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第三章 限界集落の普通じゃないお祭り
比翼連理になりたかった睦月の完全解放
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槇島睦月。
以前に、室矢重遠と本当の意味でお似合いだったと、説明したが……。
彼女が持つ御神刀は、最初の解放をすれば、かつての重遠の半身だった『千陣重遠』の力を使える。
それは正妻やハーレムの一員とは別格の、欠かせない存在。
しかしながら、『千陣重遠』を再現したわけではない。
睦月の想いも、あるのだ。
最初の完全解放をした重遠は、その深海の中で、こう述べた。
――自分の心象風景
ならば、彼女の御神刀、百雷も同じだろう。
「満開……百花繚乱・十重二十重」
睦月は片手で脇差を持ったまま、真の力を解放した。
とたんに、幼く見える彼女から神威が立ち上る。
バサッ シュルル
辺り一面に無数の、長い反物が広がった。
それはカーペットのように長く、鮮やかな単色や柄の入ったもの。
両端で次の反物と重なるように広げられており、絨毯にも見える。
明山神社の境内にあるステージから山の下へ伸び、周囲にまで……。
色とりどりの反物で、地面は見えなくなった。
「え?」
「こ、これ……踏んじゃって、いいの?」
ステージの下にいる群衆は突然の事態に、誰もが困惑していた。
それぞれに地面だった部分を見ては、下の反物を踏まないよう、片足を上げては、下ろす。
「綺麗……」
「やっぱり、演出だよ、これ!」
「今までのも、お芝居か」
「いつ、これを敷いたんだ!?」
「だ、だよな?」
冷静な者は、周りを眺める。
神社の建物の中にも敷かれている様子が、外から少しだけ見えた。
……現実にあり得ない光景と気づき、正気度が減ります。
「うおおっ!?」
「なんや、これ?」
屋台で忙しそうに働く男たちも、足元と見えている地面が切り替わったことに驚いた。
警官たちも、その異常な光景に、慌てて無線機をつかむ。
「本部! 足元の地面が見渡す限り……着物の生地のような物体で覆われています! ……本部? 応答を願います!」
無線が通じないことで、機転を利かせた警官が走って、現場の司令本部まで行こうと――
「足が……動かない!?」
ここは、睦月のフィールド。
彼女の支配下だ。
百雷を完全解放した今は、さっきの天沢咲莉菜ですら、後れを取りかねない。
滅ぼされることすら……。
ましてや、非能力者が太刀打ちできるはずもない。
その睦月は――
四方に反物を広げた中心に、立っていた。
鮮やかなグラデーションの上で、緋色の着物をまとい。
そこに見えるのは、百花繚乱の花々だ。
「お正月の振袖みたい……」
「というか、そのものだよ?」
「可愛い!」
黒の雪駄でカランと歩き出した睦月に、誰もが見惚れた。
「僕は……比翼連理になりたかった」
室矢重遠は、いつであろうと、女がいた。
だから、その願いは叶わず。
おそらく、これからも……。
『ガァアアッ!』
咲莉菜が巫術で拘束していたスメノースの憑依体が、光る鎖を引きちぎった。
他の場所でも、同じような叫び。
「ムダだよ?」
紙芝居のように、睦月が現れた。
その右手には、帯に差す懐剣。
脇差よりも短く、その柄は片手で握るのが、せいぜい。
だが、両足で踏ん張ることも難しい振袖であるのに、ヒュッと振られた刃はスメノースの憑依体が振るおうとした巨大な5本の爪ごと、あっさり両断した。
まるで、布が切られるような音と共に……。
『ガッ!?』
困惑する怪人は二次元の物体のようにヒラヒラと落ちていき、その途中で消滅した。
気づけば、他の『スメノースの憑依体』の気配も消え失せている。
ヒュッと懐剣を振るった睦月は、帯の正面に差している鞘へ、ゆっくりと納刀した。
槇島シスターズの権能は、糸だ。
それによる移動や、形にして武器を作り出す。
『百花繚乱・十重二十重』は、その終着点。
フィールドに捕らえた相手を反物と見なして、好きなように裁断する。
ただの生地であれば、懐剣に切られるのは当然だ。
美しい花畑に踏み込めば、もはや、睦月から逃れる術はない。
完全解放をやめたことで、山1つと周囲を覆っていた反物の群れは、一瞬で消え去った。
睦月の姿も、セーラー服に戻る。
我に返った群衆が、拍手を送った。
「すごーい!」
「ね、どうやったんだろう?」
「CGじゃない?」
「早着替え」
睦月は興奮するギャラリーに手を振りながら、こう思っていた。
重遠も閉じ込められれば、いいのに……。
さっきの心象風景が、彼女の本音ならば。
あの美しいフィールドは他の女を排除して、彼といるための場所。
最も美しい自分という花びらで重遠を優しく包み込み、永遠に2人きりのまま、ずっと楽しく、気持ち良く過ごすのだ。
いつも明るく、人懐っこい性格だが、内に抱えている闇は、誰よりも濃い。
それが、睦月ちゃん!
あまりに常識外れで、御神刀による光景とは思わない。
本庁キャリアの片桐も、口を挟めず。
槇島シスターズは、ボーカル付きのバンド演奏に移る。
このお祭りも、いよいよ終盤だ。
以前に、室矢重遠と本当の意味でお似合いだったと、説明したが……。
彼女が持つ御神刀は、最初の解放をすれば、かつての重遠の半身だった『千陣重遠』の力を使える。
それは正妻やハーレムの一員とは別格の、欠かせない存在。
しかしながら、『千陣重遠』を再現したわけではない。
睦月の想いも、あるのだ。
最初の完全解放をした重遠は、その深海の中で、こう述べた。
――自分の心象風景
ならば、彼女の御神刀、百雷も同じだろう。
「満開……百花繚乱・十重二十重」
睦月は片手で脇差を持ったまま、真の力を解放した。
とたんに、幼く見える彼女から神威が立ち上る。
バサッ シュルル
辺り一面に無数の、長い反物が広がった。
それはカーペットのように長く、鮮やかな単色や柄の入ったもの。
両端で次の反物と重なるように広げられており、絨毯にも見える。
明山神社の境内にあるステージから山の下へ伸び、周囲にまで……。
色とりどりの反物で、地面は見えなくなった。
「え?」
「こ、これ……踏んじゃって、いいの?」
ステージの下にいる群衆は突然の事態に、誰もが困惑していた。
それぞれに地面だった部分を見ては、下の反物を踏まないよう、片足を上げては、下ろす。
「綺麗……」
「やっぱり、演出だよ、これ!」
「今までのも、お芝居か」
「いつ、これを敷いたんだ!?」
「だ、だよな?」
冷静な者は、周りを眺める。
神社の建物の中にも敷かれている様子が、外から少しだけ見えた。
……現実にあり得ない光景と気づき、正気度が減ります。
「うおおっ!?」
「なんや、これ?」
屋台で忙しそうに働く男たちも、足元と見えている地面が切り替わったことに驚いた。
警官たちも、その異常な光景に、慌てて無線機をつかむ。
「本部! 足元の地面が見渡す限り……着物の生地のような物体で覆われています! ……本部? 応答を願います!」
無線が通じないことで、機転を利かせた警官が走って、現場の司令本部まで行こうと――
「足が……動かない!?」
ここは、睦月のフィールド。
彼女の支配下だ。
百雷を完全解放した今は、さっきの天沢咲莉菜ですら、後れを取りかねない。
滅ぼされることすら……。
ましてや、非能力者が太刀打ちできるはずもない。
その睦月は――
四方に反物を広げた中心に、立っていた。
鮮やかなグラデーションの上で、緋色の着物をまとい。
そこに見えるのは、百花繚乱の花々だ。
「お正月の振袖みたい……」
「というか、そのものだよ?」
「可愛い!」
黒の雪駄でカランと歩き出した睦月に、誰もが見惚れた。
「僕は……比翼連理になりたかった」
室矢重遠は、いつであろうと、女がいた。
だから、その願いは叶わず。
おそらく、これからも……。
『ガァアアッ!』
咲莉菜が巫術で拘束していたスメノースの憑依体が、光る鎖を引きちぎった。
他の場所でも、同じような叫び。
「ムダだよ?」
紙芝居のように、睦月が現れた。
その右手には、帯に差す懐剣。
脇差よりも短く、その柄は片手で握るのが、せいぜい。
だが、両足で踏ん張ることも難しい振袖であるのに、ヒュッと振られた刃はスメノースの憑依体が振るおうとした巨大な5本の爪ごと、あっさり両断した。
まるで、布が切られるような音と共に……。
『ガッ!?』
困惑する怪人は二次元の物体のようにヒラヒラと落ちていき、その途中で消滅した。
気づけば、他の『スメノースの憑依体』の気配も消え失せている。
ヒュッと懐剣を振るった睦月は、帯の正面に差している鞘へ、ゆっくりと納刀した。
槇島シスターズの権能は、糸だ。
それによる移動や、形にして武器を作り出す。
『百花繚乱・十重二十重』は、その終着点。
フィールドに捕らえた相手を反物と見なして、好きなように裁断する。
ただの生地であれば、懐剣に切られるのは当然だ。
美しい花畑に踏み込めば、もはや、睦月から逃れる術はない。
完全解放をやめたことで、山1つと周囲を覆っていた反物の群れは、一瞬で消え去った。
睦月の姿も、セーラー服に戻る。
我に返った群衆が、拍手を送った。
「すごーい!」
「ね、どうやったんだろう?」
「CGじゃない?」
「早着替え」
睦月は興奮するギャラリーに手を振りながら、こう思っていた。
重遠も閉じ込められれば、いいのに……。
さっきの心象風景が、彼女の本音ならば。
あの美しいフィールドは他の女を排除して、彼といるための場所。
最も美しい自分という花びらで重遠を優しく包み込み、永遠に2人きりのまま、ずっと楽しく、気持ち良く過ごすのだ。
いつも明るく、人懐っこい性格だが、内に抱えている闇は、誰よりも濃い。
それが、睦月ちゃん!
あまりに常識外れで、御神刀による光景とは思わない。
本庁キャリアの片桐も、口を挟めず。
槇島シスターズは、ボーカル付きのバンド演奏に移る。
このお祭りも、いよいよ終盤だ。
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