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第三章 限界集落の普通じゃないお祭り
駐在所の巡査長は死亡フラグを立てた
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女子高生の外間朱美と他の巫女たちは、奉納演舞を終えた。
呼吸を整えながら、待つ。
明山神社にある板張りの舞台で立ったままの彼女たちに、見物客の拍手。
祀られている咲耶は父親と同じく、山の神様になるケースが多い。
ともあれ、朱美の見せ場は終わり、司会役のアナウンスで今の奉納演舞を解説する。
『ただいまの踊りは、当神社で祀っている神々に対する――』
同じ境内の末社である槇島神社。
その御神体となっている槇島睦月が、美須坂町を練り歩いた神輿の上で跳ね続けながら、戻ってきた後だ。
山奥にある限界集落の神社にしては、手際がよい進行。
以前に、睦月が槇島シスターズを呼び、ダンスショーを披露。
その教訓を活かし、SNSの告知と併せて、大勢を受け入れられる体制に……。
山の石段を上った先にある境内。
屋台が並び、制服の警備員や北稲原署の警備課(非番の有志を含む)による警備を実施中。
◇
地元の駐在所――警察官が自分の家族と住み込む――にいる巡査長たちは、交番と同じオフィスでひっきりなしに電話を受け、訪問者と向き合う。
「はい、美須坂駐在所です! ……分かりました。その件は――」
「次の方、どうぞ!」
応援の警察官は、だいたい格上。
彼らに気を遣いながら、自分の家族と総出で乗り切ろうとする巡査長。
「悪い! 母さんに、昼メシは10人分ぐらいでサッと食えるやつを頼む! コーヒーと洋菓子の準備もな?」
「うん、伝える!」
頷いたのは、巡査長の息子。
まだ幼児で、すぐに奥へ引っ込む。
ド田舎だけあって、昔ながらの平屋で、塀が囲む。
2階がない戸建てで、玄関は交番と同じ構造だ。
今の子供は、住宅のスペースに。
駐在所は地元密着で、家族ごと住む。
間違っても、自分から望んで勤務する場所にあらず。
駐在所のドアが開かれ、警察官や高そうなスーツを着た連中が入ってきた。
狭いオフィスは、さらに狭く。
グループの1人を確認した途端に、お疲れ様です! と叫んだ警官が、直立不動で右手の敬礼。
気づいた警官たちも、それに倣う。
目を丸くする駐在所の中にいた市民に構わず、偉そうなスーツ男は近くの警官に話しかける。
「ここの担当は?」
「は、萩原巡査長であります!」
視線の先を見れば、まだ驚いている様子の警官。
「君か……。落ち着いて話せる部屋は?」
「ハッ! こ、こちらに取調室があります!」
20代半ばの萩原一吾郎は緊張しながら、駐在所のオフィスから繋がっている部屋に……。
無機質な部屋には、中央の事務デスクとパイプ椅子2つ。
壁ぎわに、様々な物品が置かれている。
「散らかっておりまして……。申し訳ありません!」
言われる前に、一吾郎が謝罪した。
壁に立てかけていたパイプ椅子を運ぶ。
「椅子は4人分だ。……諸君は、先ほどの場所で待機してくれ」
「「ハッ!」」
警察キャリアの言葉に、警官やスーツ姿の男たちがバッと会釈した後に、部屋から出ていった。
バタンと、閉められる。
一吾郎がパイプ椅子を並べた後に、立っていようと――
「ああ、君も座りたまえ! ……今回は、USFAの大使館にいる武官の方が依頼してきた」
事務デスクをはさみ、パイプ椅子に座った一吾郎は、無言で頷いた。
外国人の男は高級スーツを着たままで、微笑む。
「私は、ウォリナーと申します。……さっそくですが、本題に入ります。これを見てください」
握手のあとで事務デスクに置かれたのは、1人の少女の写真だ。
赤みがかった黄色で、長い髪。
グリーンの瞳と、童顔。
低身長で、胸もないことから、余計に幼く見えた。
けれど、大人びていて、女子中学生と思われる。
一吾郎は、顔を上げた。
「彼女は?」
「我々は、スティアと呼んでいます。先日の多冶山学園の事件に、彼女がいたようで……。USの人間ゆえ、保護したいのです」
行方不明者の捜索か……。
納得した一吾郎は、すぐに返事をする。
「分かりました! 彼女を発見したら……ご丁寧に、ありがとうございます」
差し出された名刺を受け取った一吾郎は、ひとまず事務デスクの上に置く。
「えっと……。ウォリナーさんに連絡するか――」
「US大使館でも、構いません。私から、話をしておきます」
首肯しつつも、他のパイプ椅子に座っている警察キャリアたちへ視線を移す。
……何の指摘もない。
それを確認した一吾郎は声に出して、確認する。
「この写真に写っている少女、スティアを見つけ次第、ウォリナーさんかUS大使館に連絡する。……間違いありませんね?」
「はい。その通りです」
ここで、警察キャリアが発言する。
「応援で警備している部隊には、こちらで通達しておく! 君は駐在所の責任者として、彼女の発見にも留意するように!」
「ハッ! 全力を尽くします!」
それにしても、何だ、これは?
いくらVIPの娘だろうが、これだけゾロゾロと、山奥まで……。
――我々は、スティアと呼んでいます
呼んでいます?
呼んでいますって、何だ!?
背筋が寒くなった一吾郎は、目の前にいるキャリアたちが早く出て行ってくれるよう、心の中で願った。
呼吸を整えながら、待つ。
明山神社にある板張りの舞台で立ったままの彼女たちに、見物客の拍手。
祀られている咲耶は父親と同じく、山の神様になるケースが多い。
ともあれ、朱美の見せ場は終わり、司会役のアナウンスで今の奉納演舞を解説する。
『ただいまの踊りは、当神社で祀っている神々に対する――』
同じ境内の末社である槇島神社。
その御神体となっている槇島睦月が、美須坂町を練り歩いた神輿の上で跳ね続けながら、戻ってきた後だ。
山奥にある限界集落の神社にしては、手際がよい進行。
以前に、睦月が槇島シスターズを呼び、ダンスショーを披露。
その教訓を活かし、SNSの告知と併せて、大勢を受け入れられる体制に……。
山の石段を上った先にある境内。
屋台が並び、制服の警備員や北稲原署の警備課(非番の有志を含む)による警備を実施中。
◇
地元の駐在所――警察官が自分の家族と住み込む――にいる巡査長たちは、交番と同じオフィスでひっきりなしに電話を受け、訪問者と向き合う。
「はい、美須坂駐在所です! ……分かりました。その件は――」
「次の方、どうぞ!」
応援の警察官は、だいたい格上。
彼らに気を遣いながら、自分の家族と総出で乗り切ろうとする巡査長。
「悪い! 母さんに、昼メシは10人分ぐらいでサッと食えるやつを頼む! コーヒーと洋菓子の準備もな?」
「うん、伝える!」
頷いたのは、巡査長の息子。
まだ幼児で、すぐに奥へ引っ込む。
ド田舎だけあって、昔ながらの平屋で、塀が囲む。
2階がない戸建てで、玄関は交番と同じ構造だ。
今の子供は、住宅のスペースに。
駐在所は地元密着で、家族ごと住む。
間違っても、自分から望んで勤務する場所にあらず。
駐在所のドアが開かれ、警察官や高そうなスーツを着た連中が入ってきた。
狭いオフィスは、さらに狭く。
グループの1人を確認した途端に、お疲れ様です! と叫んだ警官が、直立不動で右手の敬礼。
気づいた警官たちも、それに倣う。
目を丸くする駐在所の中にいた市民に構わず、偉そうなスーツ男は近くの警官に話しかける。
「ここの担当は?」
「は、萩原巡査長であります!」
視線の先を見れば、まだ驚いている様子の警官。
「君か……。落ち着いて話せる部屋は?」
「ハッ! こ、こちらに取調室があります!」
20代半ばの萩原一吾郎は緊張しながら、駐在所のオフィスから繋がっている部屋に……。
無機質な部屋には、中央の事務デスクとパイプ椅子2つ。
壁ぎわに、様々な物品が置かれている。
「散らかっておりまして……。申し訳ありません!」
言われる前に、一吾郎が謝罪した。
壁に立てかけていたパイプ椅子を運ぶ。
「椅子は4人分だ。……諸君は、先ほどの場所で待機してくれ」
「「ハッ!」」
警察キャリアの言葉に、警官やスーツ姿の男たちがバッと会釈した後に、部屋から出ていった。
バタンと、閉められる。
一吾郎がパイプ椅子を並べた後に、立っていようと――
「ああ、君も座りたまえ! ……今回は、USFAの大使館にいる武官の方が依頼してきた」
事務デスクをはさみ、パイプ椅子に座った一吾郎は、無言で頷いた。
外国人の男は高級スーツを着たままで、微笑む。
「私は、ウォリナーと申します。……さっそくですが、本題に入ります。これを見てください」
握手のあとで事務デスクに置かれたのは、1人の少女の写真だ。
赤みがかった黄色で、長い髪。
グリーンの瞳と、童顔。
低身長で、胸もないことから、余計に幼く見えた。
けれど、大人びていて、女子中学生と思われる。
一吾郎は、顔を上げた。
「彼女は?」
「我々は、スティアと呼んでいます。先日の多冶山学園の事件に、彼女がいたようで……。USの人間ゆえ、保護したいのです」
行方不明者の捜索か……。
納得した一吾郎は、すぐに返事をする。
「分かりました! 彼女を発見したら……ご丁寧に、ありがとうございます」
差し出された名刺を受け取った一吾郎は、ひとまず事務デスクの上に置く。
「えっと……。ウォリナーさんに連絡するか――」
「US大使館でも、構いません。私から、話をしておきます」
首肯しつつも、他のパイプ椅子に座っている警察キャリアたちへ視線を移す。
……何の指摘もない。
それを確認した一吾郎は声に出して、確認する。
「この写真に写っている少女、スティアを見つけ次第、ウォリナーさんかUS大使館に連絡する。……間違いありませんね?」
「はい。その通りです」
ここで、警察キャリアが発言する。
「応援で警備している部隊には、こちらで通達しておく! 君は駐在所の責任者として、彼女の発見にも留意するように!」
「ハッ! 全力を尽くします!」
それにしても、何だ、これは?
いくらVIPの娘だろうが、これだけゾロゾロと、山奥まで……。
――我々は、スティアと呼んでいます
呼んでいます?
呼んでいますって、何だ!?
背筋が寒くなった一吾郎は、目の前にいるキャリアたちが早く出て行ってくれるよう、心の中で願った。
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