30 / 67
敵との遭遇
しおりを挟む
『東京の一極集中をなくし、このエリアを新たな中心とするべく――』
とあるイベントで、政治家の主張が流れている。
壇上で演説しているのは、地元出身の代議士だ。
どうやら国会でも、それなりに発言力があるとか……。
まだ30代の若手であるのに、頼もしい限り。
言うまでもなく二世議員だが、そのわりには腰が低い。
『この北稲原町を始めとする御田木市の皆様には、日頃から温かいご支援をいただき、誠にありがとうございます!』
パチパチパチパチ
『私の冷角家は、古くから教育に携わっています。そちらの分野でも国会で意見を述べるために粉骨砕身の気概です。そちらに滞在している間はそれぞれの先生と意見を交わしながらも、東京に本社がある企業への訪問――』
よく晴れている、週末。
空調が利いた市民ホールの観客席には、多くの人が詰めかけている。
“冷角小刃斑”
政治離れが進んでいる現代でこれだけの集客があるとは、人望がある代議士だ。
その一角には、場違いな女子高生たちの姿も……。
『お集りの方々の中には高校生のグループも、いらっしゃるようですね? その年齢から政治に関心を持たれるとは、御田木市のお子さんは将来有望で羨ましい限り……』
篠ノ里高校のセーラー服。
彼女たちも、地元を良くするため――
(ごめんね、カレナ! 終わったら、スイーツでも奢るから)
(別に、いいですよ……)
よく見れば、佳鏡優希と室矢カレナの2人。
今の会話から察するに、親が市議で、その付き合いのようだ。
ある程度はいないと先生のメンツに関わるため、よくある話。
他にも県庁、市役所と、関係者が動員されているのだろう。
今回は地元の人々に応援されている図式だから、いつぞやのように、篠里だからと馬鹿にされず。
他人とは、勝手なものだ……。
明るいステージで熱弁をふるう、小刃斑。
カレナたちは、どこ吹く風。
小声で話し合っていたら、そこに割り込む、男の声。
(ちょっと……いいですかな?)
暗がりで観客席に座ったまま、2人は横を見た。
ここは出入りしやすい、後ろの壁際。
通路を兼ねた外側にカレナが座り、その隣に優希がいる。
立っている男と接するカレナが座ったままで、ジッと見た。
(何でしょう?)
よく見れば、スーツ姿で恰幅はいいものの白髪。
老人と言える男は鋭い眼光のまま、笑顔を作った。
(いえ、たいした用事では……。多冶山学園……。あなたは、どう思います?)
(やはり、許せないですか?)
質問で返された老人は言葉に詰まり、ステージで話し続ける小刃斑を見た。
視線を戻す。
緊張した様子で、問いかける。
(私を止めると?)
老人に釣られて、壇上を見ていたカレナは、同じく見返す。
手品のごとく、左手の指の間に1枚のタロットカードを挟む。
驚く老人に、そのカードを示す。
(審判、ジャッジメントの正位置です……)
まるで演劇のように、その先をステージ上へ向けた。
訳が分からない優希に対して、老人は押し殺した笑い声。
(クックッククク……。いいね! 最高だよ、あんた……)
その時に、会場の警備員が近寄ってきた。
進行を邪魔しないよう、小声で話しかけてくる。
「失礼ですが――」
真顔になった老人は内ポケットから手帳を取り出し、上下に開いた。
“巡査部長 加藤源二”
その下には、お馴染みの警察バッチ。
これだけの暗がりでも、その輝きは健在だ。
「し、失礼しました!」
ギョッとした警備員は思わず、右手で敬礼。
「はい、ご苦労さん……」
優しい笑顔になった源二は警察手帳を仕舞い、その場を後にした。
警備員が配置に戻り、周囲からの注目もなくなった。
心配した優希は、隣のカレナに話しかける。
(だ、大丈夫? ひょっとして、知り合い? ……それ、何?)
(まあ、似たようなものです……。これは、とあるデータ)
答えたカレナは、さっきの老人から渡されたメモリを手にしつつ、まだ聞きたそうな優希の耳元で囁く。
(今回は危険なヤマだから、私と睦月で処理します。……美須坂町の防衛を含めて、何とかしましょう)
(私たちも……いたら、迷惑か! ハハハ……。うん、分かった)
暗がりで、カレナは微笑んだ。
(たいした話ではありません……)
顔を赤くした優希が、文句を言う。
(信じるよ……。だけどさ? 色気たっぷりに囁くのは、止めてくれない? それとも、カレナはそっち系?)
(私は、男が好きですよ?)
ジト目の優希に構わず、カレナは片手のメモリを弄る。
壇上ではようやく、一通りのプログラムが終わったようだ。
最後に、主役である冷角小刃斑が別れの挨拶。
『この出会いを力に変えて、より一層の――』
パチパチパチ
『以上をもちまして、終了といたします! 皆さま、お疲れ様でした。お忘れ物をなさいませんよう――』
市民ホールに、照明がつく。
「終了? フフッ……。ようやく、幕が上がったのですよ?」
カレナは、おかしそうに笑った。
明るい外へ出たカレナは、手の中のメモリを見たまま、呟く。
「誰が気づかずとも、世界の理から外れた者がいます。彼は……誰が相手をするべきでしょうか?」
カレナは一点を見つめた後で、合流した優希に視線を向ける。
「では、話題のスイーツ店へ行きましょうか?」
苦笑した優希は、返事をする。
「お、お手柔らかにね? あんまり、お小遣いに余裕がなくて……」
とあるイベントで、政治家の主張が流れている。
壇上で演説しているのは、地元出身の代議士だ。
どうやら国会でも、それなりに発言力があるとか……。
まだ30代の若手であるのに、頼もしい限り。
言うまでもなく二世議員だが、そのわりには腰が低い。
『この北稲原町を始めとする御田木市の皆様には、日頃から温かいご支援をいただき、誠にありがとうございます!』
パチパチパチパチ
『私の冷角家は、古くから教育に携わっています。そちらの分野でも国会で意見を述べるために粉骨砕身の気概です。そちらに滞在している間はそれぞれの先生と意見を交わしながらも、東京に本社がある企業への訪問――』
よく晴れている、週末。
空調が利いた市民ホールの観客席には、多くの人が詰めかけている。
“冷角小刃斑”
政治離れが進んでいる現代でこれだけの集客があるとは、人望がある代議士だ。
その一角には、場違いな女子高生たちの姿も……。
『お集りの方々の中には高校生のグループも、いらっしゃるようですね? その年齢から政治に関心を持たれるとは、御田木市のお子さんは将来有望で羨ましい限り……』
篠ノ里高校のセーラー服。
彼女たちも、地元を良くするため――
(ごめんね、カレナ! 終わったら、スイーツでも奢るから)
(別に、いいですよ……)
よく見れば、佳鏡優希と室矢カレナの2人。
今の会話から察するに、親が市議で、その付き合いのようだ。
ある程度はいないと先生のメンツに関わるため、よくある話。
他にも県庁、市役所と、関係者が動員されているのだろう。
今回は地元の人々に応援されている図式だから、いつぞやのように、篠里だからと馬鹿にされず。
他人とは、勝手なものだ……。
明るいステージで熱弁をふるう、小刃斑。
カレナたちは、どこ吹く風。
小声で話し合っていたら、そこに割り込む、男の声。
(ちょっと……いいですかな?)
暗がりで観客席に座ったまま、2人は横を見た。
ここは出入りしやすい、後ろの壁際。
通路を兼ねた外側にカレナが座り、その隣に優希がいる。
立っている男と接するカレナが座ったままで、ジッと見た。
(何でしょう?)
よく見れば、スーツ姿で恰幅はいいものの白髪。
老人と言える男は鋭い眼光のまま、笑顔を作った。
(いえ、たいした用事では……。多冶山学園……。あなたは、どう思います?)
(やはり、許せないですか?)
質問で返された老人は言葉に詰まり、ステージで話し続ける小刃斑を見た。
視線を戻す。
緊張した様子で、問いかける。
(私を止めると?)
老人に釣られて、壇上を見ていたカレナは、同じく見返す。
手品のごとく、左手の指の間に1枚のタロットカードを挟む。
驚く老人に、そのカードを示す。
(審判、ジャッジメントの正位置です……)
まるで演劇のように、その先をステージ上へ向けた。
訳が分からない優希に対して、老人は押し殺した笑い声。
(クックッククク……。いいね! 最高だよ、あんた……)
その時に、会場の警備員が近寄ってきた。
進行を邪魔しないよう、小声で話しかけてくる。
「失礼ですが――」
真顔になった老人は内ポケットから手帳を取り出し、上下に開いた。
“巡査部長 加藤源二”
その下には、お馴染みの警察バッチ。
これだけの暗がりでも、その輝きは健在だ。
「し、失礼しました!」
ギョッとした警備員は思わず、右手で敬礼。
「はい、ご苦労さん……」
優しい笑顔になった源二は警察手帳を仕舞い、その場を後にした。
警備員が配置に戻り、周囲からの注目もなくなった。
心配した優希は、隣のカレナに話しかける。
(だ、大丈夫? ひょっとして、知り合い? ……それ、何?)
(まあ、似たようなものです……。これは、とあるデータ)
答えたカレナは、さっきの老人から渡されたメモリを手にしつつ、まだ聞きたそうな優希の耳元で囁く。
(今回は危険なヤマだから、私と睦月で処理します。……美須坂町の防衛を含めて、何とかしましょう)
(私たちも……いたら、迷惑か! ハハハ……。うん、分かった)
暗がりで、カレナは微笑んだ。
(たいした話ではありません……)
顔を赤くした優希が、文句を言う。
(信じるよ……。だけどさ? 色気たっぷりに囁くのは、止めてくれない? それとも、カレナはそっち系?)
(私は、男が好きですよ?)
ジト目の優希に構わず、カレナは片手のメモリを弄る。
壇上ではようやく、一通りのプログラムが終わったようだ。
最後に、主役である冷角小刃斑が別れの挨拶。
『この出会いを力に変えて、より一層の――』
パチパチパチ
『以上をもちまして、終了といたします! 皆さま、お疲れ様でした。お忘れ物をなさいませんよう――』
市民ホールに、照明がつく。
「終了? フフッ……。ようやく、幕が上がったのですよ?」
カレナは、おかしそうに笑った。
明るい外へ出たカレナは、手の中のメモリを見たまま、呟く。
「誰が気づかずとも、世界の理から外れた者がいます。彼は……誰が相手をするべきでしょうか?」
カレナは一点を見つめた後で、合流した優希に視線を向ける。
「では、話題のスイーツ店へ行きましょうか?」
苦笑した優希は、返事をする。
「お、お手柔らかにね? あんまり、お小遣いに余裕がなくて……」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ようこそ奴隷パーティへ!
ちな
ファンタジー
ご主人様に連れられて出向いた先は数々のパフォーマンスやショーが繰り広げられる“奴隷パーティ”!? 招待状をもらった貴族だけが参加できるパーティで起こるハプニングとは──
☆ロリ/ドS/クリ責め/羞恥/言葉責め/鬼畜/快楽拷問/連続絶頂/機械姦/拘束/男尊女卑描写あり☆
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる