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命懸けの刑事ごっこ-③

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 ユゴスの上位種、ユゴス・ロードは、RPGの中ボスのような人型で話し出す。

『ちょうど良かった! あのバカは、吹っ飛んだが。お前も――』
「日本警察を……舐めるな!」

 サブマシンガンの銃口を跳ね上げた加藤かとう源二げんじは、すぐ撃てる状態に。

 銃身の下にあるフラッシュライトが、2mぐらいのユゴス・ロードを照らし出す。

「ここで私を殺しても、お前に逃げ場はない! ウチだけでも、どれだけの数がいると思う!? 日本全国の警察もだ!! ……私たちに協力したほうが、身のためだぞ!」

 ハッタリだ。
 それでも、弱みを見せれば、とたんに襲われるだろう。

 震える両足を押さえつけ、射撃姿勢のままの源二は相手の出方を待つ。

 対するユゴス・ロードは――

『ハァ――ッ!』

 思いっきり、ため息を吐いた。

 付き合いきれない、とばかりに、オーバーリアクションで、頭を横に振る仕草。

『お前は……。まあ、いい……。そんなに刑事ごっこをしたければ、好きにしろ! ただし、我々はお前を待たないぞ?』
 
 銃口を向けたままの源二を見た後で、くるりと背中を見せる。

 ドシン ドシンと、重々しい音を立てて、ゆっくりと歩き去った。

『テケリリリ!』

 先ほどのユゴス・ロードらしき、鳴き声。

『テケリリ!』
『リウィー!』
『リリリリ!』

 応じるように、別の鳴き声が重なっていく。
 どれも心なしか、陽気な響きだ……。

 やがて、気配が消えた。

「見逃してもらった……のでしょう」

 汗でぐっしょりの源二は、ゆっくりと銃口を下ろした。

 ユゴス・ロードが立っていた場所を調べ始め、黒いゲルで汚れている床を漁り出す。

 やがて後ろを振り向き、命令する。

「ここが限界です! 別行動をしている1人を見つけて、警察がいる場所へ退避します!」


「先輩! 良かった。本当に良かった……」

 グラウンドの中央で体育座りをしていた春花は立ち上がり、同じく泣いている女子大生2人と抱き合う。

 その横では、県警に連絡する源二。


 彼らはグラウンドを通りすぎ、多冶山たじやま学園を後にした。

 夜は、まだ続いている。



 ――翌朝

 生還者からの情報で、集結した機動隊が慎重に突入。

 警告なしで発砲する態勢のまま、物量を活かす。


「君は本当に、自分のしたことが分かっているのかな!? ねえ?」
「すみません、すみません!」

「本来は拘置所に入ってもらい、この事件が終わるまでの取調べだよ!」
「は、はい……」

「加藤(巡査)部長が『任意で協力してもらった』と言うから、この程度なの! 次は、逮捕するからね?」
「わ、分かりました……」

 その一方で、バラバラに取調べをされた女子大生3人は、さんざんに説教された。

 当然ながら、撮影していたハンディカメラは証拠品として押収……ではなく、任意による提出だ。
 けれど、現地に入っていた刑事を助けたことで、かなりの温情。

 その裏には、これ以上のイメージダウンを防ぐため、ただの野次馬である女子大生3人を吊るし上げることは避けたい。という思惑も……。


 もぬけの殻になった学園は、警察が制圧。

『今後の捜査で、事実関係が明らかに――』

 翌日に、風向きがおかしくなる。

『多冶山学園の所有者である冷角れいすみ家が「確認をしたい」と主張しており、現場を保全している県警の立ち合いの下――』


 ――多冶山学園

 機動隊員が立ち並び、警察車両によるバリケード。

 物々しい雰囲気の中で、停車した高級車の後部座席から、同じく高そうなスーツを着た人物が降り立った。

 警察のキャリアが、頭を下げる。

「ご足労いただき、恐縮です」

 ――冷角先生

 代議士の冷角小刃斑こばむらも、頭を下げる。

「お疲れ様です……。今回は現場に立ち入らせていただき、感謝申し上げます」

「いえ、とんでもない! 私も本庁から、キツく言われておりまして……。そもそも、あなたが所有している土地ですから」

 ペコペコする、警察キャリア。

 お抱えの弁護士やカバン持ちと一緒に、目的地へ向かう小刃斑。
 警察の関係者も、同行する。

 校長室の前で、ピタリと立ち止まった。

「君たちは、席を外したまえ!」
「「ハッ!」」

 入口に立っていた機動隊員2名は、警察キャリアの命令で内廊下を歩き、視界から消えた。

 複数の鍵で扉を開いた小刃斑は、1人だけで入る。

 しばらく部屋を調べた後に、出てきた。

「後は、よろしくお願いします……」
「お任せください」

 警察キャリアは機動隊員を呼び戻し、再び見張るように命じた。


 一行は、理事長室の前で立ち止まった。
 同じように、小刃斑だけが中へ。

 小刃斑は役員机の引き出し、キャビネットなどを開け、資料を取り出した。
 ドサドサと積み上げ、金属のトレイに入れた後で、火をつける。
 灰になっていく、この学園の資料。

 それとは別で、壁に埋め込まれた金庫を開けた。

 しかし――

「ない? そんな……いや、すでに処分していたのなら――」
「せ、先生!」

 いきなり入ってきたのは、代々の付き合いがある顧問弁護士だ。

 ふうっと息を吐いた小刃斑に、彼が耳元でささやく。

(あ、あのリストが! ネットに出回っています!!)
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