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第1章
その空に憧れる-9
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柏木先輩に家の前まで送ってもらったあと。
自分の部屋にこもり、制服から部屋着のワンピースに着替え、ベッドの上で先輩からのプレゼントを開けてみる。
ダークブラウンの箱には、一粒で数百円しそうな高級なチョコレートが5つ入っていた。義理のお返しにしては高価で、恐縮するほどだ。
箱を飾るリボンの間にはカードが差し込まれていて、裏返してみるとそれは手描きの絵だった。
透明な湖と青空が淡い色彩で描かれている。
右下にR.Kと小さくサインがあったので、柏木先輩の絵だとすぐにわかった。
サインの部分をそっとなぞり、どうして絵をプレゼントしてくれたのかと不思議に思う。
私が先輩の絵を好きだと、いつの間に知っていたのだろうか。
バレンタインのときに渡したメッセージカードにでも書いたのか……。曖昧で思い出せない。
それでも素直に嬉しくて、頬が緩む。
だってこれは、世界に一つしかない先輩の絵だから。
私のために描いてくれたかと思うと胸の奥が温かくなる。
不意に、先輩の胸元に抱き寄せられたことを思い出し、クッションに顔をうずめた。
仄かに香った柑橘系の匂いまでもが思い起こされ、幸せな気分に包まれる。
先輩と付き合っていた人……三井先輩との関係は終わっているという事実も、本人の口から聞けてホッとした。
だからといって、私が図々しくも柏木先輩の彼女になれるわけではない。
ただ安心して先輩のそばにいられることが嬉しかった。
――でも。中学のときからの“忘れられない人”というのが誰なのか。その問題が残っていた。
ベッドから立ち上がった私は、カフェカーテンの隙間から先程の橋の方向を眺める。
あのとき、真鳥が私達のそばを通って。
まるで彼に見せつけるかのようだったのは、気のせいだろうか。
もっと先輩のことを知りたいと思いながら、机の上に飾った絵をじっと見つめていた。
自分の部屋にこもり、制服から部屋着のワンピースに着替え、ベッドの上で先輩からのプレゼントを開けてみる。
ダークブラウンの箱には、一粒で数百円しそうな高級なチョコレートが5つ入っていた。義理のお返しにしては高価で、恐縮するほどだ。
箱を飾るリボンの間にはカードが差し込まれていて、裏返してみるとそれは手描きの絵だった。
透明な湖と青空が淡い色彩で描かれている。
右下にR.Kと小さくサインがあったので、柏木先輩の絵だとすぐにわかった。
サインの部分をそっとなぞり、どうして絵をプレゼントしてくれたのかと不思議に思う。
私が先輩の絵を好きだと、いつの間に知っていたのだろうか。
バレンタインのときに渡したメッセージカードにでも書いたのか……。曖昧で思い出せない。
それでも素直に嬉しくて、頬が緩む。
だってこれは、世界に一つしかない先輩の絵だから。
私のために描いてくれたかと思うと胸の奥が温かくなる。
不意に、先輩の胸元に抱き寄せられたことを思い出し、クッションに顔をうずめた。
仄かに香った柑橘系の匂いまでもが思い起こされ、幸せな気分に包まれる。
先輩と付き合っていた人……三井先輩との関係は終わっているという事実も、本人の口から聞けてホッとした。
だからといって、私が図々しくも柏木先輩の彼女になれるわけではない。
ただ安心して先輩のそばにいられることが嬉しかった。
――でも。中学のときからの“忘れられない人”というのが誰なのか。その問題が残っていた。
ベッドから立ち上がった私は、カフェカーテンの隙間から先程の橋の方向を眺める。
あのとき、真鳥が私達のそばを通って。
まるで彼に見せつけるかのようだったのは、気のせいだろうか。
もっと先輩のことを知りたいと思いながら、机の上に飾った絵をじっと見つめていた。
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私の過去は、誰にも言えない。憧れている美術部の先輩に嫌われる前に、ある人に頼んで過去の記憶を一部消してもらったが……。
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