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第一章 ド田舎は馴染むまで大変!
地元を牛耳る者たち
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「本日は、地元の名士が集うパーティーでして……。出入りのレンタル業者がいますから、お召し物をドレスに――」
「必要ありません。招待状を示したうえ、制服も正装だと思いましたが?」
控え部屋でソファーに座っている室矢カレナの言葉に、氷山花家のメイドが、失礼しましたと引き下がる。
ガチャッと、外から施錠されたことで、カレナは立ち上がった。
「やあ、お待たせ! 今日は、来てくれて嬉しいよ。僕がエスコートするから、やっぱり、ドレスに着替え……おい? どこへ行った!?」
笑顔で入ってきた氷山花鷹侍は険しい顔になり、お付きを問い質した。
――パーティー会場
ホールになっており、立食の形式だ。
すでに礼服を着た人が詰めていて、グラスを片手に、それぞれ談笑中。
篠ノ里高校のセーラー服でうろつくカレナに眉を顰める紳士、淑女も。
「篠里が、こんな場所に……」
「嫌ですわ。早く、どこかへ行ってくれないかしら?」
「やめなさい! 彼女は、ボランティアの手伝いさ」
聞こえるように、わざと言っている。
ここは、地元の支配者たちの宴。
偏差値が低く、評判が悪い高校の生徒がいれば、さもありなん。
カレナは全く気にせず、会場を横断した。
すると、1人のスーツ男が、声をかけてくる。
「君が、室矢さん? 鷹侍くんに呼ばれたのかな?」
そちらを見れば、ニコニコしている、優しそうな男。
カレナは、あっさりと返す。
「ええ、そうですよ。県警本部、刑事部で取調べが得意な三原巡査部長……。前に担当した刑事がポンコツ過ぎたから、腕利きを出してきたので?」
目を見開いた男は、すぐに答える。
「驚いたな! 初対面で、まだ来たばかりの君に見破られるとは……。それも、君の能力かい?」
「答える必要はあります?」
首を横に振った三原は、苦笑した。
「別にないよ……。君の取調べを担当した北稲原署の河守さんも、悪気があったわけじゃないから」
言外で、あまりイジメないでやって、という刑事に、カレナは返事をする。
「犯罪者は皆、そう言いますね? 『そんなつもりじゃなかった』と……」
困った顔の三原は、挑発に応じない。
代わりに、名刺入れで抜いた1枚を差し出す。
「良かったら、だけど……」
カレナはあっさりと受け取って、自分のケースに仕舞う。
唖然とした三原は、後頭部を掻きつつ、少しだけ素の顔を見せる。
「これは、調子が狂うわけだ。まあ、困ったら気軽に連絡してよ! 本部勤務だから、多少は顔が利く。……今日のパーティーでは、どんな手品を見せてくれるのかな?」
どうやら、カレナの思考を読みづらいようだ。
それに対して、本人が答える。
「現市長の不正の摘発……と言ったら、面白いですか? フフ、冗談ですよ! 黒い部分がない政治家はいません。それにしても、警察とそっち系が仲良くいるのですね?」
カレナの視線の先には、正装を着込んだ、鋭い目つきの男たち。
慌てた三原は、降参する。
「もう勘弁して! じゃ、僕は警備に戻るから……」
「む、室矢さま! 鷹侍さまがお呼びです! どうぞ、こちらへ!!」
よほど慌てているのか、周囲の目を気にせず、執事の1人が小走りでやってきた。
息を吐いたカレナは、視線を集めながら、案内に従う。
『本日はお忙しい中、お集まりいただき、誠にありがとうございます! 最初にこのパーティーの主催者である氷山花市長から、お言葉を――』
『えー。市長の氷山花です……。この度は紳士淑女の皆様とお会いできて、大変嬉しく存じます。御田木市の益々の発展を願い――』
くだらない……。
カレナの心情は、それだけ。
「大丈夫! 僕がついているから、安心して――」
役者が出るタイミングを窺うための舞台袖。
市長の息子である鷹侍が、タキシードで隣にいる。
さり気なく、手で触れてきたから、その前に躱した。
顔を歪めた鷹侍は、一切見ない。
底辺高校のセーラー服を着ているカレナは、明るいステージにいる氷山花市長のほうを向く。
『今日は皆様に、ご報告させていただきたいことが……。ご存じの通り、不肖の息子である鷹侍は『室矢』の1人です! 非能力者の代表として! 次代を担う若人として! 御田木市の明るい未来のため! 親の私を超えるべく、日々、邁進している次第です。そして、今日! その息子にふさわしいパートナーをご紹介したく……』
政治家らしい演説をしていた氷山花市長は、思わぬ乱入者に、演壇の上のマイクから手を離した。
その女子高生は毅然としたまま、命じる。
「退きなさい……。私が喋ります」
室矢カレナは、このパーティー会場で最も低い序列のセーラー服のまま、再び表舞台に立った。
いっぽう、氷山花市長も、さる者。
『おお! ちょうど、紹介したい人物が来たようですね。……もう1人の室矢さんに、自己紹介をしてもらいます!』
舞台袖にいる息子を見たが、そちらはタイミングを逸し、陰になっている部分で立ちすくむだけ。
あいつはまだまだ、度胸が足りんな……。
そう思った氷山花市長は、笑顔で、カレナに席を譲った。
指示を与えるため、息子がいる舞台袖へ退避する。
演壇に立ったカレナは、パーティー会場から降り注ぐ、好悪や興味本位の視線を浴びつつ、卓上のマイクを握った。
『私は……室矢カレナです。初代当主である室矢重遠の妻の1人であり、その式神だったもの……。さらに――』
ユニオンの公爵令嬢にしてナイト、『ブリテン諸島の黒真珠』でもあります。
カレナの発言を聞いた者たちは、信じられない、という表情ばかりだ。
「必要ありません。招待状を示したうえ、制服も正装だと思いましたが?」
控え部屋でソファーに座っている室矢カレナの言葉に、氷山花家のメイドが、失礼しましたと引き下がる。
ガチャッと、外から施錠されたことで、カレナは立ち上がった。
「やあ、お待たせ! 今日は、来てくれて嬉しいよ。僕がエスコートするから、やっぱり、ドレスに着替え……おい? どこへ行った!?」
笑顔で入ってきた氷山花鷹侍は険しい顔になり、お付きを問い質した。
――パーティー会場
ホールになっており、立食の形式だ。
すでに礼服を着た人が詰めていて、グラスを片手に、それぞれ談笑中。
篠ノ里高校のセーラー服でうろつくカレナに眉を顰める紳士、淑女も。
「篠里が、こんな場所に……」
「嫌ですわ。早く、どこかへ行ってくれないかしら?」
「やめなさい! 彼女は、ボランティアの手伝いさ」
聞こえるように、わざと言っている。
ここは、地元の支配者たちの宴。
偏差値が低く、評判が悪い高校の生徒がいれば、さもありなん。
カレナは全く気にせず、会場を横断した。
すると、1人のスーツ男が、声をかけてくる。
「君が、室矢さん? 鷹侍くんに呼ばれたのかな?」
そちらを見れば、ニコニコしている、優しそうな男。
カレナは、あっさりと返す。
「ええ、そうですよ。県警本部、刑事部で取調べが得意な三原巡査部長……。前に担当した刑事がポンコツ過ぎたから、腕利きを出してきたので?」
目を見開いた男は、すぐに答える。
「驚いたな! 初対面で、まだ来たばかりの君に見破られるとは……。それも、君の能力かい?」
「答える必要はあります?」
首を横に振った三原は、苦笑した。
「別にないよ……。君の取調べを担当した北稲原署の河守さんも、悪気があったわけじゃないから」
言外で、あまりイジメないでやって、という刑事に、カレナは返事をする。
「犯罪者は皆、そう言いますね? 『そんなつもりじゃなかった』と……」
困った顔の三原は、挑発に応じない。
代わりに、名刺入れで抜いた1枚を差し出す。
「良かったら、だけど……」
カレナはあっさりと受け取って、自分のケースに仕舞う。
唖然とした三原は、後頭部を掻きつつ、少しだけ素の顔を見せる。
「これは、調子が狂うわけだ。まあ、困ったら気軽に連絡してよ! 本部勤務だから、多少は顔が利く。……今日のパーティーでは、どんな手品を見せてくれるのかな?」
どうやら、カレナの思考を読みづらいようだ。
それに対して、本人が答える。
「現市長の不正の摘発……と言ったら、面白いですか? フフ、冗談ですよ! 黒い部分がない政治家はいません。それにしても、警察とそっち系が仲良くいるのですね?」
カレナの視線の先には、正装を着込んだ、鋭い目つきの男たち。
慌てた三原は、降参する。
「もう勘弁して! じゃ、僕は警備に戻るから……」
「む、室矢さま! 鷹侍さまがお呼びです! どうぞ、こちらへ!!」
よほど慌てているのか、周囲の目を気にせず、執事の1人が小走りでやってきた。
息を吐いたカレナは、視線を集めながら、案内に従う。
『本日はお忙しい中、お集まりいただき、誠にありがとうございます! 最初にこのパーティーの主催者である氷山花市長から、お言葉を――』
『えー。市長の氷山花です……。この度は紳士淑女の皆様とお会いできて、大変嬉しく存じます。御田木市の益々の発展を願い――』
くだらない……。
カレナの心情は、それだけ。
「大丈夫! 僕がついているから、安心して――」
役者が出るタイミングを窺うための舞台袖。
市長の息子である鷹侍が、タキシードで隣にいる。
さり気なく、手で触れてきたから、その前に躱した。
顔を歪めた鷹侍は、一切見ない。
底辺高校のセーラー服を着ているカレナは、明るいステージにいる氷山花市長のほうを向く。
『今日は皆様に、ご報告させていただきたいことが……。ご存じの通り、不肖の息子である鷹侍は『室矢』の1人です! 非能力者の代表として! 次代を担う若人として! 御田木市の明るい未来のため! 親の私を超えるべく、日々、邁進している次第です。そして、今日! その息子にふさわしいパートナーをご紹介したく……』
政治家らしい演説をしていた氷山花市長は、思わぬ乱入者に、演壇の上のマイクから手を離した。
その女子高生は毅然としたまま、命じる。
「退きなさい……。私が喋ります」
室矢カレナは、このパーティー会場で最も低い序列のセーラー服のまま、再び表舞台に立った。
いっぽう、氷山花市長も、さる者。
『おお! ちょうど、紹介したい人物が来たようですね。……もう1人の室矢さんに、自己紹介をしてもらいます!』
舞台袖にいる息子を見たが、そちらはタイミングを逸し、陰になっている部分で立ちすくむだけ。
あいつはまだまだ、度胸が足りんな……。
そう思った氷山花市長は、笑顔で、カレナに席を譲った。
指示を与えるため、息子がいる舞台袖へ退避する。
演壇に立ったカレナは、パーティー会場から降り注ぐ、好悪や興味本位の視線を浴びつつ、卓上のマイクを握った。
『私は……室矢カレナです。初代当主である室矢重遠の妻の1人であり、その式神だったもの……。さらに――』
ユニオンの公爵令嬢にしてナイト、『ブリテン諸島の黒真珠』でもあります。
カレナの発言を聞いた者たちは、信じられない、という表情ばかりだ。
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