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第三章 限界集落の普通じゃないお祭り
相容れない存在(前編)
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祭りの後。
立ち並ぶ屋台は撤去され、飾りつけも外された。
静かな明山神社。
その一角にある槇島神社の本殿は、緊迫した空気だ。
学校帰りの槇島睦月はセーラー服のまま、上座に座っている。
如月たちも、次のポジションで、座布団の上。
この槇島神社は、睦月が御神体だ。
彼女たちは普段着で、無言のまま、顔を伏せている。
気になった外間朱美も、この神社の代表として参加。
立会人に過ぎず、発言する必要はない。
お茶と和菓子を出した後で、隅に座っている。
それとは別に、睦月の代理人である菅原良盛。
彼は弁護士で、スーツを着ている。
睦月が不利になったら、すぐに口をはさむ役割。
この緊張した空気の中でも、自然体だ。
正座のまま、切った和菓子を食べた後に、お茶を飲む。
「あ……。美味しいお茶ですね!」
いっぽう、下座にいるのが本庁のキャリア、片桐だ。
スーツ姿で、用意された和菓子とお茶に手をつけず。
片桐の斜め後ろで気まずそうに座っているのが、萩原一吾郎。
美須坂駐在所の日勤が終わった時に、連絡を受けた。
事情を知っておく必要があるため、警察サイドの人間として参加。
『勤務外』の扱いで、私服だ。
気を紛らわすため、片桐とは異なり、和菓子とお茶を口に運んでいる。
上座の睦月が、口を開いた。
「じゃ、話を聞くよ……。何?」
待ちかねていた片桐は、勢い込んで告げる。
「日本の治安を維持するため、あなたの御神刀を貸していただきたい!」
「却下」
睦月は間髪入れずに、答えた。
呆気にとられた片桐は、それでも諦めない。
「あなたの御神刀があれば! 多くの人が救われるのです!!」
疲れた様子で、睦月が尋ねる。
「どこをどうしたら、そういう結論になるの? お前は昨日のステージで、一部始終を見ていたよね!?」
睦月の御神刀である百雷。
その完全解放、『百花繚乱・十重二十重』を見た片桐は、なぜ、そう言ったのか?
本人が頷いた後で、自説を述べる。
「はい。……人知を超えた化け物がいることは、承知しています。なればこそ、倒せる力、現場の警官でも使える武器が必要です!」
不機嫌になった睦月は、横のひじ掛けで支えながら、突っ込む。
「まさかとは思うけど、僕の御神刀を解析して、その一部だけでもマスプロ――大量生産のマスプロダクション――したいってこと?」
大きく頷いた片桐が、ここぞとばかりに主張する。
「現状では、警察官に化け物から身を守る術がなく、あまりにも危険です! 桜技流の離脱は仕方ないにせよ、何の技術も与えられず、我々は見当違いなまま……。先日の多冶山学園で突入した退魔特務部隊が全滅したのも、対抗する手段がなかったから! 何卒よろしくお願い申し上げます!」
睦月は、畳に両手をつき、頭を下げた片桐を見下ろす。
「怪異の犠牲になった、現場の警官……。お前の父親のことを考えれば、まだ抑えた言い方だね? ……桜技流も全国だ。しつこい人間が現れれば、調べるよ」
その発言で、片桐は身を固くした。
ゆっくりと上体を起こして、睦月を見つめ返す。
「父は……立派だった。桜技流のサボタージュで他にも多くの犠牲が出たが、私は桜技流を恨んでいない……。同じ悲劇を繰り返さないためには、話が通じない化け物を倒せるだけの力がいる」
「現場の下っ端では、警察を動かせない。だから、本庁のキャリアに?」
睦月の質問に、片桐は首肯した。
「ええ……。あなたの御神刀を貸していただければ――」
「お前が、桜技流に入ることを選ばなかった理由は? 怪異を退治する意味では、そっちが本職だと思うけど」
水を差された片桐は、ムッとしながらも答える。
「私が調べた範囲では、桜技流は傭兵に近い行動をしています。民間団体ゆえ、採算を考えて動くことを否定しませんが……。それでは現場の警官、延いては無力な市民を守れず! 私がやりたいことは『怪異であろうと、現場の警官が身を守れる装備を貸与する』という話です」
「警察が四大流派に踏み込むのは、どうかと思うよ?」
睦月の質問に、片桐は皮肉を言う。
「現場へ出向いた警察官には、応援を呼べても、逃げる選択肢がありません。……えり好みできる桜技流とは違います」
「それは、そうだね……」
座り直した片桐は、改めて懇願する。
「科学的に分析することは、そちらにとっても益がある話です。常に命を懸けている全国の警察官のため、ご決断を! 相応の対価も、私が交渉します」
笑顔の睦月は、あっさりと答える。
「うん! 無理だから!」
気色ばんだ片桐は、すぐに叫ぶ。
「なぜ!? 過去は問いませんが――」
「あのさ……。お前、根本的にズレているんだよ」
睦月は自分の湯呑みを口へ運んだ後に、呟く。
「警察庁がお前を寄越した理由が、よく分かった……。これなら、ワンチャンあったかもね?」
理解できない片桐は、思わず尋ねる。
「何を?」
「要するに……お前は信用できても、組織は信用できないってこと!」
立ち並ぶ屋台は撤去され、飾りつけも外された。
静かな明山神社。
その一角にある槇島神社の本殿は、緊迫した空気だ。
学校帰りの槇島睦月はセーラー服のまま、上座に座っている。
如月たちも、次のポジションで、座布団の上。
この槇島神社は、睦月が御神体だ。
彼女たちは普段着で、無言のまま、顔を伏せている。
気になった外間朱美も、この神社の代表として参加。
立会人に過ぎず、発言する必要はない。
お茶と和菓子を出した後で、隅に座っている。
それとは別に、睦月の代理人である菅原良盛。
彼は弁護士で、スーツを着ている。
睦月が不利になったら、すぐに口をはさむ役割。
この緊張した空気の中でも、自然体だ。
正座のまま、切った和菓子を食べた後に、お茶を飲む。
「あ……。美味しいお茶ですね!」
いっぽう、下座にいるのが本庁のキャリア、片桐だ。
スーツ姿で、用意された和菓子とお茶に手をつけず。
片桐の斜め後ろで気まずそうに座っているのが、萩原一吾郎。
美須坂駐在所の日勤が終わった時に、連絡を受けた。
事情を知っておく必要があるため、警察サイドの人間として参加。
『勤務外』の扱いで、私服だ。
気を紛らわすため、片桐とは異なり、和菓子とお茶を口に運んでいる。
上座の睦月が、口を開いた。
「じゃ、話を聞くよ……。何?」
待ちかねていた片桐は、勢い込んで告げる。
「日本の治安を維持するため、あなたの御神刀を貸していただきたい!」
「却下」
睦月は間髪入れずに、答えた。
呆気にとられた片桐は、それでも諦めない。
「あなたの御神刀があれば! 多くの人が救われるのです!!」
疲れた様子で、睦月が尋ねる。
「どこをどうしたら、そういう結論になるの? お前は昨日のステージで、一部始終を見ていたよね!?」
睦月の御神刀である百雷。
その完全解放、『百花繚乱・十重二十重』を見た片桐は、なぜ、そう言ったのか?
本人が頷いた後で、自説を述べる。
「はい。……人知を超えた化け物がいることは、承知しています。なればこそ、倒せる力、現場の警官でも使える武器が必要です!」
不機嫌になった睦月は、横のひじ掛けで支えながら、突っ込む。
「まさかとは思うけど、僕の御神刀を解析して、その一部だけでもマスプロ――大量生産のマスプロダクション――したいってこと?」
大きく頷いた片桐が、ここぞとばかりに主張する。
「現状では、警察官に化け物から身を守る術がなく、あまりにも危険です! 桜技流の離脱は仕方ないにせよ、何の技術も与えられず、我々は見当違いなまま……。先日の多冶山学園で突入した退魔特務部隊が全滅したのも、対抗する手段がなかったから! 何卒よろしくお願い申し上げます!」
睦月は、畳に両手をつき、頭を下げた片桐を見下ろす。
「怪異の犠牲になった、現場の警官……。お前の父親のことを考えれば、まだ抑えた言い方だね? ……桜技流も全国だ。しつこい人間が現れれば、調べるよ」
その発言で、片桐は身を固くした。
ゆっくりと上体を起こして、睦月を見つめ返す。
「父は……立派だった。桜技流のサボタージュで他にも多くの犠牲が出たが、私は桜技流を恨んでいない……。同じ悲劇を繰り返さないためには、話が通じない化け物を倒せるだけの力がいる」
「現場の下っ端では、警察を動かせない。だから、本庁のキャリアに?」
睦月の質問に、片桐は首肯した。
「ええ……。あなたの御神刀を貸していただければ――」
「お前が、桜技流に入ることを選ばなかった理由は? 怪異を退治する意味では、そっちが本職だと思うけど」
水を差された片桐は、ムッとしながらも答える。
「私が調べた範囲では、桜技流は傭兵に近い行動をしています。民間団体ゆえ、採算を考えて動くことを否定しませんが……。それでは現場の警官、延いては無力な市民を守れず! 私がやりたいことは『怪異であろうと、現場の警官が身を守れる装備を貸与する』という話です」
「警察が四大流派に踏み込むのは、どうかと思うよ?」
睦月の質問に、片桐は皮肉を言う。
「現場へ出向いた警察官には、応援を呼べても、逃げる選択肢がありません。……えり好みできる桜技流とは違います」
「それは、そうだね……」
座り直した片桐は、改めて懇願する。
「科学的に分析することは、そちらにとっても益がある話です。常に命を懸けている全国の警察官のため、ご決断を! 相応の対価も、私が交渉します」
笑顔の睦月は、あっさりと答える。
「うん! 無理だから!」
気色ばんだ片桐は、すぐに叫ぶ。
「なぜ!? 過去は問いませんが――」
「あのさ……。お前、根本的にズレているんだよ」
睦月は自分の湯呑みを口へ運んだ後に、呟く。
「警察庁がお前を寄越した理由が、よく分かった……。これなら、ワンチャンあったかもね?」
理解できない片桐は、思わず尋ねる。
「何を?」
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