32 / 67
退魔特務部隊が全滅するまでの軌跡-②
しおりを挟む
『撃て!』
パパパと、発砲音が重なった。
銃口のマズルフラッシュが、内廊下を照らす。
ゴムのような皮膚をした前屈みの男は、着弾の衝撃で踊る。
蹄のように割れている両足で立っていたが、ドサリと倒れた。
サブマシンガンを連射した2班は、アサルトスーツを着込んだまま、そいつに近づく。
『何だ、こいつは……』
『ひどい臭いだ……。クソでも食っているのかよ?』
『おい? そいつの顔を見せろ』
鈍器のようなブーツで蹴飛ばし、男の顔へ短機関銃の下につけたフラッシュライトの光を浴びせた。
これは、相手がまだ生きている場合の目潰しでもある。
『……犬だな』
『ああ、犬だ』
『2班より小隊長へ! 生存者1名と接触するも、鋭利な刃物で襲ってきて、やむなく射殺。……対象は男で、犬のような顔です。両手の鳥の足のようなカギ爪で引っかかれたものの、アサルトスーツによって無傷』
動画を見ていた室矢カレナは、ぼそりと呟く。
「食屍鬼ですね……。死肉だけを食べて、人と会話できる。まあ、この手のびっくり生物にしては温和な部類です。何しろ、銃で死にますから」
隣に座っている槇島睦月が、尋ねる。
「分かり合える?」
「彼らは腐った肉と排泄物を食べていますけど? それに、女と子供を作れます」
「滅ぼそう! 1匹、残らず……」
睦月は、即座に断言した。
いっぽう、高等部を調べている第二小隊は、切羽詰まった声。
『い、犬人間がどんどん増えています! 指示を!!』
『ちくしょう! 来るんじゃねえ!』
パパパパと、連射する音。
空薬莢が床に当たることで、キンキンという響きも……。
『小隊長より2班へ! よく聞こえない。繰り返せ!』
その無線を遮るように、泣くような叫び。
『ゴアアァアアッ!』
グールの群れは、仲間を殺されたことで怒り心頭のようだ。
「校舎が丸ごと、グールの家ですか……」
「高等部はこいつらの縄張りと……」
カレナと睦月は、他人事だ。
スナックを食べながら、感想を言い合った。
睦月は、疑問に思う。
「最初の人影は、普通の人間だった気がする」
「あれは、グールと協力関係にある発狂した人間か、外なる神を崇拝している狂信者でしょう」
その間にも動画は続き、校舎の内廊下を埋め尽くすほどのグールたち。
20匹はいる。
「ああ……。各個撃破されます」
「密着しての乱戦、この差では押さえ込まれる。終わったね?」
スポーツの試合を見ているかのように、カレナと睦月。
慌てて他の班が駆けつけるも、後の祭り。
一塊になったグールに吞み込まれ、バイザー付きのヘルメットやアサルトスーツなどが脱がされ、どんどん切り裂かれていく。
その悲鳴をバックに、睦月が提案する。
「パティシエのケーキがあるから、紅茶と一緒にいただく?」
「お願いします」
睦月は立ち上がり、台所ですぐに準備。
戻れば、ノートパソコンを弄るカレナ。
ケーキと紅茶のお盆を置いた睦月は、様子を尋ねる。
「どう?」
「第二小隊は全滅しました……。中等部と初等部は合同の校舎で、こちらはユゴス・ロードとユゴスの集団がいます」
第三小隊は、神話生物のユゴスと遭遇した。
平たく言えば、黒いスライム。
目や牙がある口を作れて、その他にも擬態できる。
「彼らは下っ端の奉仕種族です。小さな集団で、ひっそりと暮らしているらしく……」
カレナが説明している間に、ボディカメラで、前を歩く隊員が上から降ってきたユゴスに全身を包み込まれる映像。
『テケケ!』
ユゴスは、よく分からない声。
もがき苦しむ仲間に、他の隊員はどうしようもない。
「どこかのRPGのせいで、『スライムは弱い』となりましたが。実は、特定の方法でしか倒せない生物の1つです」
「触れられた時点でその部位を切り飛ばし、すぐ逃げるしかないね……」
睦月が指摘した通り、遭遇した時点で死を覚悟するレベル。
どれだけ銃弾を当てても、焼け石に水だ。
次々に呑み込まれ、溶かされていく。
睦月はケーキを食べながら、質問する。
「物理無効?」
「再生能力が異常です……。上位のユゴス・ロードもいますね?」
上位種のユゴス・ロードは、賢い。
指揮官に率いられたユゴスの群れでは、もはや勝ち目なし。
第三小隊は、訳が分からないまま、全滅。
次の映像は体育倉庫のような場所で、床の一部に隠された扉を持ち上げているところ。
『第四小隊は、発見した地下の通路に入ります』
『司令本部、了解! 無線が通じない可能性が高いため、独自の判断を許可する』
『よし、行くぞ?』
先頭がフラッシュライトをつけた短機関銃を構えたまま、短い階段を下りた。
後ろに肩を叩かれた後で、ゆっくり歩き出す。
フ――ッ フ――ッ と、呼吸の音。
丸い光が歩くたびに揺れて、真っ暗な通路を照らし出す。
コンクリートを踏みしめる、ジャリッという足音が、一列で続く。
『どこへ通じている?』
『コンパスによれば、第三小隊が担当している中等部と初等部の校舎だ……』
『わざわざ隠しているってことは、秘密の場所に出られるかもな?』
『内山? お前、大丈夫か? 急に立ちくらみがしたって――』
『大丈夫だ! その校舎にあるカーテンが閉められた窓を見て、急に力が抜けただけで。今は問題ない』
「もうすぐ……。その相手に会えますよ?」
動画を見ているカレナは笑顔のまま、紅茶を飲んだ。
パパパと、発砲音が重なった。
銃口のマズルフラッシュが、内廊下を照らす。
ゴムのような皮膚をした前屈みの男は、着弾の衝撃で踊る。
蹄のように割れている両足で立っていたが、ドサリと倒れた。
サブマシンガンを連射した2班は、アサルトスーツを着込んだまま、そいつに近づく。
『何だ、こいつは……』
『ひどい臭いだ……。クソでも食っているのかよ?』
『おい? そいつの顔を見せろ』
鈍器のようなブーツで蹴飛ばし、男の顔へ短機関銃の下につけたフラッシュライトの光を浴びせた。
これは、相手がまだ生きている場合の目潰しでもある。
『……犬だな』
『ああ、犬だ』
『2班より小隊長へ! 生存者1名と接触するも、鋭利な刃物で襲ってきて、やむなく射殺。……対象は男で、犬のような顔です。両手の鳥の足のようなカギ爪で引っかかれたものの、アサルトスーツによって無傷』
動画を見ていた室矢カレナは、ぼそりと呟く。
「食屍鬼ですね……。死肉だけを食べて、人と会話できる。まあ、この手のびっくり生物にしては温和な部類です。何しろ、銃で死にますから」
隣に座っている槇島睦月が、尋ねる。
「分かり合える?」
「彼らは腐った肉と排泄物を食べていますけど? それに、女と子供を作れます」
「滅ぼそう! 1匹、残らず……」
睦月は、即座に断言した。
いっぽう、高等部を調べている第二小隊は、切羽詰まった声。
『い、犬人間がどんどん増えています! 指示を!!』
『ちくしょう! 来るんじゃねえ!』
パパパパと、連射する音。
空薬莢が床に当たることで、キンキンという響きも……。
『小隊長より2班へ! よく聞こえない。繰り返せ!』
その無線を遮るように、泣くような叫び。
『ゴアアァアアッ!』
グールの群れは、仲間を殺されたことで怒り心頭のようだ。
「校舎が丸ごと、グールの家ですか……」
「高等部はこいつらの縄張りと……」
カレナと睦月は、他人事だ。
スナックを食べながら、感想を言い合った。
睦月は、疑問に思う。
「最初の人影は、普通の人間だった気がする」
「あれは、グールと協力関係にある発狂した人間か、外なる神を崇拝している狂信者でしょう」
その間にも動画は続き、校舎の内廊下を埋め尽くすほどのグールたち。
20匹はいる。
「ああ……。各個撃破されます」
「密着しての乱戦、この差では押さえ込まれる。終わったね?」
スポーツの試合を見ているかのように、カレナと睦月。
慌てて他の班が駆けつけるも、後の祭り。
一塊になったグールに吞み込まれ、バイザー付きのヘルメットやアサルトスーツなどが脱がされ、どんどん切り裂かれていく。
その悲鳴をバックに、睦月が提案する。
「パティシエのケーキがあるから、紅茶と一緒にいただく?」
「お願いします」
睦月は立ち上がり、台所ですぐに準備。
戻れば、ノートパソコンを弄るカレナ。
ケーキと紅茶のお盆を置いた睦月は、様子を尋ねる。
「どう?」
「第二小隊は全滅しました……。中等部と初等部は合同の校舎で、こちらはユゴス・ロードとユゴスの集団がいます」
第三小隊は、神話生物のユゴスと遭遇した。
平たく言えば、黒いスライム。
目や牙がある口を作れて、その他にも擬態できる。
「彼らは下っ端の奉仕種族です。小さな集団で、ひっそりと暮らしているらしく……」
カレナが説明している間に、ボディカメラで、前を歩く隊員が上から降ってきたユゴスに全身を包み込まれる映像。
『テケケ!』
ユゴスは、よく分からない声。
もがき苦しむ仲間に、他の隊員はどうしようもない。
「どこかのRPGのせいで、『スライムは弱い』となりましたが。実は、特定の方法でしか倒せない生物の1つです」
「触れられた時点でその部位を切り飛ばし、すぐ逃げるしかないね……」
睦月が指摘した通り、遭遇した時点で死を覚悟するレベル。
どれだけ銃弾を当てても、焼け石に水だ。
次々に呑み込まれ、溶かされていく。
睦月はケーキを食べながら、質問する。
「物理無効?」
「再生能力が異常です……。上位のユゴス・ロードもいますね?」
上位種のユゴス・ロードは、賢い。
指揮官に率いられたユゴスの群れでは、もはや勝ち目なし。
第三小隊は、訳が分からないまま、全滅。
次の映像は体育倉庫のような場所で、床の一部に隠された扉を持ち上げているところ。
『第四小隊は、発見した地下の通路に入ります』
『司令本部、了解! 無線が通じない可能性が高いため、独自の判断を許可する』
『よし、行くぞ?』
先頭がフラッシュライトをつけた短機関銃を構えたまま、短い階段を下りた。
後ろに肩を叩かれた後で、ゆっくり歩き出す。
フ――ッ フ――ッ と、呼吸の音。
丸い光が歩くたびに揺れて、真っ暗な通路を照らし出す。
コンクリートを踏みしめる、ジャリッという足音が、一列で続く。
『どこへ通じている?』
『コンパスによれば、第三小隊が担当している中等部と初等部の校舎だ……』
『わざわざ隠しているってことは、秘密の場所に出られるかもな?』
『内山? お前、大丈夫か? 急に立ちくらみがしたって――』
『大丈夫だ! その校舎にあるカーテンが閉められた窓を見て、急に力が抜けただけで。今は問題ない』
「もうすぐ……。その相手に会えますよ?」
動画を見ているカレナは笑顔のまま、紅茶を飲んだ。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる