3度目に、君を好きになったとき

夏伐 碧

文字の大きさ
上 下
2 / 72
Prologue

忘れられない-2

しおりを挟む
 登校中、ぼんやりと今朝の夢について考え込む。

 あれはきっと、中学のときの夢だ。
 先輩は黒の学生服を着ていたし、私も紺色のセーラー服を着ていた気がする。

 でも私は、今まで先輩に告白された覚えなんてないし。ただ、私の願望が夢に出てきただけなのだと思う。

 だって先輩は……


「おはよう、白坂さん」

 爽やかな声がして振り向けば、澄んだ青空を背景に、柏木蓮先輩が立っていた。
 今度は紛れもなく現実の世界の先輩だ。

 ベージュのブレザーにオリーブグリーンのチェック柄のパンツがよく似合っていて、中学のときよりさらに大人っぽくなっていた。


「おはようございます、柏木先輩」

 私と目が合うと優しく微笑んでくれて、ドキリと胸の奥が音を立てる。
 彼の澄んだ瞳を見ていると、夢の中でキスをされてしまったことに罪悪感が生まれた。

(先輩。夢の中で勝手に汚してしまってごめんなさい)

 隣に並んだ先輩は、ふと何かに気づいたように私のことをじっと見つめてくる。


「あれ? 白坂さん、髪の毛はねてる」
「えっ、寝癖?」

 慌てて髪に手をやると、偶然先輩の手に触れてしまい、さらに慌てる。
 ちょうど先輩も、私の髪に手を伸ばしていたのだった。


「わ……、すみません」
「ちょっとごめんね」

 軽く断りを入れた先輩は、何を思ったのか私の後ろの髪を数回すいて、はねている部分をわざわざ直してくれた。


「もう大丈夫だよ」
「ありがとうございます……」

 触れられたことが恥ずかしくて、下を向く。癖のあるセミロングの髪が顔の横に垂れ、私の表情を隠してくれた。

 少しの間、学校までの道を一緒に歩くことになり、話題はほとんど部活のことについてだった。
 それでも、私にとっては特別な時間。


「蓮、おはよう」

 校舎が見えてきたとき。門の前で人を待っている様子の女子生徒が柏木先輩に声をかけ、小さく手を振った。


「――じゃあ、また放課後に」

 先輩は私にそう告げ、その女の人と一緒に歩き出す。


「あ、……はい」

 ほら、やっぱり今朝のはただの夢だった。私の勝手な妄想。
 先輩には、美人で優しい彼女がいる。

 確か中学のときからその彼女と仲が良くて。私の入り込む隙なんて、どこにもない……。

 しかも、夢では私が先輩を振ったとか。そんなことが起こり得るわけがなかった。
 たとえば、罰ゲームとして先輩が告白してきたのだとしても。私は即座にOKするはず。

 ずっとずっと、出会ったときから大好きな先輩なのだから。

(先輩が彼女よりも、私のことを好きになってくれるなんて――そんな夢みたいなこと、現実に起こるわけないよね……)

 門のそばで咲く桜が散っていく姿を、二人は仲が良さそうに眺めている。
 そんな二人の後ろ姿を視界の隅に置き、私は密かな想いを心の奥底に閉じ込めた。

しおりを挟む
私の過去は、誰にも言えない。憧れている美術部の先輩に嫌われる前に、ある人に頼んで過去の記憶を一部消してもらったが……。
感想 0

あなたにおすすめの小説

兄の親友が彼氏になって、ただいちゃいちゃするだけの話

狭山雪菜
恋愛
篠田青葉はひょんなきっかけで、1コ上の兄の親友と付き合う事となった。 そんな2人のただただいちゃいちゃしているだけのお話です。 この作品は、「小説家になろう」にも掲載しています。

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

無敵のイエスマン

春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
第一部:アーリーンの恋 母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。 第二部:ジュディスの恋 王女がふたりいるフリーゼグリーン王国へ、十年ほど前に友好国となったコベット国から見合いの申し入れがあった。 周囲は皆、美しく愛らしい妹姫リリアーヌへのものだと思ったが、しかしそれは賢しらにも女性だてらに議会へ提案を申し入れるような姉姫ジュディスへのものであった。 「何故、私なのでしょうか。リリアーヌなら貴方の求婚に喜んで頷くでしょう」 誰よりもジュディスが一番、この求婚を訝しんでいた。 第三章:王太子の想い 友好国の王子からの求婚を受け入れ、そのまま攫われるようにしてコベット国へ移り住んで一年。 ジュディスはその手を取った選択は正しかったのか、揺れていた。 すれ違う婚約者同士の心が重なる日は来るのか。 コベット国のふたりの王子たちの恋模様

恋の続きは未定。

海津渚
青春
高校3年生。 高崎誠は2年間同じクラスだった津田煌成とクラスが離れてしまう。 同時に安藤杏華も2年間同じクラスだった小畑つむぎとクラスが離れてしまう。 離れた同士が同じクラスになり、お互い新たな感情に目覚めていく…。 そんな4人の最後の高校生活の物語。

処理中です...