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槇島シスターズに魅了されし者たち
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明山神社の境内は、立ち並んだ屋台と臨時のステージにいる槇島の姉妹たちのお喋りで盛り上がっている。
お神輿を実況中継していた、女子大生3人。
レポーターとカメラマン、機材を運んでいる彼女たちは、そのステージを撮影している。
周囲が咎めないことから、責任者に話を通しているようだ。
山の上とあって、屋台の数は少ない。
そもそも、神社の建物がある場所だ。
石段を下りたところにも、ズラリと屋台が並んでいる。
ステージ上では、槇島たちのトークショーが続いている。
『次回のコミケでは……って、こんな場所で言わせるなー!』
ワインレッド色の眼鏡をかけた、美少女をオタクっぽい雰囲気にした望月が、叫んだ。
いつも気怠そうで、マニアックな人気がある。
どこかの槇島神社の御神体だから、望月が描いているエロ同人誌も神様の制作物になってしまうものの……。
それは、言わない約束だYO!
いいね?
集まっていた群衆はドッと笑いつつも、疲れた人間が移動したり、トイレや休憩、あるいは屋台で買ってきた人間が戻ってきたり。
神社に常駐している女神たちという触れ込みだが、信じている人間はゼロに等しい。
ご当地アイドルのように、地元の女子中学生を祭り上げているのだろう。
それが、一般的な見解だ……。
ここで、槇島睦月が発言する。
『えっと……。僕たちのトークで終わるのは、今日だけの人に悪いから……。少し、演武をするよ!』
ガタッと、立ち上がる。
横一列で座っていた女子は、巫女服を豪華にした大袖の脇をタスキで絞りつつ、ステージの広い部分へ歩く。
「え? 何か、やるの!?」
「早く、ミーちゃんを呼び戻さないと……」
ざわつくギャラリーを他所に、アナウンスが流れる。
『只今より、槇島さまの演武を行います! 最寄り駅までの乗合バスを出しますので、お帰りの際にご利用くださいませ!』
ステージ上で、ストレッチや基本的な型をする睦月たち。
バラバラに動いていたが、ゆっくりした動きから、じょじょにギアが上がっていく。
シュッ! フッフッ! シュアッ!
低身長のJCだが、素人目にも分かるほどのキレだ。
手足が空を切り裂くことで、刀を振っているような音も。
「すごっ!」
「何だ、これ……」
「あ! さ、撮影しておくでゴザル!」
睦月と如月が向かい合ったまま、立つ。
両手を下げた如月は、微笑んだまま。
身体強化で低く飛んだ睦月が、滑るようにクロスレンジへ。
腰の回転から両手、上半身の捻る動きで、ミドルキックの回し蹴り。
対する如月は側面からの蹴りを片手で流しつつ、その足をとろうと――
瞬時に足を引いた睦月は、その勢いで地を蹴り、今度は体当たりしつつの肘打ち。
如月は逆らわず、自分から後ろへ飛びつつ、空中で姿勢を変えて、両足の着地。
「「「おぉ~!」」」
パチパチと拍手する観客たち。
次は如月から前へ出て、空手の連撃のようにパンチと蹴り。
睦月はそれを受け流しつつ、下がっていく。
ステージの端になったら、攻防をしつつも、位置を入れ替えた。
誰にでも見やすく、派手な組手だ。
どれも大振りで、見え見えの攻撃ばかり。
しかし、こういった見世物で玄人好みの戦闘をしても、そっぽを向かれるだけ……。
木刀や薙刀による組手も、多くの人を夢中にさせた。
一番どんくさそうな望月ですら、柔らかい握りで木刀を振るい、カアンッ! と激しい音を立てて、向かってくる少女を受け流しつつの反撃。
お互いに正面で、上段からの振り下ろし。
鏡に映したような動きだが、望月の木刀のみ、相手の頭の直前で止められた。
相手の木刀は軌道をズラされ、切っ先が地を向いている。
「今の、切り落とし面!?」
「信じられん……」
「剣道の大会で、見たことないんだけど……」
事前の打ち合わせがあっても、そう簡単に行える所業ではない。
多少の心得がある人間は、まさに神業を見せた望月に対し、なぜ試合に出ていないのか? と疑問に思う。
出ていれば、全国クラス。
それも、上位入賞をするほどの……。
派手に動いていた素手と違い、木刀ではブレのない体捌きだ。
夕暮れの灯りが、神秘的な雰囲気を醸し出す。
『本日のプログラムは、全て終了しました! 引き続き、お祭りをお楽しみください! 乗合バスの最終時刻について、今一度のご確認を!』
アナウンスの宣言で、境内にいる人々が石段へ向かい始めた。
この美須坂町にホテルはなく、駅までのバスに乗り損ねたら、遭難してしまう。
それに、ここで見られる出し物は、もうない。
「はい! 店仕舞いで、安いよー!」
「こっちは半額だ!」
作り置きをなくすため、屋台の男たちが投げ売りを始めた。
それを聞いて、足を止める人も。
いっぽう、まだ境内に残っているオタクたち。
槇島神社のお守りなどが入ったリュックを背負いつつ、優越感に浸る。
「ムフフ……。彼らは、まだまだですな?」
「それは酷というもの!」
「左様……。槇島ファンの我々に比べたら、彼らは素人ゆえ」
後から悠々と石段を下り、待っていたバンに乗り込んだ。
ブロロと、発進する。
「いらっしゃいませ!」
出迎えた女将は、洗練された雰囲気とは言えず。
“民宿 はとね”
そこは美須坂町で唯一の、宿泊施設。
古い畳がある、広い和室。
夜に布団を敷くだけで、何の変哲もない宿だ。
お神輿を実況中継していた、女子大生3人。
レポーターとカメラマン、機材を運んでいる彼女たちは、そのステージを撮影している。
周囲が咎めないことから、責任者に話を通しているようだ。
山の上とあって、屋台の数は少ない。
そもそも、神社の建物がある場所だ。
石段を下りたところにも、ズラリと屋台が並んでいる。
ステージ上では、槇島たちのトークショーが続いている。
『次回のコミケでは……って、こんな場所で言わせるなー!』
ワインレッド色の眼鏡をかけた、美少女をオタクっぽい雰囲気にした望月が、叫んだ。
いつも気怠そうで、マニアックな人気がある。
どこかの槇島神社の御神体だから、望月が描いているエロ同人誌も神様の制作物になってしまうものの……。
それは、言わない約束だYO!
いいね?
集まっていた群衆はドッと笑いつつも、疲れた人間が移動したり、トイレや休憩、あるいは屋台で買ってきた人間が戻ってきたり。
神社に常駐している女神たちという触れ込みだが、信じている人間はゼロに等しい。
ご当地アイドルのように、地元の女子中学生を祭り上げているのだろう。
それが、一般的な見解だ……。
ここで、槇島睦月が発言する。
『えっと……。僕たちのトークで終わるのは、今日だけの人に悪いから……。少し、演武をするよ!』
ガタッと、立ち上がる。
横一列で座っていた女子は、巫女服を豪華にした大袖の脇をタスキで絞りつつ、ステージの広い部分へ歩く。
「え? 何か、やるの!?」
「早く、ミーちゃんを呼び戻さないと……」
ざわつくギャラリーを他所に、アナウンスが流れる。
『只今より、槇島さまの演武を行います! 最寄り駅までの乗合バスを出しますので、お帰りの際にご利用くださいませ!』
ステージ上で、ストレッチや基本的な型をする睦月たち。
バラバラに動いていたが、ゆっくりした動きから、じょじょにギアが上がっていく。
シュッ! フッフッ! シュアッ!
低身長のJCだが、素人目にも分かるほどのキレだ。
手足が空を切り裂くことで、刀を振っているような音も。
「すごっ!」
「何だ、これ……」
「あ! さ、撮影しておくでゴザル!」
睦月と如月が向かい合ったまま、立つ。
両手を下げた如月は、微笑んだまま。
身体強化で低く飛んだ睦月が、滑るようにクロスレンジへ。
腰の回転から両手、上半身の捻る動きで、ミドルキックの回し蹴り。
対する如月は側面からの蹴りを片手で流しつつ、その足をとろうと――
瞬時に足を引いた睦月は、その勢いで地を蹴り、今度は体当たりしつつの肘打ち。
如月は逆らわず、自分から後ろへ飛びつつ、空中で姿勢を変えて、両足の着地。
「「「おぉ~!」」」
パチパチと拍手する観客たち。
次は如月から前へ出て、空手の連撃のようにパンチと蹴り。
睦月はそれを受け流しつつ、下がっていく。
ステージの端になったら、攻防をしつつも、位置を入れ替えた。
誰にでも見やすく、派手な組手だ。
どれも大振りで、見え見えの攻撃ばかり。
しかし、こういった見世物で玄人好みの戦闘をしても、そっぽを向かれるだけ……。
木刀や薙刀による組手も、多くの人を夢中にさせた。
一番どんくさそうな望月ですら、柔らかい握りで木刀を振るい、カアンッ! と激しい音を立てて、向かってくる少女を受け流しつつの反撃。
お互いに正面で、上段からの振り下ろし。
鏡に映したような動きだが、望月の木刀のみ、相手の頭の直前で止められた。
相手の木刀は軌道をズラされ、切っ先が地を向いている。
「今の、切り落とし面!?」
「信じられん……」
「剣道の大会で、見たことないんだけど……」
事前の打ち合わせがあっても、そう簡単に行える所業ではない。
多少の心得がある人間は、まさに神業を見せた望月に対し、なぜ試合に出ていないのか? と疑問に思う。
出ていれば、全国クラス。
それも、上位入賞をするほどの……。
派手に動いていた素手と違い、木刀ではブレのない体捌きだ。
夕暮れの灯りが、神秘的な雰囲気を醸し出す。
『本日のプログラムは、全て終了しました! 引き続き、お祭りをお楽しみください! 乗合バスの最終時刻について、今一度のご確認を!』
アナウンスの宣言で、境内にいる人々が石段へ向かい始めた。
この美須坂町にホテルはなく、駅までのバスに乗り損ねたら、遭難してしまう。
それに、ここで見られる出し物は、もうない。
「はい! 店仕舞いで、安いよー!」
「こっちは半額だ!」
作り置きをなくすため、屋台の男たちが投げ売りを始めた。
それを聞いて、足を止める人も。
いっぽう、まだ境内に残っているオタクたち。
槇島神社のお守りなどが入ったリュックを背負いつつ、優越感に浸る。
「ムフフ……。彼らは、まだまだですな?」
「それは酷というもの!」
「左様……。槇島ファンの我々に比べたら、彼らは素人ゆえ」
後から悠々と石段を下り、待っていたバンに乗り込んだ。
ブロロと、発進する。
「いらっしゃいませ!」
出迎えた女将は、洗練された雰囲気とは言えず。
“民宿 はとね”
そこは美須坂町で唯一の、宿泊施設。
古い畳がある、広い和室。
夜に布団を敷くだけで、何の変哲もない宿だ。
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