく体を離し、私たちは向かい合う形になる。
険悪だった雰囲気が消え、いつもの優しい先輩に戻ってくれていた。
「――あの。柏木先輩、ありがとうございました」
「白坂さんて……隙がありすぎだから、気をつけてね。いろんな男に狙われそうで心配だな」
眉を悲しげに下げた柏木先輩は小さく息をつく。
「……すみません」
「でも、間に合って良かった。藤川のものになるんじゃないかと焦ったから」
「えっ?」
先輩が、焦った……?
「藤川に言い寄られているみたいに見えたし、断り切れずに承諾したらどうしようかと思って」
それは、どういう意味なのか……。
私の考えているとおりなら嬉しいけれど、そうでなく、ただの勘違いなら恥ずかしすぎる。
「ごめん。白坂さんが藤川に……いや、生徒会に興味があるなら、余計なことをしたよね」
「いいえ、全然興味ないです。正直、断る口実を思いつかなかったので助かりました」
「……そっか。それなら良かった。じゃあまた、放課後に」
柏木先輩は照れくさそうに襟足の辺りを撫でながら、私から目をそらした。
『大事な子』と言われて素直に嬉しかったし、先輩にとっての特別な存在に、少しでも近づけたのではないかと期待してしまった。
私は……、柏木先輩のことを好きになったのかもしれない。
教室へ戻ろうとする彼の背中を見つめながら、密かにそう思った。
同級生の姿を目に留めた藤川先輩は、面白そうにクスリと笑う。
「白坂さんの腕を掴んでいたから、良くないことを吹き込んでいるのかと思って」
口元は笑っているのに、まるで睨み合うように生徒会長と対峙する柏木先輩。
藤川先輩の方が目つきが鋭くて怖かったけど。柏木先輩も負けてはいない。
冷え切った瞳が、いつもの優しい表情とのギャップを醸し出し、その分迫力が増して怖かった。
「生徒会に誘っていただけだ。そんなに冷たい顔しなくても、勝手に彼女をさらいはしないって」
ちらりと私へ視線をよこした藤川先輩は、軽く肩をすくめる。
「悪いけど、この子はあげないよ。僕の大事な子だから」
絶対に渡さないとでもいうように、柏木先輩が私の肩を力強く抱き寄せる。
『大事な子』って……。
私を助けるためだとしても、つい意識してしまう言葉だ。
頬がカッと熱くなり、せわしなく胸の奥が騒ぎ出す。
「ふーん……、柏木のお手つきなら遠慮するかな。他さがすわ」
小さく笑みをこぼした藤川先輩は、途端に興味を失ったらしく。私のことを見ずに柏木先輩を一瞥してから二年の教室の方へ去って行った。
姿勢の良い後ろ姿を見送りながらも、肩に置かれた手の温もりを意識して平常心でいられない私。
生徒会長の姿が見えなくなったと同時に、柏木先輩がさりげなく体を離し、私たちは向かい合う形になる。
険悪だった雰囲気が消え、いつもの優しい先輩に戻ってくれていた。
「――あの。柏木先輩、ありがとうございました」
「白坂さんて……隙がありすぎだから、気をつけてね。いろんな男に狙われそうで心配だな」
眉を悲しげに下げた柏木先輩は小さく息をつく。
「……すみません」
「でも、間に合って良かった。藤川のものになるんじゃないかと焦ったから」
「えっ?」
先輩が、焦った……?
「藤川に言い寄られているみたいに見えたし、断り切れずに承諾したらどうしようかと思って」
それは、どういう意味なのか……。
私の考えているとおりなら嬉しいけれど、そうでなく、ただの勘違いなら恥ずかしすぎる。
「ごめん。白坂さんが藤川に……いや、生徒会に興味があるなら、余計なことをしたよね」
「いいえ、全然興味ないです。正直、断る口実を思いつかなかったので助かりました」
「……そっか。それなら良かった。じゃあまた、放課後に」
柏木先輩は照れくさそうに襟足の辺りを撫でながら、私から目をそらした。
『大事な子』と言われて素直に嬉しかったし、先輩にとっての特別な存在に、少しでも近づけたのではないかと期待してしまった。
私は……、柏木先輩のことを好きになったのかもしれない。
教室へ戻ろうとする彼の背中を見つめながら、密かにそう思った。
0
私の過去は、誰にも言えない。憧れている美術部の先輩に嫌われる前に、ある人に頼んで過去の記憶を一部消してもらったが……。
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
兄の親友が彼氏になって、ただいちゃいちゃするだけの話
狭山雪菜
恋愛
篠田青葉はひょんなきっかけで、1コ上の兄の親友と付き合う事となった。
そんな2人のただただいちゃいちゃしているだけのお話です。
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
無敵のイエスマン
春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?
宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。
そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。
婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。
彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。
婚約者を前に彼らはどうするのだろうか?
短編になる予定です。
たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます!
【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。
ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
強引な初彼と10年ぶりの再会
矢簑芽衣
恋愛
葛城ほのかは、高校生の時に初めて付き合った彼氏・高坂玲からキスをされて逃げ出した過去がある。高坂とはそれっきりになってしまい、以来誰とも付き合うことなくほのかは26歳になっていた。そんなある日、ほのかの職場に高坂がやって来る。10年ぶりに再会する2人。高坂はほのかを翻弄していく……。
恋の続きは未定。
海津渚
青春
高校3年生。
高崎誠は2年間同じクラスだった津田煌成とクラスが離れてしまう。
同時に安藤杏華も2年間同じクラスだった小畑つむぎとクラスが離れてしまう。
離れた同士が同じクラスになり、お互い新たな感情に目覚めていく…。
そんな4人の最後の高校生活の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる