6 / 72
Prologue
忘れられない-6
しおりを挟む
三井先輩は彼を促すように腕をからませ、寄り添った状態で私の様子を窺っている。どちらかといえば彼女は睨むような目つきだった。
二人は本当によりを戻したようで、柏木先輩も彼女の腕を振りほどくことはない。
「…………」
柏木先輩はなぜだか切なそうに目を伏せ、私達のそばを無言で通り過ぎて行く。
普通に考えたら、真鳥との関係を誤解されたのだと思う。
せめて未琴がいてくれたら、誤解されることはなかったのに。
「――あの人に、失恋したってこと?」
私の視線と表情で気づいたのか、真鳥が柏木先輩の背中を見据え、確認してくる。
目の表面に涙が溜まり始めていたので、慌てて真鳥に背を向けた。
「それなら、早く忘れたらいいんじゃない? どう考えても、白坂に勝ち目はないだろ」
失礼なことを言い放ち、強く腕を引いてきたので、真鳥に泣き顔を晒すことになってしまう。
「俺が忘れさせてやるよ」
泣き顔を間近でじっと見つめ、勘違いしそうな台詞を言ってくる。
「ちょっと寄り道してから、家まで送るから」
低くそう言ったあと、真鳥は私の手首を掴み歩き始めた。
*
真鳥に連れられてきたのは、学校から歩いてすぐの所にある、まだ雪の残る公園だった。
中央に滑り台やブランコがあり、その隣には東屋があった。
真鳥はそこに私を案内し、木のテーブルに鞄や荷物を置く。まだ雪が解けていないこともあり、私たち以外誰もいない。
「で、今から白坂の記憶の一部を消すけど、本当にあの先輩のことを忘れたい?」
「……え?」
記憶を、消す?
簡単にそんなことを言うけれど。普通に考えて、誰かの記憶を消すなんて有り得ない。
「何言ってるの?」
「信じられない、か。まあ普通はそうだよな」
東屋の下で私と真鳥は向かい合う。
「たとえば。忘れたい過去の記憶も消すことができるんだ。どう? 試してみたくない?」
そう言われ、彼の誘導するとおりに気持ちが傾いていく。
忘れたい過去は、私には数え切れないほどあった。
「未琴から、白坂のことを慰めほしいと言われてるのもあるし。できれば、試してみてほしい」
「でも、私の記憶を消してくれたとして、真鳥に何のメリットがあるの?」
「俺のこの力はまだ、試した回数が少なすぎる。白坂が実験台になってくれるなら、この先、何度でも忘れたい記憶を消してあげられるよ」
未琴が真鳥を私に紹介してきたのは、こういう意味?
未琴も彼の能力を知っているのか定かではないけれど。普通に男の子を紹介してくれるわけではなかったのかもしれないと気づいた。
「いいけど、どうやって記憶を消すの?」
「忘れたい記憶を思い浮かべて、俺が相手の額にキスをする。それだけ」
「……へっ? それだけ、って」
冗談ではないことは、恥ずかしげもなく告げた真鳥の真剣な表情でわかった。
「だ、誰か見てるかもしれないし、無理じゃない?」
「薄暗いし大丈夫だろ」
辺りを見回す私へ、真鳥が一歩近づく。
二人は本当によりを戻したようで、柏木先輩も彼女の腕を振りほどくことはない。
「…………」
柏木先輩はなぜだか切なそうに目を伏せ、私達のそばを無言で通り過ぎて行く。
普通に考えたら、真鳥との関係を誤解されたのだと思う。
せめて未琴がいてくれたら、誤解されることはなかったのに。
「――あの人に、失恋したってこと?」
私の視線と表情で気づいたのか、真鳥が柏木先輩の背中を見据え、確認してくる。
目の表面に涙が溜まり始めていたので、慌てて真鳥に背を向けた。
「それなら、早く忘れたらいいんじゃない? どう考えても、白坂に勝ち目はないだろ」
失礼なことを言い放ち、強く腕を引いてきたので、真鳥に泣き顔を晒すことになってしまう。
「俺が忘れさせてやるよ」
泣き顔を間近でじっと見つめ、勘違いしそうな台詞を言ってくる。
「ちょっと寄り道してから、家まで送るから」
低くそう言ったあと、真鳥は私の手首を掴み歩き始めた。
*
真鳥に連れられてきたのは、学校から歩いてすぐの所にある、まだ雪の残る公園だった。
中央に滑り台やブランコがあり、その隣には東屋があった。
真鳥はそこに私を案内し、木のテーブルに鞄や荷物を置く。まだ雪が解けていないこともあり、私たち以外誰もいない。
「で、今から白坂の記憶の一部を消すけど、本当にあの先輩のことを忘れたい?」
「……え?」
記憶を、消す?
簡単にそんなことを言うけれど。普通に考えて、誰かの記憶を消すなんて有り得ない。
「何言ってるの?」
「信じられない、か。まあ普通はそうだよな」
東屋の下で私と真鳥は向かい合う。
「たとえば。忘れたい過去の記憶も消すことができるんだ。どう? 試してみたくない?」
そう言われ、彼の誘導するとおりに気持ちが傾いていく。
忘れたい過去は、私には数え切れないほどあった。
「未琴から、白坂のことを慰めほしいと言われてるのもあるし。できれば、試してみてほしい」
「でも、私の記憶を消してくれたとして、真鳥に何のメリットがあるの?」
「俺のこの力はまだ、試した回数が少なすぎる。白坂が実験台になってくれるなら、この先、何度でも忘れたい記憶を消してあげられるよ」
未琴が真鳥を私に紹介してきたのは、こういう意味?
未琴も彼の能力を知っているのか定かではないけれど。普通に男の子を紹介してくれるわけではなかったのかもしれないと気づいた。
「いいけど、どうやって記憶を消すの?」
「忘れたい記憶を思い浮かべて、俺が相手の額にキスをする。それだけ」
「……へっ? それだけ、って」
冗談ではないことは、恥ずかしげもなく告げた真鳥の真剣な表情でわかった。
「だ、誰か見てるかもしれないし、無理じゃない?」
「薄暗いし大丈夫だろ」
辺りを見回す私へ、真鳥が一歩近づく。
0
私の過去は、誰にも言えない。憧れている美術部の先輩に嫌われる前に、ある人に頼んで過去の記憶を一部消してもらったが……。
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
会社の後輩が諦めてくれません
碧井夢夏
恋愛
満員電車で助けた就活生が会社まで追いかけてきた。
彼女、赤堀結は恩返しをするために入社した鶴だと言った。
亀じゃなくて良かったな・・
と思ったのは、松味食品の営業部エース、茶谷吾郎。
結は吾郎が何度振っても諦めない。
むしろ、変に条件を出してくる。
誰に対しても失礼な男と、彼のことが大好きな彼女のラブコメディ。
イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命1日〜
和泉杏咲
恋愛
表紙イラストは「帳カオル」様に描いていただきました……!眼福です(´ω`)
https://twitter.com/tobari_kaoru
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私は間も無く死ぬ。だから、彼に別れを告げたいのだ。それなのに……
なぜ、私だけがこんな目に遭うのか。
なぜ、私だけにこんなに執着するのか。
私は間も無く死んでしまう。
どうか、私のことは忘れて……。
だから私は、あえて言うの。
バイバイって。
死を覚悟した少女と、彼女を一途(?)に追いかけた少年の追いかけっこの終わりの始まりのお話。
<登場人物>
矢部雪穂:ガリ勉してエリート中学校に入学した努力少女。小説家志望
悠木 清:雪穂のクラスメイト。金持ち&ギフテッドと呼ばれるほどの天才奇人イケメン御曹司
山田:清に仕えるスーパー執事
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
初恋の呪縛
泉南佳那
恋愛
久保朱利(くぼ あかり)27歳 アパレルメーカーのプランナー
×
都築 匡(つづき きょう)27歳 デザイナー
ふたりは同じ専門学校の出身。
現在も同じアパレルメーカーで働いている。
朱利と都築は男女を超えた親友同士。
回りだけでなく、本人たちもそう思っていた。
いや、思いこもうとしていた。
互いに本心を隠して。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる