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超新星(スーパーノヴァ)の爆発

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 真っ暗なグラウンドの中央。

 山吹やまぶき色のロングであるセーラー服のスティアは、女の子座りをしたままの春花はるかを見ていた。

 スティアが、手の平を耳に当てる。

「はい……カレナ? ……え? 重遠しげとおはまだ生まれ変わっていないの!? じゃあ、何で……ハーッ! そういうこと……うん、大丈夫。それはないから。じゃ!」

 虚空に話していたスティアは片手を下ろしつつ、ため息を吐いた。

 声をかけようとした春花は、いきなり出現した黄金の台座のような物体に、え? と絶句する。

 幼い女子中学生は、逃げ出してきた高等部の校舎を見た。
 春花も、釣られる。

 復活したのか、ドシンドシンという足音に、ウサギの着ぐるみの姿。

 春花はスティアのほうを見て、叫ぼうとするも――

 一筋の光が走った。

 ウサギの着ぐるみは後ろの校舎を突き破り、中へ叩き込まれた。
 その左右で、すさまじい突風が吹き荒れる。

 春花が見れば、スティアは前に突き出したこぶしを下ろすところ。
 その幼い顔に、怒りを示す。

「重遠がいないのに戻ってきた私の哀しみを知れ!」

 黄金の台座が複数の光となって、幼いスティアに降り注ぐ。
 胸部、腰、両手、両足、頭部と、黄金の鎧へ。
 頭のヘッドギアを最後に、全身が黄金に包まれた。

 ブーツと一体化した両足を動かせば、地面が削れる。
 拳法の構えのように、両手を動かす。
 周囲に神威が広がり、黄金のオーラが辺りを満たした。

 座ったまま、目を見張る春花。


「コズミック……エクスプロージョン!!」

 黄金の騎士となったスティアは、ガントレットで保護された拳を動かす。

 右拳がアッパーのように動き、彼女は上へ振り切ったままのポーズに。
 すると、彼女たちが見ている校舎に変化が起こった。

 高等部の校舎が下からまばゆい光に包まれ、天に昇っていくかのよう……。

 コンクリートや中の鉄筋までも、瞬時に溶かされていくように姿を消す。
 ウサギの着ぐるみと巣くっていた食屍鬼グールどもは、状況を理解する間もなく、消滅した。

 もはや、この世の物とは思えない光景だ。

 それを見守っていた春花は、思わずつぶやく。

「超新星(スーパーノヴァ)の爆発……」

 星を砕くか? と思われた光がおさまれば、高等部の校舎は影も形もなかった。
 その地面すら、大きくえぐれたまま。

 ガキィンッ! という金属音に、スティアを見れば、元のセーラー服だった。

「あなたは……いったい?」

 真っ暗なグラウンドに、グリーンの瞳。

「知らないほうがいいわよ? 『金星の女神』と言っても、どうせ信じないだろうし……」

 冗談なのか判断がつかずに、困る春花。

 立っているスティアは再び、エア電話を始めた。

「……ええ! 私も、別に面倒を見る気はないし、あとは本職に任せましょう!」

 片手を下ろしたスティアは、すたすたと歩き出す。

「あ、あの!?」

 地面に座ったままで片手を伸ばす春花に、スティアは立ち止まった。

 振り向きながら、告げる。

「もう大丈夫なはず……およ?」

 パパパと、軽い発砲音が続いた。

 マズルフラッシュか、小さな光も見える。

 場所は……中等部と初等部の合同校舎。

 別れた先輩2人の行方もあって不安になる春花だが、スティアは無責任に言う。

「今のは、よく分からないけど……。まあ、大丈夫でしょ! 残りの女子大生2人と合流したければ、ここで待ちなさい。それが嫌なら、あっちで警察に保護されるといいわ!」

 一方的に告げた後で、スティアは春花に背を向けて、歩き出した。

 さっきの今で、話しかけられる雰囲気ではない。


 発砲音があった暗い校舎を見ていたら、もう彼女の姿はない。

「……何だったのかな?」

 まるで、夢を見ているようだ。

 座り込んでいた春花は、ようやく立ち上がる。

 この世の地獄と思われた高等部の校舎は、すでに消えた。
 そちらを見るも、さっきまで存在したとは思えず。

 ふうっと、ため息を吐く。

「どうしようかな……」

 鉛のように、体が重い。
 走りっぱなしだから?
 先輩たちの安否は確認したいものの、また襲われるのは、嫌だ……。

 その場で座り込んだ春花は体育座りになって、中等部と初等部の合同校舎を眺める。

 真っ暗なグラウンドの中央に、ポツンといる女子大生。

「無事だと、いいな……」

 彼女が外から見守る中で、別行動の2人は危険に晒されていた。

 多冶山たじやま学園を巡る、一晩のバトルはいよいよ、佳境を迎える。
 その先に待つものは、いったい何だろうか?

 春花が命懸けで庇った、先輩2人。
 彼女たちは思わぬ人物と出会い、行動を共にしていた。

 女神であるカレナ、スティアには、ただの暇潰し。
 動画配信の女子大生3人も、招かれざる客。

 けれど、それとは違う人物が1人いる。

 現在が過去の積み重ねであれば、その清算も必要だ。
 突入する部隊がやってくるのは……早くて、明日の午前中。

 ここの県警が、決定的な場面に立ち会うことはないだろう。
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